始発電車

些稚絃羽

始発電車

始発の電車に乗り込んだ
疎らにしか埋まっていない車内に
座れる席を探すのはあまりにも容易で
こんなもんなのかなって乾いた笑いが出た
発車のベルがやけに耳障りで
聞こえないようにイヤホンをはめ直した

ゆっくりとしたスピードで電車は進み始める

メロディーに乗って耳に流れ込む言葉達は
好きなものばかりだった筈なのに
今はどれも白々しくて結局外してしまった

電車はマニュアル通りに僕を街から遠ざける

これが僕の意思だったのに
乗り込むまでは確かに僕の意思だったのに
今にも何かが込み上げそうになるのは
僕が弱いからだろうか

少しずつ少しずつ車窓は街並みを変えていく

泣かなかったのかい、強いね
いつかの言葉が蘇る
塞き止めていた雫は耐え切れなくて流れ落ちた
強くなかったよ
泣いちゃったよ
もう戻れないんだね

明日から泣かないから
明日から強くなるから
だから今日だけ、弱い僕を許して

電車は緩やかにスピードを落とし新たな街へと僕を誘う



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