愛おしい命との向き合い方。
愛おしい命との向き合い方。
 死とは…生まれ出でるときに、すでに運命付けられているもの。
 生を受けた時には、死へのカウントダウンは始まるのだと…聞いたことがある。
 それは、不平等な生きざまと違い、平等に訪れるものだと言う。
 でも、平等に訪れるのはありがたい。
 しかし…自分自身ならともかく、大切な存在である奪い取られる立場ほど辛く苦しく、自分の無力感を思い知らされるものはない。
 去年梅雨…私は、一つの命を受け取った…拾った。
 解っている。
 父にも、獣医にも怒られた。
 野性の生き物の雛を、安易に拾うなと…。
 蟻にたかられ、冷たいセメントの床でうずくまるつばめのひな…もう死んでいるのか…と思っていると、
 チィ…
と鳴いた。
 その瞬間、腹をくくった。
 この子は私の子だと…私が助けるのだと…。
 梅雨の冷たい中…、蟻を払い、ハンドタオルに包み、病院に連れていき、説教を受け、それでも抵抗した。
 この子は私の子だから、絶対に守るのだと。
 すり餌に、水に…世話をした。
 寝るのも我慢して…しかし不眠症だった自分が珍しくとろとろと2時間寝ている間に…一人あの世に旅立っていった。
 拾った日はひどい雨の日で、底冷えするような寒い日だったので、これから、元気になって、明るい日向で遊べるように…と『ひなた』とつけた。
 ひなたの遺骸を持ち、睡眠導入剤を飲んでフラフラ状態のまま…一人朝まで歩き回り…朝戻ったときには、手は汚れ、ていた…どこかに埋めたらしい…。
 薬を飲まなければ…自分が付いていれば…責めた。
 しかし、山育ちの父は、命についてもっと厳しい。
「お前は、どうして、自分が辛い事を、自分に課すんだ。お前は体を悪くしているんだ!!自分のことばかりで精一杯なんだぞ!!どうして、命の重みを死ぬとわかっていながら、その死を、自分の責任だと受け止めようとするんだ!!」
と、怒った。
「お前は、お前にだけは厳しすぎる!!他には、あんなに甘やかして!!どうするんぞ!!お前が、そこまで必死になって守ったのはなんぞ!!お前が守ったのは、身勝手で、我が儘で、お前の病気を知って見棄てようとする、奴等だけだろうが!!」
 知っている。
 父や、兄弟、そして兄嫁の家族は私を普通に一個の人間としてみてくれるし、話をしてくれる。
父方の親族も…。
 でも、実家に居座る母の姉妹や、事情も知らない癖に、叔母たちにありもしないでっち上げた嘘によって色眼鏡で見るようになった親族は、時々会っても、知らぬ振りをする。
 こちらは必死に、痛みと苦しみを振り絞って笑っても…後で、叔母に怒鳴り込まれる。
「あんた!!叔母さんを睨んだって!?何かんがえとるんよ!!挨拶するのが筋でしょう!!」
「こんにちはって、頭下げたよ…向こうが無視したんだもん…知らないよ…」
「嘘をつくな!!この恥知らず!!この家に、あんたみたいな子ができるはずがないんだから!!あんたは、向こうの人間や!!名字を名乗るな!!」
とまで言われた。
 自分だって、名乗りたくはない。
 何が嬉しくて、めんどくさい、一度で呼んでくれた試しのないうざったい名字を口にしなくてはいけないのか。
 自分の方が遠慮したい。
 しかし、名字を変えるなら結婚か何処かに養子か…誰も、引き受けてくれないだろうなと、自嘲する。
 ボロボロの自分を、父と兄と弟が…家から出ていって、一人で住めと勧めた。
 借金に、ボロボロの体に、生きているだけの無気力な自分に…突きつけられたのは、生活保護と言う方法。
 そして、冷蔵庫もなく、あるのは、脱水しかできない洗濯機に、コンロに電子湯沸し器。壊れかけのタンス…。
 敷布団もなく、掛け布団二枚と、残されたのは、本。
 途方にくれた。
 私は、皆にこんな風に置き去りにされるほど、嫌われていたのか?
 愛されて…いないのか、憎まれていたのか…。
 縫いぐるみを抱き、声を殺して泣きながら、自分の今までの努力は、なんだったのか…私は、何度も問い続けた。
 不安定な暮らしも、ようやく、落ち着きつつあった頃…ひなたを失い、呆然としていたときに、ホームセンターでハムスターの赤ん坊を見た。
 産毛は生え揃っている…しかし、白玉団子がくっついている…ようにしか見えない、弱々しい小さな生き物に、興味がわいた。
「スノーホワイトハムスターですか?」
 聞くと、
「いえ、パールホワイトですね」
「へぇ…白くてちっちゃい…ジャンガリアンの…」
「それくらいの大きさになります」
 へぇ…と思った。
 小さい小さい命が、愛しくなった…。
「二匹一緒に飼えませんか?」
 聞くと、
「雄同士だと喧嘩しますし、この雌は兄弟なんです」
 じゃぁ駄目だ…と諦め、一匹購入した。
 子龍である。
 父はまたか…と頭を抱えたが、私の孤独と、依存度の高さに諦めたのか、何も言わなかった。
 それから、二週間後、家の散歩コースから少し離れたペットショップで出会ったのが、瑠璃である。
 ブルーサファイアハムスターの女の子で、スラッとしたスリムな美女系の顔立ちをした綺麗な女の子で…一目で子龍のお嫁さんにしたいと連れて帰ったが、父に、
「ハムスターを買うのは許すが、つがいは駄目だ!!ねずみ算って言う言葉があるだろうが!!ネズミは、子が多いし増えていくんだぞ!!」
と反対され、諦めた代わりに、今度はパールホワイトの麗珠とブルーサファイアの元譲を連れて帰った。
 4匹は性格が本当に違っていた。
 のんびりおっとりとしているのは子龍。
 でも、心配は確信になる。
 ホームセンターで兄弟と言っていたが、最初選んだ子は小さかった。
 すると、店員が「この子は下痢をしています。別の子がいいですよ」と言った。
 病気の子と同じゲージに入れておくお店もお店だと思ったが、欲しいと思えば…余計に欲しくなる。
「じゃぁ、この子は?」
 他の子に潰されていてもすよすよ幸せそうな子が気に入る。
「あぁ、この子は大丈夫ですよ」
と連れて帰ったが、すぐに、毛が抜けた。
 はげたのだ。
 病気!?病院に駆け込み薬をもらうと、普通のハムスターのおが屑を、アレルギーになりにくいものに変えたり、綿も竹の綿にしたり、えさも、瑠璃たちの購入したペットショップで相談して変えていく。
 お金もかかるがそれよりも子供たちのことが最優先だった。
 
 瑠璃はお転婆お嬢だった。
 他の子が大きくなるのに、瑠璃は食べても食べても太らず、逆にスリムな美女系ハムスターになっていく。
 大きな瞳に、整った顔立ち。
 そして、お転婆と言う名の通り、ゲージの掃除の度に大脱走をする。
 他の子は、おっとりとした…と言うよりでっぷりとしているのに反し、瑠璃は細身でたったかたったかと逃げ回り、毎日、
「こらぁ!!逃げるな!!るー!!」
と取っ捕まえる。
 最初は『ハムスター…触れません!!』と怖がっていた妹も、余りにもチョロチョロする瑠璃に諦めたらしく、最後はわしづかみだった。
 元譲はマイペースな子で、最初実は、殿下というブルーサファイアの子を買った。そして、芙蓉という名前のパールホワイトを。
 すると、殿下は買う当初からかなり興奮していて、店員さんも痛がるほどガブガブ噛んでいた。
 家に連れて帰り、少し落ち着かせようと広いゲージに移そうとするとガブガブっと噛んだ。
 つつぅ…と血が流れる。
「殿下!!痛い!!離して!!」
 悲鳴をあげる。
 手をブンブンと振り、逃れようとするが、がぶっと噛み直し、悲鳴をあげても離そうとしない。
 ようやく離れたときには、両手の指から血がだらだら流れ、手を洗い、消毒をして、絆創膏を貼り、芙蓉を出そうとするが、こっちも興奮しているのかガブガブっと…。
 で、ペットショップに泣きながら電話をし、どうすれば…と相談して、二時間…落ち着かせようとするが、ますます興奮するばかりで、水に餌を置く度に噛まれ…再度、電話すると、
「この子達は飼えません…返金じゃなくてもいいです…お願いします…交換してください」
 渋る店員さんに、
「両手を見ていただければわかります…」
と伝え、必死に二匹を連れていく。
 で、涙目、血がまだ流れている私に店員さんも絶句し…交換しますとのこと。
 今度こそ噛まない子で…とのぞみ…店員さんも、必死にこの子達ならどうです?まださっきの子より小さいし、大人しいですよ。と言われ、連れて帰ったのが元譲と麗珠。
 時々甘噛みはあるものの四匹は家の子になった。
 元譲はマイペース。麗珠は神経質。
でも、可愛くて愛おしい子供たち…いくら、私より先に死んでしまうとはいえ、それでも…こんな急な別れはあり得なかった。
 朝起きると、いつもは抱き枕だったのになぜかトイレットペーパーを抱いて寝ていた。
「姉ちゃん…完全に寝ぼけてたね。何回も注意したんだよ?なのに、それ抱くって言うから、置いといてって、取り上げといたんだから」
「おかしいなぁ…いくら睡眠導入剤を飲んでても、そこまでアホは…」
 首をかしげていると、ゲージを一つ一つ覗き込んだ妹が、
「ね、姉ちゃん!!るーたんが!!るーたんが変だよ!!」
「変?」
「トイレ砂の中で、動いてないよ!!」
 慌ててかけより、ゲージの中から瑠璃を出す。
 瑠璃は冷たかった…動くこともなかった…でも、
「るー!!るー!!起きて!!ひまわりの種あげるから起きて!!」
 体をさすり、半分目を開けたままの瑠璃に呼び掛けるが、動くことはなかった…。
 妹が横で号泣する。
「何で?昨日まで元気だったのに!!」
「るーを…お墓にいれてあげないと…どこで…」
 混乱していた。
 いっている言葉は常識…でも、泣き顔で混乱していると、父が、
「どうしたんぞ?」
「るーが!!」
 父は覗き込み、首を振る。
 父の目は正しい。
 でも、辛い…。
妹は号泣するばかり…フラフラと立って、
「埋めにいく…ね。どこがいいかな…」
「柚子の根本に埋めてやれ。あそこは、初夏はホタルブクロが花を咲かせるし、寂しくないだろう」
「ありがとう…行ってきます」
 瑠璃を撫で、庭の柚子の木の根本を掘り起こし、瑠璃を埋めた。
「ありがとうね…瑠璃」
 泣きながら部屋に戻り、黙々と作業をする。
 瑠璃のゲージの片付けである。
 もし、何かの病気で、他の子に移っては困るから…そして…瑠璃の痕跡を消えさせて、心の平穏を取り戻したい…ズルい考えである。
 でも、瑠璃の痕跡はここかしこにあった。ゲージの中にも、他にはチョロチョロしていた部屋のあちこちに…。
 泣きながら、朝食をとる。
「姉ちゃん!!」
「片付けといたから…ひめたんとげんげんと子龍ちゃんよろしく…病院に…行くから」
「解った…」
 ほとんど泣かなかった自分に不満なのかもしれない。でも、泣くのは後にしたかった…。
 病院に行き、体の調子を見てもらう。
 自分の家に戻り、扉を締め、鍵をかけた途端に涙が溢れた。
 拭いても拭いてもこぼれ落ちる。
 心の一部をもぎ取られた感じだった。
 今日は、2時から、宅急便が来る。
 それまでに、泣き顔を封印して笑顔で対応したかった。
 届いたのは、テディベア。
 シュタイフ社のテディベアは刹那の夢である。
 そして、メリーソート社のチーキーは可愛くて、欲しかった…でも、瑠璃を失ってまで欲しいと望んだことはない!!
 姿を見せるテディベアの子供たちに泣きながら…一体一体姿を見せる…すると、スルッと…姿を見せた紫のベア。
「…!?」
 息を飲んだ。
 ただ、他のチーキーと一緒に買おうかな?そう思っていただけだった。
 それなのに…、
 震える声で、告げる。
「るー…もう戻ってきたの?心配させないでよ!!馬鹿!!」
 解っている。
 命は命…ベアはベア…でも、良く似ていた。
 綺麗な女の子。
 ブルーサファイアといっても、灰色に近い毛並みで、ベアは紫のモヘアという布…。
 大きさも、さわり心地も違うけれど…顔が似ていた。
「るー。良く家まで来れたね…小さい頃にちょっとだけいただけなのに…お帰り」
 泣いている妹にも写メを送った。
『るー。家に戻ったよ。そっくりでしょ?』
 しばらくして、メールが入った。
『るーたんのいないゲージを見て泣いてたけど…姉ちゃん。戻ったんだね…良かったねぇ。今度連れてきて。もう一度だっこしたいよ』
 妹のメールに私も泣く。
 ハムスター…その小さい命…を失って…これほど嘆くかと言われれば、そうかもしれない。
 でも、瑠璃は私の娘だったし、私の、大事な家族。
 命について、考え直すときが来たのだと、思うようになった…。
 生を受けた時には、死へのカウントダウンは始まるのだと…聞いたことがある。
 それは、不平等な生きざまと違い、平等に訪れるものだと言う。
 でも、平等に訪れるのはありがたい。
 しかし…自分自身ならともかく、大切な存在である奪い取られる立場ほど辛く苦しく、自分の無力感を思い知らされるものはない。
 去年梅雨…私は、一つの命を受け取った…拾った。
 解っている。
 父にも、獣医にも怒られた。
 野性の生き物の雛を、安易に拾うなと…。
 蟻にたかられ、冷たいセメントの床でうずくまるつばめのひな…もう死んでいるのか…と思っていると、
 チィ…
と鳴いた。
 その瞬間、腹をくくった。
 この子は私の子だと…私が助けるのだと…。
 梅雨の冷たい中…、蟻を払い、ハンドタオルに包み、病院に連れていき、説教を受け、それでも抵抗した。
 この子は私の子だから、絶対に守るのだと。
 すり餌に、水に…世話をした。
 寝るのも我慢して…しかし不眠症だった自分が珍しくとろとろと2時間寝ている間に…一人あの世に旅立っていった。
 拾った日はひどい雨の日で、底冷えするような寒い日だったので、これから、元気になって、明るい日向で遊べるように…と『ひなた』とつけた。
 ひなたの遺骸を持ち、睡眠導入剤を飲んでフラフラ状態のまま…一人朝まで歩き回り…朝戻ったときには、手は汚れ、ていた…どこかに埋めたらしい…。
 薬を飲まなければ…自分が付いていれば…責めた。
 しかし、山育ちの父は、命についてもっと厳しい。
「お前は、どうして、自分が辛い事を、自分に課すんだ。お前は体を悪くしているんだ!!自分のことばかりで精一杯なんだぞ!!どうして、命の重みを死ぬとわかっていながら、その死を、自分の責任だと受け止めようとするんだ!!」
と、怒った。
「お前は、お前にだけは厳しすぎる!!他には、あんなに甘やかして!!どうするんぞ!!お前が、そこまで必死になって守ったのはなんぞ!!お前が守ったのは、身勝手で、我が儘で、お前の病気を知って見棄てようとする、奴等だけだろうが!!」
 知っている。
 父や、兄弟、そして兄嫁の家族は私を普通に一個の人間としてみてくれるし、話をしてくれる。
父方の親族も…。
 でも、実家に居座る母の姉妹や、事情も知らない癖に、叔母たちにありもしないでっち上げた嘘によって色眼鏡で見るようになった親族は、時々会っても、知らぬ振りをする。
 こちらは必死に、痛みと苦しみを振り絞って笑っても…後で、叔母に怒鳴り込まれる。
「あんた!!叔母さんを睨んだって!?何かんがえとるんよ!!挨拶するのが筋でしょう!!」
「こんにちはって、頭下げたよ…向こうが無視したんだもん…知らないよ…」
「嘘をつくな!!この恥知らず!!この家に、あんたみたいな子ができるはずがないんだから!!あんたは、向こうの人間や!!名字を名乗るな!!」
とまで言われた。
 自分だって、名乗りたくはない。
 何が嬉しくて、めんどくさい、一度で呼んでくれた試しのないうざったい名字を口にしなくてはいけないのか。
 自分の方が遠慮したい。
 しかし、名字を変えるなら結婚か何処かに養子か…誰も、引き受けてくれないだろうなと、自嘲する。
 ボロボロの自分を、父と兄と弟が…家から出ていって、一人で住めと勧めた。
 借金に、ボロボロの体に、生きているだけの無気力な自分に…突きつけられたのは、生活保護と言う方法。
 そして、冷蔵庫もなく、あるのは、脱水しかできない洗濯機に、コンロに電子湯沸し器。壊れかけのタンス…。
 敷布団もなく、掛け布団二枚と、残されたのは、本。
 途方にくれた。
 私は、皆にこんな風に置き去りにされるほど、嫌われていたのか?
 愛されて…いないのか、憎まれていたのか…。
 縫いぐるみを抱き、声を殺して泣きながら、自分の今までの努力は、なんだったのか…私は、何度も問い続けた。
 不安定な暮らしも、ようやく、落ち着きつつあった頃…ひなたを失い、呆然としていたときに、ホームセンターでハムスターの赤ん坊を見た。
 産毛は生え揃っている…しかし、白玉団子がくっついている…ようにしか見えない、弱々しい小さな生き物に、興味がわいた。
「スノーホワイトハムスターですか?」
 聞くと、
「いえ、パールホワイトですね」
「へぇ…白くてちっちゃい…ジャンガリアンの…」
「それくらいの大きさになります」
 へぇ…と思った。
 小さい小さい命が、愛しくなった…。
「二匹一緒に飼えませんか?」
 聞くと、
「雄同士だと喧嘩しますし、この雌は兄弟なんです」
 じゃぁ駄目だ…と諦め、一匹購入した。
 子龍である。
 父はまたか…と頭を抱えたが、私の孤独と、依存度の高さに諦めたのか、何も言わなかった。
 それから、二週間後、家の散歩コースから少し離れたペットショップで出会ったのが、瑠璃である。
 ブルーサファイアハムスターの女の子で、スラッとしたスリムな美女系の顔立ちをした綺麗な女の子で…一目で子龍のお嫁さんにしたいと連れて帰ったが、父に、
「ハムスターを買うのは許すが、つがいは駄目だ!!ねずみ算って言う言葉があるだろうが!!ネズミは、子が多いし増えていくんだぞ!!」
と反対され、諦めた代わりに、今度はパールホワイトの麗珠とブルーサファイアの元譲を連れて帰った。
 4匹は性格が本当に違っていた。
 のんびりおっとりとしているのは子龍。
 でも、心配は確信になる。
 ホームセンターで兄弟と言っていたが、最初選んだ子は小さかった。
 すると、店員が「この子は下痢をしています。別の子がいいですよ」と言った。
 病気の子と同じゲージに入れておくお店もお店だと思ったが、欲しいと思えば…余計に欲しくなる。
「じゃぁ、この子は?」
 他の子に潰されていてもすよすよ幸せそうな子が気に入る。
「あぁ、この子は大丈夫ですよ」
と連れて帰ったが、すぐに、毛が抜けた。
 はげたのだ。
 病気!?病院に駆け込み薬をもらうと、普通のハムスターのおが屑を、アレルギーになりにくいものに変えたり、綿も竹の綿にしたり、えさも、瑠璃たちの購入したペットショップで相談して変えていく。
 お金もかかるがそれよりも子供たちのことが最優先だった。
 
 瑠璃はお転婆お嬢だった。
 他の子が大きくなるのに、瑠璃は食べても食べても太らず、逆にスリムな美女系ハムスターになっていく。
 大きな瞳に、整った顔立ち。
 そして、お転婆と言う名の通り、ゲージの掃除の度に大脱走をする。
 他の子は、おっとりとした…と言うよりでっぷりとしているのに反し、瑠璃は細身でたったかたったかと逃げ回り、毎日、
「こらぁ!!逃げるな!!るー!!」
と取っ捕まえる。
 最初は『ハムスター…触れません!!』と怖がっていた妹も、余りにもチョロチョロする瑠璃に諦めたらしく、最後はわしづかみだった。
 元譲はマイペースな子で、最初実は、殿下というブルーサファイアの子を買った。そして、芙蓉という名前のパールホワイトを。
 すると、殿下は買う当初からかなり興奮していて、店員さんも痛がるほどガブガブ噛んでいた。
 家に連れて帰り、少し落ち着かせようと広いゲージに移そうとするとガブガブっと噛んだ。
 つつぅ…と血が流れる。
「殿下!!痛い!!離して!!」
 悲鳴をあげる。
 手をブンブンと振り、逃れようとするが、がぶっと噛み直し、悲鳴をあげても離そうとしない。
 ようやく離れたときには、両手の指から血がだらだら流れ、手を洗い、消毒をして、絆創膏を貼り、芙蓉を出そうとするが、こっちも興奮しているのかガブガブっと…。
 で、ペットショップに泣きながら電話をし、どうすれば…と相談して、二時間…落ち着かせようとするが、ますます興奮するばかりで、水に餌を置く度に噛まれ…再度、電話すると、
「この子達は飼えません…返金じゃなくてもいいです…お願いします…交換してください」
 渋る店員さんに、
「両手を見ていただければわかります…」
と伝え、必死に二匹を連れていく。
 で、涙目、血がまだ流れている私に店員さんも絶句し…交換しますとのこと。
 今度こそ噛まない子で…とのぞみ…店員さんも、必死にこの子達ならどうです?まださっきの子より小さいし、大人しいですよ。と言われ、連れて帰ったのが元譲と麗珠。
 時々甘噛みはあるものの四匹は家の子になった。
 元譲はマイペース。麗珠は神経質。
でも、可愛くて愛おしい子供たち…いくら、私より先に死んでしまうとはいえ、それでも…こんな急な別れはあり得なかった。
 朝起きると、いつもは抱き枕だったのになぜかトイレットペーパーを抱いて寝ていた。
「姉ちゃん…完全に寝ぼけてたね。何回も注意したんだよ?なのに、それ抱くって言うから、置いといてって、取り上げといたんだから」
「おかしいなぁ…いくら睡眠導入剤を飲んでても、そこまでアホは…」
 首をかしげていると、ゲージを一つ一つ覗き込んだ妹が、
「ね、姉ちゃん!!るーたんが!!るーたんが変だよ!!」
「変?」
「トイレ砂の中で、動いてないよ!!」
 慌ててかけより、ゲージの中から瑠璃を出す。
 瑠璃は冷たかった…動くこともなかった…でも、
「るー!!るー!!起きて!!ひまわりの種あげるから起きて!!」
 体をさすり、半分目を開けたままの瑠璃に呼び掛けるが、動くことはなかった…。
 妹が横で号泣する。
「何で?昨日まで元気だったのに!!」
「るーを…お墓にいれてあげないと…どこで…」
 混乱していた。
 いっている言葉は常識…でも、泣き顔で混乱していると、父が、
「どうしたんぞ?」
「るーが!!」
 父は覗き込み、首を振る。
 父の目は正しい。
 でも、辛い…。
妹は号泣するばかり…フラフラと立って、
「埋めにいく…ね。どこがいいかな…」
「柚子の根本に埋めてやれ。あそこは、初夏はホタルブクロが花を咲かせるし、寂しくないだろう」
「ありがとう…行ってきます」
 瑠璃を撫で、庭の柚子の木の根本を掘り起こし、瑠璃を埋めた。
「ありがとうね…瑠璃」
 泣きながら部屋に戻り、黙々と作業をする。
 瑠璃のゲージの片付けである。
 もし、何かの病気で、他の子に移っては困るから…そして…瑠璃の痕跡を消えさせて、心の平穏を取り戻したい…ズルい考えである。
 でも、瑠璃の痕跡はここかしこにあった。ゲージの中にも、他にはチョロチョロしていた部屋のあちこちに…。
 泣きながら、朝食をとる。
「姉ちゃん!!」
「片付けといたから…ひめたんとげんげんと子龍ちゃんよろしく…病院に…行くから」
「解った…」
 ほとんど泣かなかった自分に不満なのかもしれない。でも、泣くのは後にしたかった…。
 病院に行き、体の調子を見てもらう。
 自分の家に戻り、扉を締め、鍵をかけた途端に涙が溢れた。
 拭いても拭いてもこぼれ落ちる。
 心の一部をもぎ取られた感じだった。
 今日は、2時から、宅急便が来る。
 それまでに、泣き顔を封印して笑顔で対応したかった。
 届いたのは、テディベア。
 シュタイフ社のテディベアは刹那の夢である。
 そして、メリーソート社のチーキーは可愛くて、欲しかった…でも、瑠璃を失ってまで欲しいと望んだことはない!!
 姿を見せるテディベアの子供たちに泣きながら…一体一体姿を見せる…すると、スルッと…姿を見せた紫のベア。
「…!?」
 息を飲んだ。
 ただ、他のチーキーと一緒に買おうかな?そう思っていただけだった。
 それなのに…、
 震える声で、告げる。
「るー…もう戻ってきたの?心配させないでよ!!馬鹿!!」
 解っている。
 命は命…ベアはベア…でも、良く似ていた。
 綺麗な女の子。
 ブルーサファイアといっても、灰色に近い毛並みで、ベアは紫のモヘアという布…。
 大きさも、さわり心地も違うけれど…顔が似ていた。
「るー。良く家まで来れたね…小さい頃にちょっとだけいただけなのに…お帰り」
 泣いている妹にも写メを送った。
『るー。家に戻ったよ。そっくりでしょ?』
 しばらくして、メールが入った。
『るーたんのいないゲージを見て泣いてたけど…姉ちゃん。戻ったんだね…良かったねぇ。今度連れてきて。もう一度だっこしたいよ』
 妹のメールに私も泣く。
 ハムスター…その小さい命…を失って…これほど嘆くかと言われれば、そうかもしれない。
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 命について、考え直すときが来たのだと、思うようになった…。
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