8月31日の冒険

巫夏希

8月31日(日) 9時-2



 ――あれ?


 目を開ける。きっと死んでしまっただろうと思ったのに生き残った。
 視界に広がるのは死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。


 ――凡てが死体だった。床に死体が倒れ、テーブルに死体が倒れこみ、ガラス片が突き刺さり出血する人もいた。


 俺はその光景を見て吐き出しそうになった。
 だが、俺はそれを必死で堪えた。

「カイトくん……だいじょうぶ?」

 だってそこにはカオリちゃんの笑顔があるのだから。

「大丈夫だよ……カオリちゃんは?」

 カオリちゃんはその言葉に頷いた。どうやら問題ないらしい。

「オイ、子供達!」

 声を聞いて、俺は振り返る。
 そこにいたのは人間に銃を構えていた――黒いコートを着た男と白いコートを着た男だった。黒いコートの男はどこかがっちりとした身体で、白いコートはその逆、もやしみたいな身体をしていた。
 黒いコートの男は話を続ける。

「今すぐここから逃げろ! 事情は簡単に説明できないが、あいつはお前たちの命を狙っている! すぐに俺たちも後を追うから、ひとまず逃げるんだ!!」

 そう言われても。
 足が動かない。
 足が、言う事を聞かない。
 怖いんだ。怖いんだよ。

「いいから逃げろ! お前もその子が死ぬのは嫌だろう!!」

 死。
 死とはこれほどまで身近にあったものだろうか。いや、そんなことはなかったはずだ。
 逃げる。そう言った。でも、どこへ?

「いいから逃げろ! 急いで追いかける!!」

 黒スーツの男は威嚇射撃をした。もしかして奥にいる誰かに……俺たちは襲われたのか?
 いや。
 そんなことを考えるのは野暮だ。
 俺たちはとにかく逃げることにした。
 震えるカオリちゃんの手を握って、俺は地獄絵図と化したファミレスから飛び出した。

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