8月31日の冒険

巫夏希

8月31日(日) 7時

 七時きっかりに目を覚まして、俺は一階に降りる。一階のリビングには既に朝食が出来上がっている。目玉焼きに味噌汁、それにトースト。なんだか洋風と和風が入り乱れているような気もするがこれが我が家のスタンダード。

「早いなあ、カイト」

 父親が言う。

「あらあ、だって今日はカオリちゃんとデートですってよ?」
「ほう! デートか!」

 母親が余計な一言を言ったせいで、父親まで盛り上がってしまう。我が家の悪い癖とも言える。

「可愛いのか? その子」
「ああ」

 ぶっきらぼうに答える。

「そうかあ……。とうとう息子にも春がやってきたわけだなっ」

 父親は小躍り。そこまで喜ぶことでもないだろうに……とか思いながらも実は俺が一番嬉しい。だってあのマドンナだよ? 「大丈夫、フ○ミ通の攻略本だよ!」並に信用できるよ?

「それって信用出来るのだろうか……ふぬぬ」

 あっ、こころの声が聞こえていたらしい。うっかり。

「まあ……小学生だから早めに帰ってくるんだぞ? それで、時間は?」
「九時にデニーズで」
「ジャンバラヤはうまいぞ」
「何を唐突に」
「ジャンバラヤはそこそこ辛いからな。小学生が『俺こんなに辛いもの食えるんだぜー!』って自慢できるくらいの辛さに調整されている……というのは嘘だが、それくらい食べて女の子にキャーキャー言われるのもありだぞ!」

 そう言ってウインクする父親。年齢の割には行動が若いよなあ……。
 ま、いいや。

「ごちそうさまー」

 適当に口の中に掻っ込んで、俺は食器を持っていく。

「あら、洗うの?」
「……別にいいだろ、それくらいやったって」
「嬉しいわあ。小学校では最近『お母さんのお手伝いを二十日以上すること』とかそういう決まりがあるのでしょう? ほんと、それで嬉しいお母さんがいっぱいいるって、お茶会で言ってたわ」
「決まり、ではないよ。夏休みの努力目標ってやつ」
「努力目標とか難しい言葉を使えるようになったのねっ。よしよし。……ところでお小遣いはどれくらい必要? 五千円くらい?」
「母さん! デートなんだから一万円くらいあげればいいだろう!」
「判ったわ! それじゃ、来月の父さんのお小遣いから引いて、その分あげるわね!」

 えっ……という父親の驚きの表情をよそに俺に一万円札をぽんと渡す母親。
 別にそこまで使わないと思うけど……。

「ありがと」

 とりあえず礼儀は大事。
 母親にお礼をしたところで……、ちょっと早いけど用意をすすめることにしよう。

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