「魔王様」の定義
翔くんとルーちゃん その4
その後、三人は「冒険」と称してあちこちに出歩くことにした。
エーベル王国の隣国や同盟国は勿論、敵対国やら果ては魔界全土を計画に入れた。
「魔界の案内はルーちゃん殿下にお願いするとして、問題は敵対している国だよ」
「フィル、違う。問題は天界だって」
「翔、汝は天界まで行くつもりか!? どんなに休みや時間があっても無理である」
「え~~? だってさぁ、いろんな国を見て回りたんだよ?」
「かけちゃん、天界は『国』じゃない。魔界はルーちゃん殿下が一緒だから行けるようなもの。私たち二人だけでは行けないところだかね。天界は諦めて」
「ちっ」
次の瞬間、ルシファーとフィルヘイドに思いっきり叩かれた。
「達樹もフィルも好奇心が旺盛と見えるな。さて、エーベル国王はフィルの出国を認めると思うか?」
「認めてもらうさ」
ふんぞり返ってフィルヘイドが返してきた。
「フィルヘイド様、かようなことが出来るとお思いですか? ただでさえあなたは王国一の神殿の神官長であり、ここの王子。そして、まだ国立学校の学生なのですよ!?」
フィルヘイドの従者らしき人物にばれて、大説教を食らってしまった。
「だから、学校が長期休暇中に……」
「王国内の視察と、数多の祭事が入っておりますが?」
「成人したら、しっかりやるから! 今回は見逃して!!」
「今まで視察を見逃すかわりに、魔法研究を黙認していたはずですが? それに飽き足らず、今度は遠征ですか?」
苦し紛れに発したフィルヘイドの言葉も、この従者の前では意味をなさなかった。
「アムドよ、我が魔界には親善として一度フィルを招いてみたいと思っておった。それ故、魔界への訪問は目を瞑って欲しい」
従者へルシファーが頭を下げていた。
「それは陛下に奏上してみます」
結局、フィルヘイドの母方の実家であるクランツ家のとりなしもあり、全土を巡る旅は認めてもらえた。
「いいですか!? くれぐれも、五体満足で帰って来てくださいよ!」
「分かってます。魔界についたら、連絡入れるから。あと、同盟国とかに行ったときも連絡入れますから」
「是が非でも! これ以上、自分の苦悩の種を増やさないでくださいまし」
最後まで「ついていく」とごねていた、フィルヘイドの従者アムドに念を押された。
白地図を埋めるかのように、ゆっくりと三人で歩いていく。時折、盗賊やらはぐれた魔物に襲われたりしたが、概ね順調だった。
「うぇぇぇぇ!!」
「食あたりだよ、かけちゃん。あんなものでこうなるなんて誰も思わないよ」
「いや……ふつう……宿の料理で……」
痛んだものが出てきて食あたりをおこすなんてありえない。いわば食中毒である。そして、翔以外は何ともないのだ。
「翔の身体は変なところで弱いのだな」
「う~~ん。二、三日ずれちゃうけどここに泊まろう。野宿とその辺のものを食べても平気なのに、何でかな?」
おそらく鮮度の違いだと思われた。あとは衛生的な何かだろう。
今までは生水を飲むということを徹底的に避けていたのだ。そこから考えるに、どちらかだろうと思うが、さすがにここで調べることは出来ない。
「宿のランク上げてると、父上に怒られるしどうしたらいいものかな?」
「さて、どうしたものか」
そんな会話よりも、胃腸薬が欲しい。
結局、この一件で翔が「どこのお坊ちゃんだ?」と周囲に言われる羽目になった。
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