「魔王様」の定義

神無乃愛

ある意味魔王VS魔王

 これでダメージを与えられると思っていない。
 それでも、これが達樹の武器であり、魔王に対する唯一の手段であるともいえた。
「ねぇ、楽しいよね」
「これを楽しいと思える汝の考えが分からぬな」
 互いに攻撃をしながら、話していた。
「楽しいよ。だって、あなたと俺、考えが似てるからね」
 ここまで考えが似ているものと敵対したことがない。だから、柄にもなく達樹はわくわくしていた。
「余と汝、似ているとな?」
「似ているよ。だって、アネッサ嬢を転々とさせ、居場所を分からなくしたのも、『ここにいるかもしれない』という希望を絶望に変えるため、違う? そしてエリさんとエルフリーデさんを邪険にしていたのも絶望させるため、あの副司祭を巻き込んだのも副司祭を絶望させるため、違う?」
「面白し」
「でしょ? だから俺とあなたは似てるんだよ。どうせならあの男、、、にもっと絶望を与えてやりたかったんだけどね。あと祖父にも」
 否定しないということは、肯定である。
「天界の姫君を連れてきた理由は? 天界への復讐? それだけじゃないよね」
 何故か光った杖をそのまま魔王に振りかざしながら、達樹は言った。
「天界なぞ、余はどうでもいい」
 達樹に闇の魔法を繰り出しながら魔王が言う。
「余にとって天界も下界もついでである。無論、異世界も、汝の母も」
「……母さん?」
 一瞬その言葉に気を取られた達樹に、魔王は躊躇いもなく魔法と蹴りを繰り出した。
「ぐぁっ……」
「汝の母は請い願った。子を助けて欲しいと。己の復讐の為に使いたいと」
 やはり、母が達樹に愛情を抱いていなかったか、そう思った瞬間達樹からまた力が抜けた。
「そのためには子が生きていないとどうしようもないと。だから余に願い続けた。それに余は応じただけのこと」
 まだ、魔王の言葉は続いた。
「あれが復讐したい相手は、己の父であった。男などどうでもいいと。だが、男はともかく父に敵わぬゆえ、余に力を貸して欲しいと願い続けた」
「欲望と復讐は回る、それだけのことでしょ」
 エルフリーデの力が達樹を回復させてくれた。
「母は祖父を恨んでいた。祖父は己の父を恨んでいた。……重見の血はそういう歪んだものが現れやすいだけ。勿論、俺も歪んでるよ」
「汝の憎しみは汝の父にあるのではないのか?」
「ん~~ないかな。どうせ捕まっちゃうし。あの木偶の棒と後妻さん如きじゃ、俺に敵わないからね」
 木偶の棒は重見の家の名前を借りて好き放題していた。だが、父が逮捕される直前である今、それも叶わなくなるだろう。勿論、あの後妻もホストクラブに通うことすら出来なくなり、自分が作った借金で自爆するだろう。
 今、重見の財産は祖父と達樹にのみある。そして、達樹は後妻と養子縁組をしていない。
 逮捕されたとなれば祖父は父を切り捨てる。万が一、達樹に何かあった場合は翠の従妹に全てが渡るように仕組まれている。
 調べればわかることにすら、父は疎かった。
「もう、俺の復讐は終わってるからね。後は自滅を待つのみ。俺が死んでしまえば、本当の意味、、、、、での重見の跡取りはいなくなる。そこで憎しみと復讐という輪は途切れるんだ」
「左様であったか」
「左様です」
 ふっと魔王が笑った。
「なれば手加減は要らぬな。義息子むすこよ!」
 流石の達樹も一瞬固まった。
「……それは、エルフリーデさんとの事を言ってるのかな?」
「無論。銀の髪のエルフリーデだ」
 何故かそういうことまでばれているとは。
「じゃあ、俺も遠慮なくお義父さんと呼ばせてもらおうかな?」
「汝にかようなこと言われたくないわ!」
「え~~? エルフリーデさんと俺のこと認めてくれるんでしょ? だったらお義父さんじゃん」
 これが撃ち合いをしながらの会話である。撃ち合いだけを見れば、こんなのどかな会話をしているようには見えず、会話だけを見れば、そこまで恐ろしい撃ち合いをしているようには思えない。
 それを当たり前にこなしてしまうというあたりでも、魔王と達樹は似ているといえよう。
「二人を疎んじてるって聞いたんだけど、違うの?」
「あれは道具に過ぎぬ」
「あっそ」
 達樹のほうは消耗戦である。それに対し、魔王はまだ余裕があった。
「俺ね、あなたに勝てると思ってないんだよね」
「では何故戦う?」
「う~~ん。負けないため?」
 伊達に領民に「不敗の王」と呼ばれていない。
「面白き考えであるな」
「俺の座右の銘だからね。投資とかもしてると、自然とそうなるよ」
「我が配下に入らぬか?」
「やだな~~。俺、寝首掻きにいきたくなるし。そんなことしたら大変だし」
 ただでさえこの領内を治めている。これ以上の責任はおいたくない。
「欲無き人の子だな」
「褒め言葉だよね」
 魔王の一撃が達樹に入り、達樹はそれに返すように杖をふるっていた。

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