「魔王様」の定義
どう転ぶか分かりません
この魔法は、今まで培った知識を全て注ぎ込んだといっても過言ではない。
魔法耐性のない達樹を媒介にするのは、哉斗の父、翔から教わったこと。
光と闇、希望と絶望。天界と魔界。二つの世界。人間と魔物。相反するもの。それが揃っているのだ。
それを叩き込むという荒業に達樹は挑戦しようとしている。
だが、それは達樹の寿命を削ることに等しい。
「タツキを召喚するときにあの魔王の干渉を受けたらしい」
悔しそうなシスの声に、千紘は言葉を失った。
「それにしても我が王は天の御使いか? それとも魔を統べる王か?」
達樹を見上げたソルトの言葉に、千夏が「両方でしょ」と答えていた。
黒い衣に白い翼。そして神官の杖。全てが幻想的に達樹を美しく魅せていた。
達樹は魔法が使えない。それでも魔王に立ち向かう。
「借り物の力だけど、俺には性に合うみたいだ」
「小癪な!」
「俺ね、死ぬのは別にかまわない。でもさ、あなたにこの身体渡したくないんだよね」
魔王の懐にもぐりこむには、エリから借りた闇の力が何よりも有効だった。
そして、神官長の杖で闇を切り裂いていく。
「あなたにお礼を言わなきゃね。あの絶望から俺を救ってくれて」
そう、おそらく翠か哉斗だけがこちらの世界に来ていたら、信頼できる人物が少なくなり、達樹の生命の危険が増していただろう。
だが、どんな理由があれ、達樹が呼ばれた。助けを求めた時、シスたち神官と幼馴染たちが助けてくれた。
それが達樹の誇りであり、希望である。
「余はその希望を絶望に変えるのが楽しみである」
「そのあたりは気が合うよね」
絶望を希望へ、希望を絶望へ。いつでも切り替わるが、それに己が関わることが何よりも達樹は楽しい。
「ねぇ、あなたの真名は何? ルシファーすらわざとでしょ?」
「汝に言う必要はない」
その言葉ににっこり笑って達樹は魔王に杖を突き刺す。
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