「魔王様」の定義

神無乃愛

悔し涙は蜜の味??

 ぎりり、と悔しそうに顔を歪めたアネッサ女王を千紘は静かに見ていた。
「虫の居所が悪すぎるな。千佳、悪いが……」
「嫌よ。あんな色香に敵うのは達樹くらいなもの。兄さんたちが惑わされちゃお終いだから、私たちは残るわ。
 哉斗、三人と一緒に席を外してもらえるかしら?」
 その言葉を受け、残ったのは翠と千佳、そして千夏だった。
「お姉さん、運悪すぎ」
 同情するかのように千夏がアネッサ女王に声をかけていた。
「インキュバス族のところを通るって言った時点で嫌な予感してたんだよね。私と翠は」
「は!?」
「確定したのは、私たち女性陣をインキュバス族の領地に入れなかったこと」
 どういう意味だ? そう思っていると翠がため息をついていた。
「淫惑に勝つ方法ってのは、いくつかあって、一つが耐性をつけること。実はこれが一番難しいとされてる。その上、達樹は魔法耐性なしだ。そこまで言えば、達樹が取った方法はあんたでも分かるだろ?」
「ま……まさか」
「そ。そのまさか。達樹は強いインキュバスと弱いサキュバスを支配下に置くことによって耐性とつけた」
 強いインキュバスはあの王、そして弱いサキュバスはあの門番、さらりと翠は言ってのけた。
「しかも、双方に了承なし。以上」
「おのれ!!」
「負けちゃったんだから、仕方ないでしょ。あ、俺たちにも効かないから。きっちり達樹が置き土産してくれたから、問題ないよ~~」
 全ていつの間に……としか言えない。
「翠、達樹が不機嫌なのって……」
「そのせいじゃないよ。元々お色気たっぷりの女性って達樹苦手でしょ。どうせなら清純そうなサキュバス連れてこれば勝てたかもしれないのにね。
 多分、俺らに何も言ってないだけであの女が何かしたんでしょ。そのトラウマを見事に引き出したってこと」
 そこまでは何度も導き出した答えだ。だが、そのあとの答えにはいつもたどり着かない。
「……本日中に連れて来る。それでよいか?」
「かまわない。世話役を一人伴ってもらえると助かる」
「何故じゃ?」
「世話の仕方が分からない」
 正直にそれだけは述べておく。

 アネッサ女王が去ってまもなく、別のサキュバスが二人やって来た。

 それを一瞥した達樹は「偽者用意したね」とだけ呟いて、また部屋に閉じこもった。
 これに慌てたサキュバスは戻って、また違うサキュバスが来るということを、数度繰り返していた。

 明け方になり、達樹は呆れ果て「そこまで欺きたいんだったら、好きにすれば?」とだけ言って黙々と準備を始めていた。
「どうするつもりだ? アネッサ女王は」
 仕入れの為に別行動を取っていたバートが戻ってきて、呆れていた。
「今回も偽者?」
「偽者もいいところだよ。アネッサ女王の後継者は既にこちらでは有名だ。もしかすると、魔界に行くことになるであろうとまで言わしめてるお方だぞ」
 どうしたものか……そんなことを達樹以外の連中で話していたところに、旅装束の女性が一人でやって来た。
「お約束通り、参上いたしました。タツキ様」
 今までのサキュバスたちとは違う、上品な女性だった。
「あの方が次代のサキュバス族の女王、ブレンダ様だ」
 バートの言葉で、やっと向こうが条件を飲んだことを知った。

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