「魔王様」の定義

神無乃愛

これは話し合いと言っていいのでしょうか?


「グレス聖王国がここを攻め入らなければ、戦争をしないと言ったのだ誰だ?」
 呆れたように千紘が言う。グレス聖王国に宣戦布告していたとは思わなかった。
「俺だよ。どっちも事実。一応宣戦布告したけど、戦わないよ。時間もないし」
 攻め入ってきたエーベル王国とグレス聖王国の兵士たちを砂漠に押しやった翌日、全員でミーティングと相成った。勿論、最初に聞くべきはこれだと思ったのだ。
 言ったとうの本人である達樹は気にした風もなかった。
「これからグレス聖王国でも政権交代が起きるだろうし、戦争どころじゃないと思うよ。エルフリーデさんたちの件は、リュグナン次第だし」
 そう言って、捕らえていたリュグナンとその甥に視線をやった。

 このあたりは最悪だよなぁと、千紘はつくづく思った。
 リュグナンたちを捕虜にしたとはグレス聖王国に一言も告げていない。つまりはリュグナンたちが一緒に攻め入ろうとした騎士たちを裏切ったと取れなくないのだ。
「最初から裏切ってたのは事実でしょ? それに俺はリュグナンたちを交渉の材料に使おうなんて思ってないし、ここに他の神官さんたちもいるんだから、分かるようなもんでしょ」
 それを屁理屈という。その突っ込みを入れたいのは千紘だけではないはずだ。
「グレス聖王国側からの返答は?」
「今のところございません」
「返答のしようがないと思うな。俺たちはあくまで、、、、聖女様を善意で保護下に過ぎないし、聖女様の栄養不良とかは全て神殿を通してグレス聖王国国王の耳にも入れていた。それまでどこにいたのか? それすらもこちらで明確にしているわけだし、あの戦いだって向こうに聞かせたし。
 一度グレス聖王国国王とエーベル王国国王、それから各地方神殿のトップを集めて、とある国で会合を開きたいと思う」
 今回の戦後処理を謳っているが、本当のところはどうか分からない。
「場所は?」
「それは神殿とグレス聖王国、エーベル王国に任せるよ。こちらからの希望は先に出しておくから。
 一つ目、俺たちが通ったからといって、神殿の転移装置は封印しないこと。つまりこちらに俺たちがあっさり帰ってこれるようにだね。
 二つ目、こちらは聖女様とリュグナンたちを連れて行くけど、聖女様ご自身が己のいたい場所を決めること。
 三つ目、開催する国はこの自治領、グレス聖王国、エーベル王国のどこにも属さぬ国であること。
 四つ目、互いに護衛を連れて行くのはかまわない、ただし俺は千紘兄やシスのほかにソルトが信頼するギルタブルルを二人ほど連れて行きたい」
「リュグナン副司祭たちに対する文面は……」
「ない。そういったものはその場で決めた方がいいです」
 エリザベスの問いに達樹は淡々と口にしていた。それを聞いた千紘はため息が出てきた。エリやエルフリーデのことはともかく、他は絶対に達樹の思い通りに事が運ぶはずだ。

 こちらで調整して達樹に手加減させるしかない。

 そうしないと、この世界の大国のほとんどが内乱の危機に陥ってしまう。
「達樹を馬鹿な方法で起こらせた王二人が悪いのよ」
 千佳が慰めるように言うが、それで民が困ってはどうしようもないだろうというのが、千紘の意見だった。


「開催は三日後。それ以上は待たない」
 それで場所が決まらないなら、達樹が決めると言い出した。

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