「魔王様」の定義

神無乃愛

一番上は損な役割を受け持ちます

「一つ聞きたい。これは強制じゃない」
 達樹が立てていた仮説を言うという、損な役割を引き受けざるを得なかった千紘は思わずため息をついた。
「エメラルド王女、あなたは妖精ピクシーたちから嫌われている、間違いないか?」
 その問いにエメラルドは哉斗の後ろへ逃げた。「当たってるなら、哉斗兄の後ろへ隠れるよ」そう、達樹は言っていたが、違うと思いたい。
「頼む、俺が話している間に口を割ってくれ。でないと、あなたを守れない」
『……どういう、意味?』
「既に達樹は妖精ピクシー一族と協議に入る予定を立ててるんだ。移動の協力の為に」
 全員、言葉を失っていた。これを知っているのは達樹と千紘のみ。
「頼む。あいつが問答無用で口を割らせる前に、あなたの口から俺たちは聞きたい」

 そうしないと、エメラルドが危ない。

 達樹の本当の怖さは、父から聞いた。身近な被害者は父だった。重見家の思惑で達樹には病名を知らせていなかった。伝えられていたのは、偽りの病名と薬の効能。だが、達樹はそれを見破り、父を問い詰めた。
 どこまでも口を割らぬ父に、達樹は「最後の手段」を取った。そして、父は全てを言わざるを得なかったのだ。
 総てを知りながら重見家には何一つ悟られていない達樹は、あえて父を主治医としてそのままにしている。その理由はたった一つ。偽りを言えぬようになったからだ。

 エメラルドまでその被害に合わせたくない。それが千紘の思いだった。

『理由は言わないのね』
「達樹の能力に関することだってしか言うつもりはない」
『……そう。私はあの男に協力なんてしたくないの』
「知ってる。アネッサ嬢を連れて行った魔王にしか従わないのも、達樹から聞いてる」
『!!』
「!!」
 また、全員に驚愕が走ったのが分かった。
「今のあいつに隠し事は無理だ。だから、頼む」
『分かったわ。一つだけ訂正させてもらうわよ。私は妖精ピクシー総てから嫌われているわけじゃないわ。そして、魔王様のところに私をやったのは父』
 やはりか。どこまでも達樹の予想が当たっている。
『もういいわよ、チヒロ。あなたはタツキから色々聞いたんでしょ? それを私に言って頂戴。当たっているか当たっていないか、答えるから』
「そっか……その方がいい。あなたを嫌っているのは現妖精王の一派だね。そしてその妖精王が君のお兄さん、そしてその妃が君のお姉さんだ」
『あの男、いつの間に調べたのかしら』
「ついでに言うと、君は先代の妖精王と、現妖精王の妃の間の子供。調べたというより、王女だって分かった時点で半分は予想をつけたみたいだったよ。そして、この自治領を出てから、色んな妖精ピクシーを誑かして聞いてたみたいだ」
『最っ悪』
 エメラルドの言葉に全員が頷いた。……千紘が達樹から話を聞いたときは「最悪」とすら思えなかった。「最悪」という言葉では語りつくせないほどの、凶悪さがにじみ出ていたのだ。
 だからこそ、今回嫌な役を引き受けようと思ったのだ。
「妖精王の一派は既に壊滅してるよ。……昨日の段階で」
「おい!!」
 クンツォーネが驚いて大きな声をあげた。
「妖精王の妃に目をつけて、誑かした。不和の林檎を投げ入れたようなもんだ。で、エメラルド王女の元従女たちに達樹は話つけてるんだ」
『あの男、私に拒否させないつもりなの!?』
 そう、最初からエメラルドに拒否権はないのだ。そして今頃誑かしているだろう。
「兄さん、止めないの?」
「千佳。俺たち、、は止めれないんだ」
 死に場所を捜している達樹に、止める言葉を持ち合わせていない。
『あの人から虚無しか感じない』
 エルフリーデがしたためた文字に、千紘は答えることすら出来ない。
『あの虚無は恐ろしい。総てを飲み込む』
「俺もそう思う。だから、これ以上飲み込む前に教えてくれ」
『分かったわよ! でもね、これはあの最悪な男のためじゃないわ! 私と私の従女のためよ』
「……ありがとう。詳しい方法は哉斗に言ってくれ。それから翠と千夏で話をすり合わせてくれれば問題ないはずだ。……俺は他の妖精ピクシーを呼びに行く」
『……いつから、いるの?』
「俺に聞くな。俺も知ったのは昨日だ」
 達樹がいつから準備していたかなど、分からない。
「じゃあ、エメラルドさんについて行くのは哉斗と翠、それから千夏ね。私とシスさんで達樹のところに行くから、怯えたエリさんとエルフリーデさんを兄さんにお願いしていいかしら?」
「……分かった。二人を連れて妖精ピクシーのところへ行く。今回ばかりは、達樹のところに人数に重点を置いてくれ。あの状態の達樹はクンツォーネさんとエリザベスさんも見ておくべきだと俺は思う」
「分かった」
 苦虫をかみ締めたような顔でシスが頷いた。

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