「魔王様」の定義

神無乃愛

謎が謎を呼びますが、出来ることからはじめます

 向こう側でどれくらいの時間が過ぎているか分からないが、そろそろ大丈夫だろうということで、空間を繋ぐことになった。
 今回電話するのは千紘だ。
『もしもし?』
 そう言って出てきたのは、千紘たちの母だった。
『そちらもスピーカーモードにしてもらえないかしら』
 言われた通り、千紘は皆に聞こえるようにした。
「やっほ~~。お母さぁん」
『千夏!』
「皆元気だよ。どうせ小母さんたちもいるんでしょ?」
『えぇ。いますよ。皆さんの声を聞かせて頂戴』
 こちらでも一言ずつ皆が話す。そして向こうにいる母親連中もそれに答えた。向こう側で少し涙声なのは仕方ないだろう。
 シスが悔しそうな顔をしていた。
『あ、そうそう。お前達に贈り物があるから、受け取っとけ』
 いきなり入った男の声。そしてあまりにも唐突な爆弾発言だった。
『さっさとしないと切るぞ。早くしろ』
 何故に? そう思いながらもこちら側で強く念じる。
 そして届いたものを確認する前に、向こうで電話を切った。

「……薬学の本。結構多めに寄越しやがったな。あの親父」
 千紘は思わず毒ついた。そしてカルテのコピーと今までの処方箋。そして医学の知識の本。
 なにやらかしてんだよ、そう思ったが、他に届いたものを見て愕然とした。

 翠のところには、中世ヨーロッパの建築の本が。そして城砦をどのように作るかまで書いている本である。
 それよりも、驚いたのが哉斗の所に届いた剣と紙だ。
「……親父~~~~~!!」
 既に哉斗がきれかかっている。
「『もし、聖女の名前がエルフリーデなら色々封印されているはず。一つは、魔法耐性の無い異性を中間に挟んで清めの魔法を唱えれば解ける』……哉斗兄、小父さん何者?」
 読んだ達樹が呆れたように哉斗を見つめていた。
「そうだよねぇ。さっきといい何か知ってるよね」
「とりあえずこれ、試すしかないと思うな」
 千夏と達樹が話し合っていた。
「魔法耐性が完全に無い人間というのは、この世界にいない……タツキがいたか」
「どういうことだ?」
「魔法耐性というのは、どういった魔法が使えるかということなんだ。例えば、チヒロ。君の場合だと火と土と光の魔法が使える。これ、逆を言えば、身体がその属性に耐えられるからこそ、使えるという考えなんだよ。
 そして、この世界は魔法の恩恵を受けている。つまり耐性が無い人間なんて生まれてすぐに淘汰されてしまう。
 ただ、間違えないで欲しいのは『耐性がある=魔法が使える』ではないということだよ。耐性があって、魔力があることが魔法を使える条件だ」
「じゃあ、どうして達樹は生きていられる?」
「偶然の産物だ。僕が召喚したから、耐性に関しては僕の庇護下にある」
「なるほどな」
 おそらく偶然ではないと千紘は思う。哉斗の父親がどこまで絡んでいるかは分からないが、「魔法耐性がない」という達樹の存在を誰かが欲して、シスの召喚魔法に干渉したのだろう。
「とりあえず、『清めの魔法』とやらを頼むわ。媒介に達樹を挟めば問題ないんだろ?」
 まずは一つずつ問題を解決していくしかない。

 あの魔法陣を知る、狸小父は一体何を知っているのだろうか。

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