「魔王様」の定義

神無乃愛

魔法を解くためにはどうしたらいいでしょう


「千紘! お前は酷すぎる!!」
 やはりというべきか、翆が千紘に噛み付いていた。
「翠兄、仕方ないよ。どういういきさつでこちらに来るか分からないんだからさ、大事なコレクションがなくなったらどうするの」
「そっ、それは大いに困る!! 俺が今まで苦労して集めた集大成が! 親父に何言われようが首藤の親父さんと千夏と共に語り合った思い出の品がぁぁぁぁ!!」
 達樹の突っ込みに、もしコレクションがどこかに消えてしまったらと想像した翆が頭を抱えて暴れ始めた。
「そうそう、首藤の小父さんに言われて、お父さんの書斎に魔法陣描いたんだよね~~」
 千夏の唐突過ぎる発言に達樹は驚いた。
「達樹が戻ってくるにしても、私たちがこっちに行くにしても『媒介』が必要なんじゃないかって、首藤の小父さんが言ったの。だから首藤の小父さんの言ったとおりに魔法陣描いたって訳。描き終わったと同時に、お兄ちゃんが達樹に電話し始めて、何百回目かのコールでやっと繋がったの。そして私たちが召喚されたの」
「首藤の小父さんって一体何者?」
「ただの公務員……のはず。俺だって親父の趣味についていけるわけ無いだろうが」
 哉斗の言葉に思わず達樹は頷いた。あの人の趣味は特殊すぎるのだ。何故に古代ルーン語が読めて、書けて、そして魔法に対する知識があそこまであるのだろうか。それに触発されたのが翠。そこからアニメやら小説やら色んなものに手を出して、今では生粋の「オタク」である。千夏は小学校時代からの友人に触発されたらしいが。それ故、血が繋がっていないはずの三人は、マニアックな話で盛り上がる。
 そして、それを真壁家でも高峰家でも黙認していやがる。唯一黙認しなかったのは、重見家だけだ。それでも入院中に真壁家にお世話になったおかげで、こうやって今でもつるんでいる。
「まぁ、いいさ。とりあえずしばらくはシスのことも考えて、空間を繋ぐ魔法は使わないほうがいいと思う。それよりも、聖女様のことも考えないと」
 こうなったら話を逸らすしかない、そう思った達樹は聖女様の話に持っていった。
「エルフリーデ様に関しては、今エリザベス殿とチカ、チナツに任せている。流石に女性の方がいいだろう」
「シス、その通りだけどさ。早く彼女に対する方針を決めないと不味いからね」
「僕だってそれくらいは分かっている。だけど、エルフリーデ様には色々と暗示までかかっていて進まない」
「暗示?」
「そうとしか思えない。言葉が話せないのは前にも言ったとおり、御声は魔法で封じられているし、偉大なる御力はご自身に無いと思っていらっしゃる」
 力が無いと暗示をかけられているなら、かなり厄介なことだ。そしてそこまでして力を使わせず、それでも「聖女」として崇め奉っているのはあまりにもおかしすぎる。
「達樹、悩むな。お前はどうしたい?」
「暗示くらい解きたいかな?」
 千紘の問いに、達樹は疑問系で返した。解ける自信はまったく無い。
「やればいい。お前はあの子を十歳くらいだといったが、俺は二十後半だと思ったぞ」
「だから、エルフリーデ様の御歳は……」
「それくらい矛盾があるって事だ、シスリード」
 千紘が、シスを冷たく突き放した。
「こうなったら、本人に俺が聞くよ」
 是非で答えられる質問で尋問していくしかない。

「さて、あなたに質問します。当たっていれば頷いてください。間違っていた場合は首を横に振ってください。いいですね?」
 達樹のその言葉に、聖女は頷いた。
「あなたの名前はエルフリーデで間違いないですか?」
 これにもこくんと頷いた。
「あなたは、『聖女』として神殿にいた」
 これも肯定。
「でも、あなたには力が無い」
 また、肯定。
「あなたの力は神殿の人間によって封じられた」
 その言葉に、彼女は驚いて達樹を見つめてきた。
「間違いないみたいだね」
「タツキ!!」
 シスが止めに入ろうとしたのを、千紘が止めていた。
 ある程度肯定させると、こういった態度をとる人間がいる。聖女様も同じだったらしい。あとは揺さぶりをかけていくだけだ。
「あなたの力はかなり特殊。だから神殿が封じた」
 そういう質問をする間にも、聖女様にかけられた魔法が何なのかを特定していく。
 解けるものであるならば、解いていきたい。
「強いて言うなら、あなたは『聖女』として崇められるのは嫌。そして、封じられたからという理由だけでなく、俺たちと話したくない。理由は自分の隠していることがばれるから、そして……」
「達樹、もういい」
 翆が呆れて達樹を止めた。
「お前、追い詰めすぎ」
「追い詰めたよ? そうしないと彼女の壁が破れないから」
「……お前の性格って、最悪だよな」
「翠兄、褒め言葉として受け止めておくから」
「タツキ! スイは褒めていない! 怒っている!!」
 生真面目にシスが突っ込みを入れた。このノリは本来であれば、翠が言った言葉を千紘が言い、シスが言った言葉を哉斗が言うはずなのだが、異世界こちらに来てから、少し変わった。
「シスリード=ファルス神官長、失礼します。エルフリーデ様にかけられた魔法が何か分かりました」
 入ってきた魔法医師ウィッチドクターの称号を持つ神官数人が、難しい顔をして言った。

 そして、厄介です。と。


「あまり言いたくはありませんが、タツキ殿たちが仰ったように、全て神殿の高位の者たちがかけたものに間違いありません。そして、その魔法は門外不出、と申し上げればお分かりいただけますでしょうか」
「ここに解ける者はいないのか?」
「神官長、あなたくらいの術者が数人がかりでないと、無理です。そして、一つは……」
 シスにだけ聞こえるように、神官の一人が言った。その瞬間、シスの顔から色がなくなった。
「それは……僕では解けない」
「はい。誰一人解くことが出来ません。それを解かないことには、エルフリーデ様の御声は戻りません」
「神殿の上層部もここまで腐っているとは」
 もう一人の神官がはき捨てるように呟いた。
「とりあえず、数日でいい。方法を探そう」
 シスが何とかそう呟いていた。



 一方、その頃。
「さて、エリは哉斗たちと会えたかな?」
 一人の中年男性が楽しそうに呟いていた。
「あなた……」
「うん。達樹君が最初に召喚されたのは以外だったけどね。哉斗たちも向こうに行けたし、エリにとっても悪くないでしょ?」
 大丈夫、戻ってくるよ。そう男は、隣にいる同じ歳くらいの女性をなだめていた。
「達樹君は分からないけどね。
 そうそう、あちらに贈るものに、これを付け加えておこうか。エリにも哉斗にも役に立つ」
 そう言って取り出したのは、一枚の紙と一振りの剣。
「明日にでも届けてあげて」
 どこへ、とは言わなかった。

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