「魔王様」の定義

神無乃愛

弟が悪巧みを始めました

 聖女様が休んだあとに、シスとエリザベスを加えて会議になった。
「聖女様にお力が無いなど、おかしな話ですわね」
「エリザベス殿、あなたもそう思いますか?」
 エリザベスとシスはすぐさま頷きあっていた。
「聖女、エルフリーデ様にお力が無いとなってしまうと神殿の威厳にかかわりますもの」
 そう考えるのが普通である。
「だけど、彼女は自分から無いと言い切ったに等しい」
「そこなんだよなぁ……。シス、明日彼女をちょっと調べて」
「タツキ、何を……」
「あの子、俺と同じ、、、、な気がするんだ」
 達樹の言葉は、千紘たちを黙らせた。
「タツキ様、わたくしたちにも分かるように説明してくださいまし」
 寂しげに笑いながら、達樹はシスとエリザベスに謝っていた。
「俺の家ってね、ちょっと特殊なんだ。……代々政治家を輩出している家なんだけど」
「政治家?」
「あぁ。政をする人間のことをあちらで言うんだ。あちらでは貴族が民を治めるのではなく、一応民から選ばれた人間が政治を行う。だから俺たちのいた国にはそこまで表立った身分差はない」
 シスの言葉に千紘は簡単に説明した。
「今、重見の姓で政治に携わっているのは祖父と父。……この父が問題の発端なんだけどね。
 父は元々重見の人間じゃない。祖父の一人娘である母の婿養子になった男なんだ。ぶっちゃけ、政治が何たるものだとか、あんまり教育されていない人間なんだよ。求心力も無い。ただ、重見の姓で政治家になったような男だよ。
 母の死後、はっちゃけてさ、重見の本家には出入り禁止になったんだ。愛人とか凄くて。『これ以上女を増やすなら、重見の姓を捨てて政治をしろ』って祖父に言われて、今は大人しいけど」
「なるほど。タツキのその『先見の明』を父親は利用して政に携わっているということか?」
「シス、すぐに分かってくれてありがとう。
 だけど後妻に入った女性はそれを知らないし、かといって父も母が存命の頃からのおつき合いだかなんだか知らないけど、尻にしかれているらしくて、俺が邪魔なんだ。表向き大事にして話は聞くけど、本当は父は俺が嫌いなんだよ」
 だけど達樹を表に出したくないし、達樹の能力を己の手柄にしたい、でも邪魔。という矛盾した考えの持ち主なのは、千紘たちもよく知っている。
 正直、それを黙認している達樹の祖父すら千紘は快く思っていない。
「さっき、同じって俺は言ったけど、俺の立場を逆にすればあの子の立場になると思うんだ。誰かの能力を知られたくないが為に、あの子を『聖女』に祀りたてた人物がいるんじゃないかな?」
「だから僕にエルフリーデ様の本当のお力を調べて欲しいということか?」
「そう。でないと、あの子が可哀相だ」
「分かった。僕で出来るところまでやろう。僕以上の力持ちなんて世界を見ればはいて捨てるほどいるはずだ。あまり期待はするな」
「ありあとう、シス」
 その直後、達樹の瞳が凶悪なものに変わった。……もう、問題起こす気だ。それが分かった瞬間、千紘は己の胃に痛みが走った気がした。
「兄さん、胃薬飲んどいたら?」
「そうする。千佳と哉斗も飲んどけ」
「……そうね」
「そうさせてもらう」
 千夏と翠は既にやる気だ。そうなれば千紘は千佳と哉斗と止めざるを得ない。……が、正直今まで千夏と翠を三人で止めたことはあっても、達樹もまとめて止めた経験は無い。その分不安が募ってしまうのだ。
「で、達樹どうするつもりなの?」
「千夏姉、どうするって、まだ何も分かっていないのに出来ないよ。分かってから色々考えるけど。とりあえず、あの子についててあげてよ。看護師なんだからさ」
「分かったわよ。とりあえずお兄ちゃんと一緒になって見に行くわ」
 今、千夏に連れて行かれたら達樹の暴走は止められない。思わずエリザベスとシスに目配せをした。
「戻ってきたついでですもの、タツキ様。あなたにお仕事をお願いしてよろしいでしょうか?」
「え? 俺たちが関わんなくても回るようにしたよね?」
 そう、この自治区の政治に関しても、しっかりと後任がいる。つまり達樹が悪巧みしやすくなるのだ。
「こちらは人手が足りませんもの。あとは国王陛下からも謁見要請がありますし……わたくしだって休みが欲しゅうございますわ」
「……分かった。エリザベスさんの仕事明日からの分、俺が手伝います」
「ご理解ありがとうございます」
 よし、これで悪巧みの一つは防げたと千紘はほっとした。あとは千佳と哉斗に任せるしかない。シスは既に聖女様のことで頭がいっぱいのようだった。
「エメラルドちゃん、これ預かってて」
 やっとひと段落ついたと思った瞬間、達樹は妖精ピクシーに何かを頼んでいた。……こればかりは嫌な予感しかしない。
「なんだったら、君が仕える『魔王様』に差し上げても構わないよ?」
『!!』
 罠を張り巡らせはじめたな、千紘は呆れて部屋をあとにした。

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