「魔王様」の定義
それって誰のこと??
あっという間に三ヶ月は過ぎた。未だにアネッサ嬢の居場所はつかめないがそろそろ動き出さなくてはいけない。
自警団も無事機能しているし、この自治区だけに限れば、魔物を狩るのは、他者へ攻撃を加えた時に限られるようになってきている。
自我を持たない低級な魔物は、あっという間に自警団や流入してきた他の魔物たちによって駆逐されていくのだ。
つまり、この自治区に限って言えば「冒険者」は必要がなくなっているのである。王家などが秘密裏に「冒険者」を雇い、自治区内に軋轢を生むよう仕掛けているようだが、そのあたりの対処は最初からシスとエリザベスに任せている。
千紘たちの後継者もそれなりに育成されている。この自治区を保つくらいなら、彼らでもう出来るはず、それが達樹の出した見解だった。
「千紘兄、緊急オペとか入りそう?」
「……入らんな。『魔法医師』『治癒者』ともにある一定の人材は最初から揃ってたからな」
メス等の医療機器も揃った現在、ここで千紘たちが指導する必要性もないらしい。
「『薬師』も問題ないぞ~。調合はやってみないと分からないみたいだし。千佳のほうが教えてもらってるくらいだからな」
そう答えたのは翆だ。勿論、「鍛冶屋」はドワーフやそれを心酔する弟子たちが多いため問題はない。測量機器も建築用機材も揃っているし、煉瓦作りにも魔法を応用するということでかなりの時間短縮が出来ている。
「科学的な能力がここはそこまで必要とされていないんだ。根本的なものを取り除いただけで、ここまで進歩するとはな」
哉斗も付け足してきた。
産業革命から環境保全という百年以上かかってもまだ終わらぬ出来事を、地球の知識と魔法を組み合わせたら、あっという間にそれ以上の効果を成し遂げてしまったのだ。
「おらよ、旅立つなら武器と銀路は必要だろ」
クンツォーネがそう言って差し出したのは、試行錯誤で出来た大量の武器と防具だった。それをブロンズの髪と群青色の瞳をした、親指くらいの身長の妖精の空間魔法で一つにまとめていく。
「いつ、君は来たの?」
達樹は妖精たちとはまったく交渉をしていない。
『面白そうなんだもの。だから私だけ協力するの。他の仲間の子は期待しないで』
「しないよ。ありがとう、君が協力してくれるだけで助かるよ。名前は?」
『人間には教えないわ』
その一言でこの妖精が危険だと判断しておく。
「さて、一緒に行きますか? お望みのままに、妖精さん」
とりあえずこっそりシスにお願いして、このピクシーを捕縛した。
この自治領内の道には全て煉瓦が敷き詰められ、排水溝もしっかり出来た。馬車で通ったとしても揺れることはない。
これから先、達樹はひたすら記録していくだけだ。
ただ、客観的に。
後に、「聖魔王」と呼ばれる男の、旅の始まりだった。
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