連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/最終回/:1人の少女
北の大きな国で戦争を起こした。
その成果はあまり芳しくなく、あまり人が減らなかった。
人が減らなければ世界全体の魔力量は多くなり、ヤラランの存在が小さくなる。
つまり、ヤラランが2割の悪魔力を担ってるといっても、1.9割、1.8割と割合が小さくなってしまう。
だから人は死ななくてはならないのに、今回の戦争では大国同士のくせにあまり死ななかった。
それもこれも――。
『――ミズヤ・シュテルロードめ』
ミズヤ・シュテルロードという男がバスレノスに貢献し、クオン・カライサール・バスレノス皇女が戦争の無意味さを提唱したためである。
何もわかっていない。
誰も、何もわかっていない。
戦争が起きなければ、平和がないということを。
いや、それも仕方がないのです。
今となっては、この場所を知る人間もいないでしょう。
私は1人でここを支配し続けなくてはいけない。
永遠に、1人で――。
『……人骸鬼を、作ろうか』
人間が減らないなら仕方ない、人骸鬼を作るしかないのです。
私は最下層に向かい、骨の腕でキーを操作して、なんごとなしに人を作りました。
最近はもう機械が古いのか、生み出すたびに煙が出るようになりました。
生み出されるガラスケースは煙で満たされ、それが晴れると少女が居た。
もう今更外見などどうでもいい。
どうせ人骸鬼となるのだから。
「……うー?おー」
『……すまないな』
私はそれだけ言って、800万の悪魔力を少女に送った。
悲痛な叫び声がする。
これももう、慣れてしまった。
倫理観など意味がないというルガーダスさんの言葉も、今なら理解できます。
『【完全制御】』
冷淡な口調で魔法を唱え、生み出された煙から出てくる人骸鬼を制御し、その場に倒れさせました。
『……あと30体は作るか』
およそ、2層から6層はもう埋まっている。
あとは7層だけだから、慎重に作らなくてはいけない。
私はもう一度、所定の数字を入力して人を作り出す。
充満した煙がガラスケースから溢れ出てケースの扉が無理に開いた。
……装置を掃除するにしても、掃除の仕方もわからないのだからどうしようもない。
とりあえず、煙が収まるまでは待つことにした。
「――ゲホッゲホッ、うえっ、なんでこんなに煙があるの……?」
『……?』
どこからか、声がした。
私でも理解できる声。
鈴のなるような、少女の声――。
なぜこの場所で?
そんな事を思い、注意を喚起する。
「ひゃっ!?なっ、ななな、なんで裸!?やだ……お、男の人とか、いないよね?」
『…………』
声は間違いなく、ガラスケースの中からした。
初めてだった、知性のある人間が生まれたのは。
しかも、普通に話しているし、言葉も通じそうだ。
自我があるというのが正しい認識であろう。
彼女は自分が人間であり、周りの煙の存在についても認知している。
つまり、誰か、人の記憶が――?
「……あ、こっちから煙が出てる。で、出口?」
ヒタヒタと音を立てて、煙で満たされたガラスケースから少女は姿を現した。
煙を多少纏いながらも、その体は白磁の肌であり、なかなか豊満な肉体を持った少女だった。
髪は長い黒髪で、目は潤んだ優しい瞳、口元は小さく、むーっと尖らせて辺りを注意している。
やがてその少女は、私の姿を見つけ、尻餅をついた。
「キャッ!?おっ、おおお、お化けぇ!?」
『……随分と失礼な事を言うのだな』
「えっ?あ、す、すみません……」
自身の事を抱きしめながら、軽く謝罪をする少女。
……可愛らしい仕草だが、おどおどしすぎだ。
「……あ、あの。ここはどこだか教えてもらえませんか?あと、着る服とかご用意していただけたら、その……ありがたいかな〜、って……」
『……ここはサウドラシア西大陸の地下。それにしても服か……其方も裸でいるのは苦しいだろう。待っていろ』
魔王らしい口調で彼女にそう告げて踵を返す。
「さ、サウドラシア……。なんか異風だなぁ……」
『……そうだ。其方、名はなんと申すのだ?』
「え?」
ホールを出る前に尋ねると、彼女は素っ頓狂な言葉を返した。
ここまで話が通じ、サウドラシアを“異風”と言うのだ。
彼女にはなんらかの記憶がある。
ならば、名ぐらいあるだろう。
『……少しばかり、其方には聞きたいことがある。話すのに、名も呼ばぬのは無礼だろう?』
「え、あ、はい。そ、そうですよねっ」
『…………』
本当におどおどしていて、どうにも落ち着きがない。
まぁ、私の顔を見ればそれも仕方がないのでしょうけどもね。
人じゃない姿の女に言われても仕方ないはず。
私こそ、自己紹介が必要だろう。
『……私から自己紹介しよう。魔王、フォルシーナだ。わけあって魔王をやっている』
「は、はぁ……魔王様とは恐縮です」
『…………』
恐縮って、なんでですか。
本当に変わった女性ですね……。
『……して、其方は?』
「あ、はい……。私、私は――
――霧代。川本霧代……です……」
ぎこちない表情と震えた声で、彼女は名を告げた。
next.連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
その成果はあまり芳しくなく、あまり人が減らなかった。
人が減らなければ世界全体の魔力量は多くなり、ヤラランの存在が小さくなる。
つまり、ヤラランが2割の悪魔力を担ってるといっても、1.9割、1.8割と割合が小さくなってしまう。
だから人は死ななくてはならないのに、今回の戦争では大国同士のくせにあまり死ななかった。
それもこれも――。
『――ミズヤ・シュテルロードめ』
ミズヤ・シュテルロードという男がバスレノスに貢献し、クオン・カライサール・バスレノス皇女が戦争の無意味さを提唱したためである。
何もわかっていない。
誰も、何もわかっていない。
戦争が起きなければ、平和がないということを。
いや、それも仕方がないのです。
今となっては、この場所を知る人間もいないでしょう。
私は1人でここを支配し続けなくてはいけない。
永遠に、1人で――。
『……人骸鬼を、作ろうか』
人間が減らないなら仕方ない、人骸鬼を作るしかないのです。
私は最下層に向かい、骨の腕でキーを操作して、なんごとなしに人を作りました。
最近はもう機械が古いのか、生み出すたびに煙が出るようになりました。
生み出されるガラスケースは煙で満たされ、それが晴れると少女が居た。
もう今更外見などどうでもいい。
どうせ人骸鬼となるのだから。
「……うー?おー」
『……すまないな』
私はそれだけ言って、800万の悪魔力を少女に送った。
悲痛な叫び声がする。
これももう、慣れてしまった。
倫理観など意味がないというルガーダスさんの言葉も、今なら理解できます。
『【完全制御】』
冷淡な口調で魔法を唱え、生み出された煙から出てくる人骸鬼を制御し、その場に倒れさせました。
『……あと30体は作るか』
およそ、2層から6層はもう埋まっている。
あとは7層だけだから、慎重に作らなくてはいけない。
私はもう一度、所定の数字を入力して人を作り出す。
充満した煙がガラスケースから溢れ出てケースの扉が無理に開いた。
……装置を掃除するにしても、掃除の仕方もわからないのだからどうしようもない。
とりあえず、煙が収まるまでは待つことにした。
「――ゲホッゲホッ、うえっ、なんでこんなに煙があるの……?」
『……?』
どこからか、声がした。
私でも理解できる声。
鈴のなるような、少女の声――。
なぜこの場所で?
そんな事を思い、注意を喚起する。
「ひゃっ!?なっ、ななな、なんで裸!?やだ……お、男の人とか、いないよね?」
『…………』
声は間違いなく、ガラスケースの中からした。
初めてだった、知性のある人間が生まれたのは。
しかも、普通に話しているし、言葉も通じそうだ。
自我があるというのが正しい認識であろう。
彼女は自分が人間であり、周りの煙の存在についても認知している。
つまり、誰か、人の記憶が――?
「……あ、こっちから煙が出てる。で、出口?」
ヒタヒタと音を立てて、煙で満たされたガラスケースから少女は姿を現した。
煙を多少纏いながらも、その体は白磁の肌であり、なかなか豊満な肉体を持った少女だった。
髪は長い黒髪で、目は潤んだ優しい瞳、口元は小さく、むーっと尖らせて辺りを注意している。
やがてその少女は、私の姿を見つけ、尻餅をついた。
「キャッ!?おっ、おおお、お化けぇ!?」
『……随分と失礼な事を言うのだな』
「えっ?あ、す、すみません……」
自身の事を抱きしめながら、軽く謝罪をする少女。
……可愛らしい仕草だが、おどおどしすぎだ。
「……あ、あの。ここはどこだか教えてもらえませんか?あと、着る服とかご用意していただけたら、その……ありがたいかな〜、って……」
『……ここはサウドラシア西大陸の地下。それにしても服か……其方も裸でいるのは苦しいだろう。待っていろ』
魔王らしい口調で彼女にそう告げて踵を返す。
「さ、サウドラシア……。なんか異風だなぁ……」
『……そうだ。其方、名はなんと申すのだ?』
「え?」
ホールを出る前に尋ねると、彼女は素っ頓狂な言葉を返した。
ここまで話が通じ、サウドラシアを“異風”と言うのだ。
彼女にはなんらかの記憶がある。
ならば、名ぐらいあるだろう。
『……少しばかり、其方には聞きたいことがある。話すのに、名も呼ばぬのは無礼だろう?』
「え、あ、はい。そ、そうですよねっ」
『…………』
本当におどおどしていて、どうにも落ち着きがない。
まぁ、私の顔を見ればそれも仕方がないのでしょうけどもね。
人じゃない姿の女に言われても仕方ないはず。
私こそ、自己紹介が必要だろう。
『……私から自己紹介しよう。魔王、フォルシーナだ。わけあって魔王をやっている』
「は、はぁ……魔王様とは恐縮です」
『…………』
恐縮って、なんでですか。
本当に変わった女性ですね……。
『……して、其方は?』
「あ、はい……。私、私は――
――霧代。川本霧代……です……」
ぎこちない表情と震えた声で、彼女は名を告げた。
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