連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/156/:魔王
一度は魔物の地になりはしたものの、西大陸はほぼ人間の地になり、私が魔物の倉庫として使える範囲は地下神殿のみになりました。
1日に何百という魔物を作るのに、倉庫の容量は限られる。
だったら、作る魔物は人骸鬼が――。
都合がいい――。
私は心が限界でした。
もうこんな苦痛を味わい続けるなら狂ってしまうと、自分でもわかったんです。
どうしたらこの心は少しでも軽くなるのか、考えました。
善行をする?
私が行っているのは善行です。
地上でストレス発散?
良いアイデアですが、私に遊ぶ権利と時間があるでしょうか――?
何もない。
何もないんです。
だから、私は魔物を作りながら、心が重い原因を考えました。
簡単です、良心の呵責がある。
つまりは人骸鬼を作ることと、魔物を地上に放つ事に後ろめたい気持ちがあるんです。
人を殺すのは、私は好きではない。
なのに、私が野に放った魔物は人を殺す。
人を殺すのは、私は好きではない。
なのに、私は人の形をしたものを殺し、人骸鬼を作る。
そう、そんな、良心が許さない行為をする。
つまり、私は許されてない――。
だったら、償えばいい――。
「……これでいいはず」
私は自分で魔物の生まれる透明な巨大ガラスケースの中に入りました。
画面にはあらかじめ善を0、悪を700万の数字を打ち込んであります。
魔力だけなら体の変化しかない。
心からくる魔力は体の変化もある。
このことはルガーダスさんの言ってたことを加味して、私なりに考えた結果です。
だったら――心さえなくならず、人骸鬼にならなくば、私も悪魔力を吸いましょう。
いや、もともとこうするべきだったんです。
魔物を作る私が無傷で居ていいはずがない。
たとえ骨ばった姿や痛々しい姿になったとしても、構いはしない――。
だって、もう私は、ヤラランに顔向けなんてできないから――。
「……スタート」
無色魔法で魔力の注入を開始するキーを遠隔で押す。
痛い。
溢れてくる悪魔力が黒い霧となって体を蝕む。
痛い、叫びたい、辛い。
頭に激しい頭痛が、体全体は筋肉が裂けるような鈍い痛みが続きました。
耐える、ひたすらに耐える。
私はこれまでなにをしてきた?
私の指示で友人を殺し、地上でも何万という人が死んだ。
それに比べれば、この程度のことなど――。
――――。
『……ハァ……ハァ』
魔力注入が終わると、私は倒れふしました。
体にあるあちこちの痛みが辛いけれど、なんとか心はある。
意識がある。
まだ、ヤラランを反善の剣で斬ることはできる。
それだけで、私は満足でした。
『……今日は、このくらいで……』
今日はもう寝ようと思って呟いた言葉。
自分で言って、違和感を感じました。
声が、二重に聞こえる。
それだけじゃなく、ガラガラとした声で、音程も低く、まるで自分の声じゃないみたいな――。
『……そりゃ、声も変わりますか』
男がエコーを付けて喋るような声で、ポツリと呟きました。
こんな事で、私はヤラランに気付いてもらえるのでしょうか……。
そんな不安がありました。
ふと、自分の腕を見てみる。
手首から肩に掛けて、肉のあった私の腕は白い骨になってました。
手首には漆黒の羽があって、手のひらは変わらず人の形をしている。
手首に羽――それは人骸鬼と似ている。
どうなっているのか気になって、私は立ち上がり、8層洗面台まで向かいました。
鏡を見ると、なんとか顔の原型はありました。
髪は黒く染まり、その反面、顔は色白に。
赤かった筈の瞳は黄金色に変化し、瞳からは血の涙が落ちた線の軌跡がありました。
頭に引っ付いているのかわかりませんが、錆びて銅の色をした王冠がありました。
不思議と重さはなく、頭は軽い。
腕も肉がなくなって軽いけれど、それとはまた違う。
胴体は無事で、足もあります。
ただ、全体的に色白になってました。
悪魔力を受け入れてなぜ体が白くなったのかはわかりませんが、その反面髪は黒くなったし、これで良いのでしょう。
いろんなわからないことを抱えたまま、私は眠りにつきました。
わからないことは次期にわかる、そう信じて。
数十年の時が経ちました。
どうやらもう私は肉体が不老らしく、肉体は変わらないようです。
人間は地上で“魔破連合”という組織を作り出し、世界各地で魔物を倒して警備する職業を作ったらしい。
それと、フラクリスラルは衰退しました。
軍をかなりの数失い、さらには王、侯爵も死んだのだからそうでしょう。
現に、国も大部分が他国に乗っ取られたらしく、各国の主力は変わりました。
あとは特に目立った変化もなく、平和でした。
西大陸はネソプラノスというタルナの作った国が再現されてますが、彼が王ではなかったです。
タルナの行方は知りませんが、きっと、私と会ってもわからないからいいでしょう。
そうそう、楽器を弾き、大掛かりな魔法を使うツワモノが現れたそうです。
大体の予想はつきましたが、楽器を武器に戦うクズが生まれてしまったということでしょう。
楽器を作った製作者の意図など欠片も考えない、そんな奴が――。
だけれど、人骸鬼や邪悪音龍と戦うならそれぐらいの猛者が出るのも仕方がないと諦めました。
特に、邪悪音龍は咆哮1つで全方位のものを壊す。
ヤラランが悪幻種化したときのあの叫びと同じなんでしょう。
だったら、対抗手段としては仕方ないと考えました。
私の持ってる楽器は4つ。
ヤラランのヴァイオリン、私のフルート。
タルナのギター、ミュラリルちゃんのアコースティックベース。
3つが世界で使われるだけなら、私も構わない。
代わりに私は――世界各地で戦争を誘発させました。
人に欲を出させ、戦う魔法武器を作り、ある程度の戦乱で人口を削除したんです。
これが私のやることか?
そんな問いはもう意味がない。
私はやることをやる。
やり続けなくてはいけないんだから――。
そうそう、私は変わったんです。
地上に出た時、人に会う時、話し方はサァグラトス王の様な威厳ある話し方にしています。
一人称を余とし、偉ぶった態度を示す。
だから、自らを王としなくてはならない。
だから、自分を名乗る時、必ずある言葉を付けました。
――『魔王』フォルシーナ、と。
なるほど、これはしっくりくる――。
そして――。
ヤラランの封印から、150年の月日が経ちました――。
1日に何百という魔物を作るのに、倉庫の容量は限られる。
だったら、作る魔物は人骸鬼が――。
都合がいい――。
私は心が限界でした。
もうこんな苦痛を味わい続けるなら狂ってしまうと、自分でもわかったんです。
どうしたらこの心は少しでも軽くなるのか、考えました。
善行をする?
私が行っているのは善行です。
地上でストレス発散?
良いアイデアですが、私に遊ぶ権利と時間があるでしょうか――?
何もない。
何もないんです。
だから、私は魔物を作りながら、心が重い原因を考えました。
簡単です、良心の呵責がある。
つまりは人骸鬼を作ることと、魔物を地上に放つ事に後ろめたい気持ちがあるんです。
人を殺すのは、私は好きではない。
なのに、私が野に放った魔物は人を殺す。
人を殺すのは、私は好きではない。
なのに、私は人の形をしたものを殺し、人骸鬼を作る。
そう、そんな、良心が許さない行為をする。
つまり、私は許されてない――。
だったら、償えばいい――。
「……これでいいはず」
私は自分で魔物の生まれる透明な巨大ガラスケースの中に入りました。
画面にはあらかじめ善を0、悪を700万の数字を打ち込んであります。
魔力だけなら体の変化しかない。
心からくる魔力は体の変化もある。
このことはルガーダスさんの言ってたことを加味して、私なりに考えた結果です。
だったら――心さえなくならず、人骸鬼にならなくば、私も悪魔力を吸いましょう。
いや、もともとこうするべきだったんです。
魔物を作る私が無傷で居ていいはずがない。
たとえ骨ばった姿や痛々しい姿になったとしても、構いはしない――。
だって、もう私は、ヤラランに顔向けなんてできないから――。
「……スタート」
無色魔法で魔力の注入を開始するキーを遠隔で押す。
痛い。
溢れてくる悪魔力が黒い霧となって体を蝕む。
痛い、叫びたい、辛い。
頭に激しい頭痛が、体全体は筋肉が裂けるような鈍い痛みが続きました。
耐える、ひたすらに耐える。
私はこれまでなにをしてきた?
私の指示で友人を殺し、地上でも何万という人が死んだ。
それに比べれば、この程度のことなど――。
――――。
『……ハァ……ハァ』
魔力注入が終わると、私は倒れふしました。
体にあるあちこちの痛みが辛いけれど、なんとか心はある。
意識がある。
まだ、ヤラランを反善の剣で斬ることはできる。
それだけで、私は満足でした。
『……今日は、このくらいで……』
今日はもう寝ようと思って呟いた言葉。
自分で言って、違和感を感じました。
声が、二重に聞こえる。
それだけじゃなく、ガラガラとした声で、音程も低く、まるで自分の声じゃないみたいな――。
『……そりゃ、声も変わりますか』
男がエコーを付けて喋るような声で、ポツリと呟きました。
こんな事で、私はヤラランに気付いてもらえるのでしょうか……。
そんな不安がありました。
ふと、自分の腕を見てみる。
手首から肩に掛けて、肉のあった私の腕は白い骨になってました。
手首には漆黒の羽があって、手のひらは変わらず人の形をしている。
手首に羽――それは人骸鬼と似ている。
どうなっているのか気になって、私は立ち上がり、8層洗面台まで向かいました。
鏡を見ると、なんとか顔の原型はありました。
髪は黒く染まり、その反面、顔は色白に。
赤かった筈の瞳は黄金色に変化し、瞳からは血の涙が落ちた線の軌跡がありました。
頭に引っ付いているのかわかりませんが、錆びて銅の色をした王冠がありました。
不思議と重さはなく、頭は軽い。
腕も肉がなくなって軽いけれど、それとはまた違う。
胴体は無事で、足もあります。
ただ、全体的に色白になってました。
悪魔力を受け入れてなぜ体が白くなったのかはわかりませんが、その反面髪は黒くなったし、これで良いのでしょう。
いろんなわからないことを抱えたまま、私は眠りにつきました。
わからないことは次期にわかる、そう信じて。
数十年の時が経ちました。
どうやらもう私は肉体が不老らしく、肉体は変わらないようです。
人間は地上で“魔破連合”という組織を作り出し、世界各地で魔物を倒して警備する職業を作ったらしい。
それと、フラクリスラルは衰退しました。
軍をかなりの数失い、さらには王、侯爵も死んだのだからそうでしょう。
現に、国も大部分が他国に乗っ取られたらしく、各国の主力は変わりました。
あとは特に目立った変化もなく、平和でした。
西大陸はネソプラノスというタルナの作った国が再現されてますが、彼が王ではなかったです。
タルナの行方は知りませんが、きっと、私と会ってもわからないからいいでしょう。
そうそう、楽器を弾き、大掛かりな魔法を使うツワモノが現れたそうです。
大体の予想はつきましたが、楽器を武器に戦うクズが生まれてしまったということでしょう。
楽器を作った製作者の意図など欠片も考えない、そんな奴が――。
だけれど、人骸鬼や邪悪音龍と戦うならそれぐらいの猛者が出るのも仕方がないと諦めました。
特に、邪悪音龍は咆哮1つで全方位のものを壊す。
ヤラランが悪幻種化したときのあの叫びと同じなんでしょう。
だったら、対抗手段としては仕方ないと考えました。
私の持ってる楽器は4つ。
ヤラランのヴァイオリン、私のフルート。
タルナのギター、ミュラリルちゃんのアコースティックベース。
3つが世界で使われるだけなら、私も構わない。
代わりに私は――世界各地で戦争を誘発させました。
人に欲を出させ、戦う魔法武器を作り、ある程度の戦乱で人口を削除したんです。
これが私のやることか?
そんな問いはもう意味がない。
私はやることをやる。
やり続けなくてはいけないんだから――。
そうそう、私は変わったんです。
地上に出た時、人に会う時、話し方はサァグラトス王の様な威厳ある話し方にしています。
一人称を余とし、偉ぶった態度を示す。
だから、自らを王としなくてはならない。
だから、自分を名乗る時、必ずある言葉を付けました。
――『魔王』フォルシーナ、と。
なるほど、これはしっくりくる――。
そして――。
ヤラランの封印から、150年の月日が経ちました――。
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