連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/155/:3年

 あれから3年経ちました。
 食物は地上に行けば自然と育った野菜や果物を食べ、水は川から汲んでそれで過ごしました。
 【界星試料】の研究はまだまだで、終わる兆しはありません。
 魔法の方はどんどん新しい知識は増えます。
 矢張り専門分野であり、趣味であり、こちらの方が好きでした。
 魔物については、生み出し続けています。
 多種多様の魔物を作り、飛行可能なものは完全制御コンプリート・マネージで物置にし、飛べないものは陸に飛ばす。
 どのくらいの悪魔力が西大陸にあるのかは知りません。
 だけど、きっともう、善が8、悪が2ぐらいになったのではないでしょうか。
 そう思い、私はヤラランと魔物以外を選択に取り、界星試料で世界の善悪比を見ました。

「……7.1:2.9?」

 映し出されたのは絶望の値。
 嘘だと思いました。
 もう何十万と魔物を生み出してるのに、どうして比率は殆ど変わってないのか。
 魔物は人間に悪いことをする存在で、魔物同士の潰し合いもなく、寿命も死ななければほぼ不死なのに……。

 そのとき、世界全体の魔力量を見ました。
 善魔力は48兆から上がり、56兆。

 何故こんなに増えてるのでしょうか?
 私は少しそのことを考え、南大陸に偵察に行きました。

 私は圧巻しました。
 人口が増えてたのです。
 家と家の距離は近く、高層の集団住宅が立ち、人々は窮屈に暮らしてたんです。

 理由は単純明快。
 1つ、西大陸という領土が無くなった。
 2つ、世界がほぼ平和になった。
 人が死ぬことがなくなり、人は増え、なのに領土がない……。
 私は悩みました。
 どうしたらこの問題が解決されるのかを。
 なに、答えは簡単です。
 ようは――



 人が死んで、西大陸を渡せば良いのでしょう?



「――アハハハハハハハハハッ!!」

 そのことに気付くと、私は狂ったように笑いました。
 人を殺すのがどれだけ自分にとって重苦しいことで、ヤラランの志に背くことで、私が1番やりたくないことなのに。
 なのに、世界の平和を維持するためには殺すしかない。
 非情だ、非情すぎる――。
 私をここまで狂わそうとするなんて、いっそ狂えればどれだけマシであろう。
 だけどそれはできない。
 私には彼との約束がある。
 もう一度あの剣で刺すまでは、狂うわけにもいかない。
 どんな事にも耐え忍び、身を削ろうと魂を擦り減らそうと、心を狂気に明け渡して、約束を果たせないようになるのだけはゴメンです!!

「――やってやります、やってやりますよ……。私、私は――」




 ――どうせ死ぬこの命、世界のために使ってやりますよ――。





 その日の夕刻より、世界各地の至る場所に魔物を排出し始めた。
 なに、手順は魔物を作って地上に放出するのだから大差ない。
 瞬間移動があるのだから苦ではなかった。

 西大陸に侵攻するよう、タルナやバスレノスの王に話を持ちかけました。
 いろんな魔物の弱点も教え、彼らは大分の地域を1年余りで侵略してくれました。

 魔物はほぼ弱いものばかりを排出したためか、減少は著しく激しい。
 だから、人骸鬼や邪悪音龍エヴィル・サウンド・ドラゴンなどの放出も微々たるものでありながらも始めました。
 人骸鬼は物理に弱いだけあってかなり死ぬため、放出の度合いは次第に多くなりました。

 だから――。



 1人の少年ができました。
 善悪調整装置で作った、髪がボサボサで無垢な目をした少年。
 筋肉もなくひょろひょろな体つきの男の子――。

「……ごめんなさい」

 どうしようもない弱々しい声で謝罪しました。
 けれど、きっとそれは聞こえなかったでしょう。
 少年はぼーっとしたまま辺りを見渡してます。
 そんな可愛い少年に、私は何をしているんでしょうか――。
 自分で打ち込んだ、画面に表示された文字を見ます。

 善魔力:0
 悪魔力:8000000

 言葉もありませんでした。
 もはや私の倫理観など狂っているのは間違いないんです。
 世界のために――そんな言葉でこのような犠牲を作る。
 もう私は、その事に――

 ――戸惑いはありませんでした。



 ボタンを押した刹那、響き渡った少年の叫び。
 私は1人、暖かい雫が頬を伝うのを感じ、泣き崩れるのでした。

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