連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/149/:阻止
2本の槍と3本の刀が女の体を貫いた。
音はない、この場は静寂だけが支配する世界に移り変わる。
しかし、静寂は長く続かない。
「……流石に、手加減し過ぎたかしら?」
ちょっと意外そうな、死神の声によって。
刹那、ポンっと音を立てて死神の体が煙に包まれる。
全員その場から飛び、煙が晴れると、ノールが置き去りにしたのか、2本の槍は貫いていた。
黒い、猫の人形を――。
「ほらほら、いつまでそんなの見てるのよ? こっちよ、こっち」
声は俺たちの背後から聞こえ、即座に振り返る。
俺たちの立っていた位置に死神はおり、フォルシーナの首筋に漆黒の刀を当てていた。
片腕を抑えられており、上げざるを得ないフォルシーナの顔は苦痛に歪んでいる。
「フォルシーナ!!」
「ウフフ。大丈夫、簡単に殺したりはしないわ。ヤラランくんの想い人ですものね? 痛ぶるから、皆さんはそこで“伏せなさい”」
『!!!?』
奴が言い終わると共に、とんでもない重圧を感じて俺たちは全員倒れ伏した。
立ち上がるどころか指一本動かすこともままならない。
「ッ! フォルッ、シーナ!!」
「恋人がお呼びね? でも、返してあげないわ。フフッ、貴方も“固まりなさい”」
「クッ……」
死神は剣を下ろし、フォルシーナから2歩距離を取った。
なのに、フォルシーナは動かない。
アイツ、言ったことが魔法になるのか……!?
「いい子ね……さぁ、まずは指を切り落としましょうか。きっと良い叫びの音色を奏でてくれるのでしょう? ウフフフフ……」
「やめろぉおおおおおおお!!!!」
俺は叫んだ。
しかし死神は不敵に笑ってフォルシーナの手を持った。
俺の言うことなど、奴が聞くわけがない。
だったら止めないと。
動け、体!
こんな重圧なんて……!!
「じやあ、まずは1本ね」
死神が刀を振り上げる。
俺の体はどんなに力を込めても動いてくれない。
指1本すら――。
俺の無力な様子を見ながら、死神は刀を振り下ろした。
悲鳴をあげる姿を見ることなど出来ず、俺は目を瞑る。
いつまで経っても悲鳴はなかった。
ポトリと指が落ちるような音もない。
何が起きたのかと思い、ゆっくりと瞼を開いた。
「……ごほっ」
目に映ったのは、腹部に穴が開き、口から血を吐き出す死神の姿。
彼女の手から鋭利な刀が乾いた音を立てて落ちる。
「……いったいわぁ〜。何してくれるのよ……」
言いながら、死神が振り返る。
上を見上げた死神、俺も目だけ上に向けた。
そこに居たのは俺と顔が似た少年だった。
白いブラウスに肩章と赤のマントを付け、腰には盾の形をした草摺が左右につき、軽衫と妙に先の長い靴を履いている。
頭には2本の角と三角の形をした帽子を被っている。
顔の造形は俺とよく似ていたが、目つきに至っては俺より悪く、口を噤んでいる。
彼も羽衣をしており、その力なのか、宙を浮いていた。
「……アキュー? 何でこんな所にいるのよ?」
「"善"に呼ばれて飛び出してきたのさ。まさか、本当に君がいるとは思わなかったよ、セイ」
宙に浮く少年と死神が対話する。
アキューという少年は死神の知り合いのようだ。
それはおそらく、敵対関係としての……。
「僕に恨みがあるなら直接僕に攻撃しろ。"他世界"に干渉するな」
「嫌よ。貴方に迷惑掛ける為にやってるんだもの。まったく、そんなに怒らなくてもいいじゃない。“自由律司神”様はそんなに立場がないのかしら?」
「立場とかの問題じゃない。僕としては君を殺したくないんだ。投降すれば、僕が進言して悪いようにはしないぞ?」
「……さぁて、どうしようかしらねぇ」
会話をしているうちに、死神の体は修復していった。
アイツ、不死身か?
というか、自由“律司神”って……。
「……ダメね、私は貴方を受け入れられない」
「なら僕も君を受け入れない。ここで死んでもらう」
「あはははははははっ! そうはいかないわ! まだまだ私は楽しみたいのですも、のっ!!」
「ッ!」
咄嗟に死神はこちらに手を向け、善悪調整装置へと黒い魔力の塊を放った。
何も遮るものはなく、被弾した装置は画面が割れ、キーボードは吹き飛び、剥き出しになった中身から炎や電気が漏れていた。
「何て事を……!!」
「あはははは!! またねアキュー! 逃げさせてもらうわ!!」
「ッ――!」
死神は姿が透け始め、軈て姿を消した。
それと同時に重圧も消え去り、俺たちは立ち上がる。
……逃げた?
これだけのことをして、最後には逃げるのかよ……。
「……仕方ない、【界星試料】を修復するか。2人に怒られたくもないしね」
ため息を吐きながらアキューはゆっくりと降り、コツコツと歩いて俺たちを通り過ぎ、善悪調整装置の前に立った。
「ふむ、この程度ならなんとかなりそうだね」
そう言って、アキューは装置に右手を翳す。
すると壊れた装置はライトグリーンの光を放ち始め、部品もないのに中に細かい装置が出現し、徐々に直っていった。
「……さて、君達の方が問題かな」
左から少年は振り返り、俺たちを見渡す。
そして、左手の人差し指を立て、軽い調子でこう言った。
「初めまして。僕は自由律司神。最初生きてた頃はアキュー・ガズ・フリーストって呼ばれてた。少しの間、よろしくね」
音はない、この場は静寂だけが支配する世界に移り変わる。
しかし、静寂は長く続かない。
「……流石に、手加減し過ぎたかしら?」
ちょっと意外そうな、死神の声によって。
刹那、ポンっと音を立てて死神の体が煙に包まれる。
全員その場から飛び、煙が晴れると、ノールが置き去りにしたのか、2本の槍は貫いていた。
黒い、猫の人形を――。
「ほらほら、いつまでそんなの見てるのよ? こっちよ、こっち」
声は俺たちの背後から聞こえ、即座に振り返る。
俺たちの立っていた位置に死神はおり、フォルシーナの首筋に漆黒の刀を当てていた。
片腕を抑えられており、上げざるを得ないフォルシーナの顔は苦痛に歪んでいる。
「フォルシーナ!!」
「ウフフ。大丈夫、簡単に殺したりはしないわ。ヤラランくんの想い人ですものね? 痛ぶるから、皆さんはそこで“伏せなさい”」
『!!!?』
奴が言い終わると共に、とんでもない重圧を感じて俺たちは全員倒れ伏した。
立ち上がるどころか指一本動かすこともままならない。
「ッ! フォルッ、シーナ!!」
「恋人がお呼びね? でも、返してあげないわ。フフッ、貴方も“固まりなさい”」
「クッ……」
死神は剣を下ろし、フォルシーナから2歩距離を取った。
なのに、フォルシーナは動かない。
アイツ、言ったことが魔法になるのか……!?
「いい子ね……さぁ、まずは指を切り落としましょうか。きっと良い叫びの音色を奏でてくれるのでしょう? ウフフフフ……」
「やめろぉおおおおおおお!!!!」
俺は叫んだ。
しかし死神は不敵に笑ってフォルシーナの手を持った。
俺の言うことなど、奴が聞くわけがない。
だったら止めないと。
動け、体!
こんな重圧なんて……!!
「じやあ、まずは1本ね」
死神が刀を振り上げる。
俺の体はどんなに力を込めても動いてくれない。
指1本すら――。
俺の無力な様子を見ながら、死神は刀を振り下ろした。
悲鳴をあげる姿を見ることなど出来ず、俺は目を瞑る。
いつまで経っても悲鳴はなかった。
ポトリと指が落ちるような音もない。
何が起きたのかと思い、ゆっくりと瞼を開いた。
「……ごほっ」
目に映ったのは、腹部に穴が開き、口から血を吐き出す死神の姿。
彼女の手から鋭利な刀が乾いた音を立てて落ちる。
「……いったいわぁ〜。何してくれるのよ……」
言いながら、死神が振り返る。
上を見上げた死神、俺も目だけ上に向けた。
そこに居たのは俺と顔が似た少年だった。
白いブラウスに肩章と赤のマントを付け、腰には盾の形をした草摺が左右につき、軽衫と妙に先の長い靴を履いている。
頭には2本の角と三角の形をした帽子を被っている。
顔の造形は俺とよく似ていたが、目つきに至っては俺より悪く、口を噤んでいる。
彼も羽衣をしており、その力なのか、宙を浮いていた。
「……アキュー? 何でこんな所にいるのよ?」
「"善"に呼ばれて飛び出してきたのさ。まさか、本当に君がいるとは思わなかったよ、セイ」
宙に浮く少年と死神が対話する。
アキューという少年は死神の知り合いのようだ。
それはおそらく、敵対関係としての……。
「僕に恨みがあるなら直接僕に攻撃しろ。"他世界"に干渉するな」
「嫌よ。貴方に迷惑掛ける為にやってるんだもの。まったく、そんなに怒らなくてもいいじゃない。“自由律司神”様はそんなに立場がないのかしら?」
「立場とかの問題じゃない。僕としては君を殺したくないんだ。投降すれば、僕が進言して悪いようにはしないぞ?」
「……さぁて、どうしようかしらねぇ」
会話をしているうちに、死神の体は修復していった。
アイツ、不死身か?
というか、自由“律司神”って……。
「……ダメね、私は貴方を受け入れられない」
「なら僕も君を受け入れない。ここで死んでもらう」
「あはははははははっ! そうはいかないわ! まだまだ私は楽しみたいのですも、のっ!!」
「ッ!」
咄嗟に死神はこちらに手を向け、善悪調整装置へと黒い魔力の塊を放った。
何も遮るものはなく、被弾した装置は画面が割れ、キーボードは吹き飛び、剥き出しになった中身から炎や電気が漏れていた。
「何て事を……!!」
「あはははは!! またねアキュー! 逃げさせてもらうわ!!」
「ッ――!」
死神は姿が透け始め、軈て姿を消した。
それと同時に重圧も消え去り、俺たちは立ち上がる。
……逃げた?
これだけのことをして、最後には逃げるのかよ……。
「……仕方ない、【界星試料】を修復するか。2人に怒られたくもないしね」
ため息を吐きながらアキューはゆっくりと降り、コツコツと歩いて俺たちを通り過ぎ、善悪調整装置の前に立った。
「ふむ、この程度ならなんとかなりそうだね」
そう言って、アキューは装置に右手を翳す。
すると壊れた装置はライトグリーンの光を放ち始め、部品もないのに中に細かい装置が出現し、徐々に直っていった。
「……さて、君達の方が問題かな」
左から少年は振り返り、俺たちを見渡す。
そして、左手の人差し指を立て、軽い調子でこう言った。
「初めまして。僕は自由律司神。最初生きてた頃はアキュー・ガズ・フリーストって呼ばれてた。少しの間、よろしくね」
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