連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/147/:不意

「短期決戦だよ。こんなとこで【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】の魔法を使われたら、ひとたまりもないからねっ!」

 ノールが言うや否や、2体の人骸鬼に向かって飛びかかる。
 黒い骸骨の一体は手に黒い魔法を溜め始め、素早くノールがその腕を蹴り上げる。
 吹っ飛んだ骨は宙を舞っている。
 キュッと彼女は草履を滑らせ、もう一体の腹部を殴り付けようとした。
 しかし、対する人骸鬼はいつのまにか手にしていた漆黒の刀でノールを斬らんと刀を振り下ろす。

「――フッ!」

 鉄のなる高い音が響いた。
 刀を受け止めたのは、タルナの刀であった。
 フォルシーナが作ったあの刀――。

 阻むものはなくなり、ノールが肋に裏拳を叩き込む。
 人骸鬼は吹っ飛び、石像にぶつかると骨が散らばった。

「【雷光線サンダーレイ】」

 短く詠唱したのはミュラリル。
 自分の前に光の円を作り出し、そこから無数の散弾を放って散らばった骨を砕く。
 後は一体――。

「【力の四角形フォース・スクエア】!」

 オレンジ色のパネルを生み出し、そこから直線上に圧力の塊を放った。
 風を切り進むものの、対象の人骸鬼は残った手をこちらに構え、黒い魔力の塊で対抗する。

「脇がガラ空き」

 呟いたのはノール。
 その場で一回転し、勢いを付けてから人骸鬼の脳天へとかかと落としを叩き込んだ。
 黒の頭蓋骨は砕け、肋も腕の骨も散らばった。

「……ふう。近接戦なら負けないわ」

 腰に片手を当て、ノールがため息混じりに言う。
 流石は戦い慣れてるというか、動きが俊敏だった。

「……アンタら、ちゃんと管理してんの?」
「し、してるぞ。なんで人骸鬼が出たのかわかんねぇぐらいだ」
「そうですよ。しっかり【完全制御コンプリート・マネージ】してます!」

 ノールの疑いを全力で否定する。
 今までだって、こんな事は一度たりとも無かったのだから、人骸鬼が漏れるなんてあり得ない。

「……じゃあ、ルガーダスが? もしくは、ウチらの知らない誰かの仕業……? だとすると、ヤバイかもね」
『!』

 決して他人事ではない言葉だった。
 もしも――下のキィやメリスタス、ルガーダスに何かあったのだとすれば――。

「……急ぐぞ!」

 俺が駆け出すと共に、後ろから全員付いてきた。
 下層へ、また下層へと降りていく。
 もしも何かあったのだとしたら、人骸鬼があそこまで来た時点で手遅れなのはわかっている。
 だけどどうか、ルガーダスさんとかの悪ふざけであってほしい。
 酷い事など――。

「……いない?」

 8層の寝室には誰もいなかった。
 キィがやったのか、ベッドは綺麗に直されている。
 ここまで誰ともすれ違ってないし、居ないとなると――。

「最下層だ! 行くぞ!」
「はいっ!」

 俺に続いてフォルシーナ、そして後ろから3人も走ってくる。
 最下層へ続く階段を駆け下り、大きなホール――善悪調整装置の場所へとやってきた。



 そこで見たのは、黒い着物を着た黒髪の女と、



 床に倒れ伏し、血を流すキィの死体だった。



「……あら、おはよう」

 俺たちに気付いた黒衣の女が、羽衣をふわりと揺らし、ニコリと微笑む。
 途轍もなく気持ち悪い笑みだった。
 何よりも、そこに居る金髪の少女は――。

「主役達がやっと登場ね。もうっ、退屈だったから留守番してた人殺しちゃったわよ?まぁ退屈してなくても殺したのだけどね、フフフ……」
「……テメェ、ふざけてんのか?」
「真面目なつもりよ? どこで貴方を絶望させてあげれるかをずーっと見計らってたのだもの。チャンスはいろいろあったけれど、やっぱり耐えるものね。耐えた甲斐があったわ、フフフフッ」

 艶やかに女性が笑う。
 俺を絶望させるのを見計らってただと?

「……お前、いったい何者だ?」
「私? そうね……私は死神よ? 半端次元神なんて呼ばれ方もあるけど、あまり好きではないの。死神、またはセイって呼んで。といっても、貴方達にはもう死んでもらうのだけれどね、ウフフフッ」
「……そうかい」

 拳を握ると、自然と力が湧き上がった。
 躊躇う必要はない、俺たちを殺す死神と謳うなら――コイツを殺す。

「俺は、人殺しはしない主義だ。けどな、人でないなら……お前をここで殺す」
「ウフフフッ、まぁ待ちなさいな。もう少しお話をしてあげるわ」
「話すことなどない。死ね!!!」
「! ヤララン!」

 床を蹴り、雷光の如く駆ける。
 袖口の陰りから刀を取り出し、大きく振り被る。
 後ろからの制止の声も聞くことはない。

「……まったく、聞き分けがないのは嫌いよ」
「ラァッ!」

 振り被った刀を女の脳天へと振り下ろす。
 刀を止める感覚は、何もなかった。
 肉を斬る感覚でさえ――。

「ッ!?」
「戻りなさい」

 黒衣の女は俺の額に手を当てる。
 何も抵抗できなかった。
 斬り裂けなかった驚きのせいではない。
 たった一言で、恐怖が奮い立ったから――。

 次の瞬間食らったデコピンにより、俺の体は吹き飛んだ。

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