連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/142/:宣戦布告
魔力さえあれば、移動は自由自在。
それは【無色魔法】を持った人間の特権であり、膨大な魔力量を持っているからこそ我は大陸の横断すら可能である。
例え、老体であったとしても――。
「……変わりましたね」
西大陸の全貌を見下ろしながらポツリと呟く。
人同士が交流し、仲良く歩き、ビクビクしながら生活することもない。
それが人間という、支え合う生き物として当たり前の姿。
だけれど、我はこれを壊さなくてはならない――。
「……ガフッ」
不意に食道を登ってきた血が口から吹き出る。
口元を手で拭い、今にも壊れそうな体で大陸の中心をの方へと目をやった。
「……急ぎましょう。病で倒れる前に……我ならばできる」
自分を激励し再び飛行を再開する。
やがて、ハヴレウス城の最上階についた。
高さにして25mはあるだろうか、そこから城下町を一望する。
城下町だけは相変わらずだった。
痩せ細った人間たちが強制労働させられていて、サボる者もいない。
サァグラトスは良くやっているのだろう。
ともあれ、我は開いた窓から城内に侵入した。
そして、1人の男を探して右往左往する。
彷徨するも10分と経たずして、目的の人物を見つけた。
「! 貴様は、フラクリスラル王!?」
驚いた顔を見せた髭の伸びた男。
コイツがサァグラトスであることにはまちがいないでしょう。
40年の歳月を得ても、存外わかるものです。
「サァグラトス、貴方は立派でした」
「は? 何を――」
「もう眠りなさい」
言葉と同時に、我は目の前の男の胸を斬り裂いた。
べチャリと返り血が我の体に掛かる。
彼には魔法を使う暇すら与えない。
腰に差した剣を抜刀して振るい、サァグラトスの胸を斬るだけ。
避けることも叶わぬサァグラトスは自分の胸から血が飛び出すのを見、そのまま倒れた。
剣は決して浅く斬り付けなかった、絶命したのだろう。
「……貴方は強過ぎる。ここで退場してもらいますよ。安らかに眠りなさい」
幾つか飛んできた返り血をハンカチで拭い、我は次こそ下層を目指した。
層を追うごとに通路は狭くなる。
2層3層に至っては人骸鬼が山積みで人が通る幅がとても狭かった。
4層からは余裕があった。
眠るような魔物達を一瞥してまた下層に向かう。
8層まで来ると、目的の人物達は居た。
「……だからぁ、ここのところはこっちの素子が組み込んであるんですよ。そしたら計算が合うでしょう? 理論も成立しますっ」
いくつかあるベッドと隣接された机、その最奥。
フォルシーナと思わしき銀髪の女性がヤラランの背中に抱きつき、顎を肩に乗せてヤラランの見る図面を共に見ていた。
「いや、合わなくね? この火系の素子の方が合うだろ。計算もコレで成り立つし……」
ヤラランはフォルシーナの言葉に否をなし、別の手法を提案する。
なにやら素子というものについて口論になっているらしい。
研究はしているようだが、成果は芳しくなさそうだ。
「君達」
我が一言言うと、2人はピクリと反応し、本棚の陰にある我を見る。
刹那、2人は離れ、立ち上がって驚嘆した。
「フラクリスラル王!? なんでアンタがここに!?」
「自ら出向いてきたというのですか!?」
「……あまり驚くんじゃありません。我は元来、魔力保有量が多く、大陸の横断など容易いのですよ」
『…………』
2人は驚きで声もない様子だった。
それもそうか、この大陸にとって我は悪の総大将のような存在。
それが単身で目の前にいるのだから、
「……用件はなんだ?」
「さすがヤララン、話が早くて助かります。用件は単純明快、再びこの地を荒地にします。2人はフラクリスラルに帰還なさい」
『…………』
我がした要求に返事はなかった。
まぁ、簡単に行くとは思っていない。
ここは目前の2人が作った平和の地。
それを壊し、2人には逃げろというのだから、バカにしてるとしか思ってないだろう。
「……どうしますか? フラクリスラルの軍と戦いますか?」
「……戦う気はねぇ」
「ほう? この我に和平交渉を持ち掛けようというのですか?」
「いや、アンタが戦争を仕掛ける前に世界の善悪比を覆してやる」
「……それは、善悪調整装置が制御できる、と言ってるのですか?」
「違う。別の方法で善悪比を覆す方法が俺たちにはある。それには犠牲が必要だからやりたくなかったが、多数の人々が不幸になるぐらいなら、俺はやる」
「…………」
ヤラランの向けてくる目はとても真摯なもので、嘘を言ってるようには思えませんでした。
だけれど、そんな話は到底信じられない……。
ファリュイアの息子だからと情をかけたかったが……。
「戯言を……。貴方達が出て行かずとも攻撃を仕掛けます。我の言ったことを努努忘れないでください。貴方達だけならフラクリスラルはいつでも受け入れますよ」
「……そーかい」
「ではまた会いましょう。ヤララン・シュテルロード。フォルシーナ・チュリケット」
『…………』
短い宣戦布告を終え、我は飛んで層を上へ上へと登っていった。
追ってくる者もいない。
我は1人、帰還するとしよう……。
それまで体が持つか――。
「御機嫌よう」
「?」
突如声を掛けられ、神殿入り口の石像が立ち並んだ所で足を着ける。
何事かと思えば、1人の少女が背後に立っていた。
黒い瞳、黒い髪、黒い着物……どこまでも黒の、薄気味悪い笑みを浮かべる少女だった。
いつから背後に? そんな事はどうでもいい。
「我に用ですか? 恨みを買った覚えは……あり過ぎてわかりませんがね」
「あぁ、良いのよ。私と貴方は初対面だもの。恨みなんてあるわけないわ。うふふふふふ」
「…………」
微笑ましく笑う少女だったが、可愛らしさなどなく、艶やかとでも表現すればいいのか、どこか狂った気配のする者だった。
「……初対面の我に何の用ですか?」
「あら、挨拶というのは用があるからするんじゃないのよ?出会ったらするもの……おわかりかしら?」
「……ならば、用はないのですか?」
「あるわ」
「…………」
どっちつかずの少女に苛立ちを覚える。
我は体力が尽きて倒れたりなぞしたら困るのだ。
「なんだ? 手短に頼む」
「簡単な事よ? 最初から言うと、色々ヤララン・シュテルロードの関係者を見てて、親兄弟はもちろん、貴方も"善”と”悪”の観察対象にないのよね」
「……?」
少女の言ったことがよくわからなかった。
ヤララン・シュテルロードの関係者を調べているのか?
それに、観察対象とは?
「"善"と"悪"が観察してるのはやっぱりただの技師や界星試料に関係する人間だけみたいで、王様とか興味ないのね。というか、無駄なもの監視し過ぎて私が楽々世界に侵入できたんだけど」
「……何を言ってるのですか? わかるようにお願いします」
「あぁ、そうね。まぁようするに、貴方が観察対象ですらないなら、ヤラランがこの先四苦八苦できるように――」
――あなたに死んでもらうだけヨ。
刹那、どこからともなく現れた魔法の光が光を瞬いた。
それは【無色魔法】を持った人間の特権であり、膨大な魔力量を持っているからこそ我は大陸の横断すら可能である。
例え、老体であったとしても――。
「……変わりましたね」
西大陸の全貌を見下ろしながらポツリと呟く。
人同士が交流し、仲良く歩き、ビクビクしながら生活することもない。
それが人間という、支え合う生き物として当たり前の姿。
だけれど、我はこれを壊さなくてはならない――。
「……ガフッ」
不意に食道を登ってきた血が口から吹き出る。
口元を手で拭い、今にも壊れそうな体で大陸の中心をの方へと目をやった。
「……急ぎましょう。病で倒れる前に……我ならばできる」
自分を激励し再び飛行を再開する。
やがて、ハヴレウス城の最上階についた。
高さにして25mはあるだろうか、そこから城下町を一望する。
城下町だけは相変わらずだった。
痩せ細った人間たちが強制労働させられていて、サボる者もいない。
サァグラトスは良くやっているのだろう。
ともあれ、我は開いた窓から城内に侵入した。
そして、1人の男を探して右往左往する。
彷徨するも10分と経たずして、目的の人物を見つけた。
「! 貴様は、フラクリスラル王!?」
驚いた顔を見せた髭の伸びた男。
コイツがサァグラトスであることにはまちがいないでしょう。
40年の歳月を得ても、存外わかるものです。
「サァグラトス、貴方は立派でした」
「は? 何を――」
「もう眠りなさい」
言葉と同時に、我は目の前の男の胸を斬り裂いた。
べチャリと返り血が我の体に掛かる。
彼には魔法を使う暇すら与えない。
腰に差した剣を抜刀して振るい、サァグラトスの胸を斬るだけ。
避けることも叶わぬサァグラトスは自分の胸から血が飛び出すのを見、そのまま倒れた。
剣は決して浅く斬り付けなかった、絶命したのだろう。
「……貴方は強過ぎる。ここで退場してもらいますよ。安らかに眠りなさい」
幾つか飛んできた返り血をハンカチで拭い、我は次こそ下層を目指した。
層を追うごとに通路は狭くなる。
2層3層に至っては人骸鬼が山積みで人が通る幅がとても狭かった。
4層からは余裕があった。
眠るような魔物達を一瞥してまた下層に向かう。
8層まで来ると、目的の人物達は居た。
「……だからぁ、ここのところはこっちの素子が組み込んであるんですよ。そしたら計算が合うでしょう? 理論も成立しますっ」
いくつかあるベッドと隣接された机、その最奥。
フォルシーナと思わしき銀髪の女性がヤラランの背中に抱きつき、顎を肩に乗せてヤラランの見る図面を共に見ていた。
「いや、合わなくね? この火系の素子の方が合うだろ。計算もコレで成り立つし……」
ヤラランはフォルシーナの言葉に否をなし、別の手法を提案する。
なにやら素子というものについて口論になっているらしい。
研究はしているようだが、成果は芳しくなさそうだ。
「君達」
我が一言言うと、2人はピクリと反応し、本棚の陰にある我を見る。
刹那、2人は離れ、立ち上がって驚嘆した。
「フラクリスラル王!? なんでアンタがここに!?」
「自ら出向いてきたというのですか!?」
「……あまり驚くんじゃありません。我は元来、魔力保有量が多く、大陸の横断など容易いのですよ」
『…………』
2人は驚きで声もない様子だった。
それもそうか、この大陸にとって我は悪の総大将のような存在。
それが単身で目の前にいるのだから、
「……用件はなんだ?」
「さすがヤララン、話が早くて助かります。用件は単純明快、再びこの地を荒地にします。2人はフラクリスラルに帰還なさい」
『…………』
我がした要求に返事はなかった。
まぁ、簡単に行くとは思っていない。
ここは目前の2人が作った平和の地。
それを壊し、2人には逃げろというのだから、バカにしてるとしか思ってないだろう。
「……どうしますか? フラクリスラルの軍と戦いますか?」
「……戦う気はねぇ」
「ほう? この我に和平交渉を持ち掛けようというのですか?」
「いや、アンタが戦争を仕掛ける前に世界の善悪比を覆してやる」
「……それは、善悪調整装置が制御できる、と言ってるのですか?」
「違う。別の方法で善悪比を覆す方法が俺たちにはある。それには犠牲が必要だからやりたくなかったが、多数の人々が不幸になるぐらいなら、俺はやる」
「…………」
ヤラランの向けてくる目はとても真摯なもので、嘘を言ってるようには思えませんでした。
だけれど、そんな話は到底信じられない……。
ファリュイアの息子だからと情をかけたかったが……。
「戯言を……。貴方達が出て行かずとも攻撃を仕掛けます。我の言ったことを努努忘れないでください。貴方達だけならフラクリスラルはいつでも受け入れますよ」
「……そーかい」
「ではまた会いましょう。ヤララン・シュテルロード。フォルシーナ・チュリケット」
『…………』
短い宣戦布告を終え、我は飛んで層を上へ上へと登っていった。
追ってくる者もいない。
我は1人、帰還するとしよう……。
それまで体が持つか――。
「御機嫌よう」
「?」
突如声を掛けられ、神殿入り口の石像が立ち並んだ所で足を着ける。
何事かと思えば、1人の少女が背後に立っていた。
黒い瞳、黒い髪、黒い着物……どこまでも黒の、薄気味悪い笑みを浮かべる少女だった。
いつから背後に? そんな事はどうでもいい。
「我に用ですか? 恨みを買った覚えは……あり過ぎてわかりませんがね」
「あぁ、良いのよ。私と貴方は初対面だもの。恨みなんてあるわけないわ。うふふふふふ」
「…………」
微笑ましく笑う少女だったが、可愛らしさなどなく、艶やかとでも表現すればいいのか、どこか狂った気配のする者だった。
「……初対面の我に何の用ですか?」
「あら、挨拶というのは用があるからするんじゃないのよ?出会ったらするもの……おわかりかしら?」
「……ならば、用はないのですか?」
「あるわ」
「…………」
どっちつかずの少女に苛立ちを覚える。
我は体力が尽きて倒れたりなぞしたら困るのだ。
「なんだ? 手短に頼む」
「簡単な事よ? 最初から言うと、色々ヤララン・シュテルロードの関係者を見てて、親兄弟はもちろん、貴方も"善”と”悪”の観察対象にないのよね」
「……?」
少女の言ったことがよくわからなかった。
ヤララン・シュテルロードの関係者を調べているのか?
それに、観察対象とは?
「"善"と"悪"が観察してるのはやっぱりただの技師や界星試料に関係する人間だけみたいで、王様とか興味ないのね。というか、無駄なもの監視し過ぎて私が楽々世界に侵入できたんだけど」
「……何を言ってるのですか? わかるようにお願いします」
「あぁ、そうね。まぁようするに、貴方が観察対象ですらないなら、ヤラランがこの先四苦八苦できるように――」
――あなたに死んでもらうだけヨ。
刹那、どこからともなく現れた魔法の光が光を瞬いた。
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