連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/141/:善の提案
善律司神は悪律司神にも言わぬ悩みを持っていた。
フラクリスラル王が争いを持ちかけ、善悪調整装置の研究を誰もしなくなってしまえば、文明の進化は終わり、世界は不要と判断して悪によって処分されるであろう。
悪はその名を冠するだけあって、戦闘が好きだ。
悪――それは人の嫌がる事をするということ。
殴る、蹴る、刺す、撃つ、殺す……そんな普通の暴力では補えない飢えを持った悪を総括する神。
処分さえしなければ、善は世界を神の手から離して善悪調整装置も停止させることも余儀ないのだが、彼が居るのだからそうもいかない。
そこで何か、世界を進展させる。
若しくは、新しい変化が必要だった。
当然、ヤラランがその理想通りに悪意の塊になって封印されれば新たな変化として迎えられ、善人が進んで悪になるという事について新たな見解を得られるために、まだサウドラシアに価値があると判断できる。
しかし――。
気掛かりなのは、“自由”の忠告。
自由の元恋人である者がサウドラシアに居るのではないかと自由が予想している。
そして、狙いがよりによってヤララン・シュテルロードだとするなら――。
これは食い止めなくてはならない。
だけれど、なんだかんだで神は世界に介入していない。
元より、世界を作った時に悪とは介入しない約束で管理していたのだから、善だけが破るわけにもいかない。
そこで、多少ハチャメチャではあるが、ある策に応じた。
善律司神は悪と共に神別小隔研究中界にて管理している世界の様子を眺め、監視対象の人物の言動や行動を波長として機械に記録していた。
広い空間に2人、幾つもモニターが並んだ機械の前に立ち、別々の画面に映る波長を見ていた。
そこに、カツカツと足音が響く。
「……む?」
「悪、自由です。私が呼びました」
「? そうか」
2人揃って機械から目を離し、振り返るとバスローブ姿の少年が目に入った。
「……やぁ、呼ばれて来たよ」
自由が笑顔で挨拶するも、悪はため息で返した。
「はぁ……何故貴様はそんな姿なのだ?」
「そうです。靴下履かないと冷えますよ」
「いや善、そういう問題ではないだろう……」
善のお母さん的発言に悪がツッコミを入れる。
神といえど、元は生物。
魔法1つで治せるとはいえ、風邪などの心配もする。
「あははっ、忠告どうも。僕がいつどんな格好で現れようと僕の自由、思ったままに過ごすのさ」
「……貴様、全裸で歩いてたりしないだろうな?」
「さすがにそんな事したら、他の律司神に殺されるよ。それに、僕だってプライドはある。服ぐらい着るさ」
「人のプライバシーを踏みにじる男がプライドとか言うのか?」
「あはははっ! 悪、過去に僕が言ったことは次の瞬間より先の僕は言わないと思った方がいい。なんせ、自由だからね!」
自由の素晴らしさを伝えんと両手を広げて笑顔で言うも、悪は頭痛でもするかのように頭に手をやった。
悪が弄られてるのも見てられなくなったのか、善がわざとらしく咳払いをし、話を切り出す。
「こほん。それより、本題です。いいですか?」
「ん? ああ、どうぞ?」
「自由、貴方の元恋人がうちの世界に介入している可能性があるのですね?」
「あぁ、そう言ったね。彼女も寿命知らずなのか、31億年生きた生命体。知識も僕らと同程度だし、力もある。その気になればあの世界、滅ぶだろうね」
「ではそうなる前に、貴方と似た顔の少年のヤララン・シュテルロードの息の根を止めてきてください。手段は問いません」
善のこの言葉に、悪が素早く反応した。
「ん? いいのか善? あの世界はどのみち成長も変化も見られない。わざわざ自由に行かせるまでも……」
「研究はやり遂げるまでどんな変化があるかわかりませんよ」
「……そうだな」
善の言い分を聞くと、悪も黙った。
こんな言い分で通じたことで善も内心胸をなでおろす。
「ククッ、あははははっ! 息の根を止める。そして、手段は選ばない! なんだい!? まるでそれじゃあ殺さ――」
「言わなくてもわかっていますね?」
「あぁ、わかったわかった。あはははっ、そうかい。君の目論見がわからないが、それは世界に降り立って調べさせてもらうよ」
「……好きにしてください」
善もため息を吐きながら言うと、自由はまた笑った。
「あははははっ、面白い! 請け負おう!」
「……あまり暴れないでくださいね」
「了解したさ。けど、1度自分の世界を他の奴に任せて来なきゃ。2日ぐらいくれ。12人ぐらい管理を任せる奴を捕まえなくちゃならないからね」
2日と聞き、善は顔を渋らせた。
争いが起こるのはフラクリスラル王の匙加減によるが、2日はどうであろうか。
しかし、自由の言い分も言い分なだけに待つしかない。
「……まぁ、2日なら待ちましょう」
「ククッ、話は付いたね。では僕は自分の世界に帰る。またね、お2人さん」
「ええ、また……」
「……また来るのか、貴様は」
「……悪って本当に僕が嫌いなんだなぁ。特に失礼なことをした覚えはないのに……」
「……普通に考えて、その姿で研究施設に来るのが失礼だろう。どうしてわからないんだ……?」
「知らないよ。だって……僕は自由律司神なのだから!!」
「……もう帰れ」
こうして自由は足を浮かせて帰って行ったが、悪は少し落ち込んでいた。
フラクリスラル王が争いを持ちかけ、善悪調整装置の研究を誰もしなくなってしまえば、文明の進化は終わり、世界は不要と判断して悪によって処分されるであろう。
悪はその名を冠するだけあって、戦闘が好きだ。
悪――それは人の嫌がる事をするということ。
殴る、蹴る、刺す、撃つ、殺す……そんな普通の暴力では補えない飢えを持った悪を総括する神。
処分さえしなければ、善は世界を神の手から離して善悪調整装置も停止させることも余儀ないのだが、彼が居るのだからそうもいかない。
そこで何か、世界を進展させる。
若しくは、新しい変化が必要だった。
当然、ヤラランがその理想通りに悪意の塊になって封印されれば新たな変化として迎えられ、善人が進んで悪になるという事について新たな見解を得られるために、まだサウドラシアに価値があると判断できる。
しかし――。
気掛かりなのは、“自由”の忠告。
自由の元恋人である者がサウドラシアに居るのではないかと自由が予想している。
そして、狙いがよりによってヤララン・シュテルロードだとするなら――。
これは食い止めなくてはならない。
だけれど、なんだかんだで神は世界に介入していない。
元より、世界を作った時に悪とは介入しない約束で管理していたのだから、善だけが破るわけにもいかない。
そこで、多少ハチャメチャではあるが、ある策に応じた。
善律司神は悪と共に神別小隔研究中界にて管理している世界の様子を眺め、監視対象の人物の言動や行動を波長として機械に記録していた。
広い空間に2人、幾つもモニターが並んだ機械の前に立ち、別々の画面に映る波長を見ていた。
そこに、カツカツと足音が響く。
「……む?」
「悪、自由です。私が呼びました」
「? そうか」
2人揃って機械から目を離し、振り返るとバスローブ姿の少年が目に入った。
「……やぁ、呼ばれて来たよ」
自由が笑顔で挨拶するも、悪はため息で返した。
「はぁ……何故貴様はそんな姿なのだ?」
「そうです。靴下履かないと冷えますよ」
「いや善、そういう問題ではないだろう……」
善のお母さん的発言に悪がツッコミを入れる。
神といえど、元は生物。
魔法1つで治せるとはいえ、風邪などの心配もする。
「あははっ、忠告どうも。僕がいつどんな格好で現れようと僕の自由、思ったままに過ごすのさ」
「……貴様、全裸で歩いてたりしないだろうな?」
「さすがにそんな事したら、他の律司神に殺されるよ。それに、僕だってプライドはある。服ぐらい着るさ」
「人のプライバシーを踏みにじる男がプライドとか言うのか?」
「あはははっ! 悪、過去に僕が言ったことは次の瞬間より先の僕は言わないと思った方がいい。なんせ、自由だからね!」
自由の素晴らしさを伝えんと両手を広げて笑顔で言うも、悪は頭痛でもするかのように頭に手をやった。
悪が弄られてるのも見てられなくなったのか、善がわざとらしく咳払いをし、話を切り出す。
「こほん。それより、本題です。いいですか?」
「ん? ああ、どうぞ?」
「自由、貴方の元恋人がうちの世界に介入している可能性があるのですね?」
「あぁ、そう言ったね。彼女も寿命知らずなのか、31億年生きた生命体。知識も僕らと同程度だし、力もある。その気になればあの世界、滅ぶだろうね」
「ではそうなる前に、貴方と似た顔の少年のヤララン・シュテルロードの息の根を止めてきてください。手段は問いません」
善のこの言葉に、悪が素早く反応した。
「ん? いいのか善? あの世界はどのみち成長も変化も見られない。わざわざ自由に行かせるまでも……」
「研究はやり遂げるまでどんな変化があるかわかりませんよ」
「……そうだな」
善の言い分を聞くと、悪も黙った。
こんな言い分で通じたことで善も内心胸をなでおろす。
「ククッ、あははははっ! 息の根を止める。そして、手段は選ばない! なんだい!? まるでそれじゃあ殺さ――」
「言わなくてもわかっていますね?」
「あぁ、わかったわかった。あはははっ、そうかい。君の目論見がわからないが、それは世界に降り立って調べさせてもらうよ」
「……好きにしてください」
善もため息を吐きながら言うと、自由はまた笑った。
「あははははっ、面白い! 請け負おう!」
「……あまり暴れないでくださいね」
「了解したさ。けど、1度自分の世界を他の奴に任せて来なきゃ。2日ぐらいくれ。12人ぐらい管理を任せる奴を捕まえなくちゃならないからね」
2日と聞き、善は顔を渋らせた。
争いが起こるのはフラクリスラル王の匙加減によるが、2日はどうであろうか。
しかし、自由の言い分も言い分なだけに待つしかない。
「……まぁ、2日なら待ちましょう」
「ククッ、話は付いたね。では僕は自分の世界に帰る。またね、お2人さん」
「ええ、また……」
「……また来るのか、貴様は」
「……悪って本当に僕が嫌いなんだなぁ。特に失礼なことをした覚えはないのに……」
「……普通に考えて、その姿で研究施設に来るのが失礼だろう。どうしてわからないんだ……?」
「知らないよ。だって……僕は自由律司神なのだから!!」
「……もう帰れ」
こうして自由は足を浮かせて帰って行ったが、悪は少し落ち込んでいた。
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