連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/136/:交錯

「無理です!昔は私の性格が捻くれてましけど、今はもう、抱きしめるなんて……肩揉みを切り出すだけでも凄く緊張しましたのに……」

 ルガーダスさんの提案を全力で拒否する。
 この人、私がどれほど純情かわかってませんね。
 6年間一緒にいて、告白もできてないのに……。

「んなこと言っても、やるしかねーだろ? アタックしなきゃ振り向かねぇし」
「ででででも! ヤラランは私とルガーダスさんの仲を疑ってる真っ最中ですよね!? 矛盾しますよ!?」
「それもそうたな。じゃあ何かしら理由考えれば?」
「何かしらって、投げやりにもほどがあるでしょう!?」

 ガッハッハと大口開けてルガーダスさんが笑う。
 何を考えてるんですかこのジジイは。
 抱きつく適当な理由なんて、ないですよそんなの!

「投げやりだぁ? じゃあ具体例出してやるよ」

 言って、彼は裏声で私の口調を真似し出した。

「ねぇ、ヤララン。私、貴方の魔法を改善するためにはもっと身体的なことを知らなくちゃいけないんです。え? 今は魔法なんていらない? いえいえ、魔法を使えば善悪調整装置も操れるかもしれないじゃないですか! こんな機械なんて魔法でイチコロです !というわけで……ぐへへへへ。と、こんな感じでベタベタ触れ。お前なら出来る!」
「体触って魔法についてわかるわけないじゃないですか……」
「ヤラランは魔法について無知だ! いける!」
「いぃ! やぁ! でぇ! すぅううう!!! ふんっ!」

 最早話にならず、私はその場を後にして地下深部に戻りました。
 ルガーダスさんは追ってくることもなく、最後は私に聞こえるほどの笑い声を出してたので放っておきましょう。
 間も無く訪れた地下8階、寝室を覗けばヤラランがベッド隣接の机に向かっていました。
 彼が1人で頑張ってるというのに、私は何をしてるんだか……。

 そもそも、私は世界のためになることをするのか、自分の欲望を取るのか……行動がはっきりしていません。
 ヤラランも求めてるし、世界平和だって求めてます。
 両方を得るなんて欲張りなんでしょうか……。
 でも、どちらも遠くから歩いて来た険しい道で、今更帰るなんて……私には……。

「……フォルシーナ、なにしてるんだ?」
「え?」

 声を掛けられて、私は彼が見ているのに気付いた。
 椅子に座ったまま上体だけ捻って私を不思議そうに見ている。

「い、いえっ。何もしてません! 何もしませんよっ!」
「……なんだよ、変な奴だな。別にいいけどさぁ……」

 そこで彼は机に向き直り、私から視線を外した。

「お前、どうしたいんだよ?」

 後ろ姿を見せながら、私に問うてきた。
 それは私自身の悩んでいる質問そのものでーー言葉に行き詰まってしまう。

「此処に来た当初、お前はやる気に満ちてたじゃねぇか。なのに、最近は露骨におろそかだ。理由は……知らねぇけど、何か心移りすることでもあったのか?」
「……心移り。心移りですか……」

 心移りなんて、私は6年間していない。
 ただ1人をずっと見てきたのですから……。
 だから、私が感じているのは、ただ1つの迷いなんです……。

「俺は別に、お前がやりたいことができたなら、それを止めはしないさ。寧ろ、今まで俺のわがままを聞いてもらった分、俺はお前のやることを支持する」

 彼はそう言いながら立ち上がり、ゆっくりと私の方を向いた。

「ずっと世話になってた。お前のやりたい事を、俺は聞ける立場ではないのはわかってたから、聞かなかった。お前を不自由にしてたのは俺だからな。その事は済まなかったと思ってるよ」

 カツカツと足音を踏み鳴らし、ゆっくりと私の方へ迫ってくる。

「俺の願いは幾つも叶えてもらった。だから何かお前のためになれることがあるなら、俺はなんでもする所存だ。……とは言っても、俺の人生は世界のために使うと決めている。俺がお前に出来ることは持ち物を渡すぐらいだ。当然、俺の持ち物は全てくれてやる」

 私の真ん前に立つと、ピタリと足を止めた。
 両手を出し――右手を左腕の裾に突っ込んで刀を取り出す。

「ただ――もしお前が出て行くなら、俺をコイツで斬って、封印してからにして欲しい。神楽器はこの大陸に5個ある。これだけあって俺の魔力が倍増されれば、世界平和だって不可能じゃない。人柱なんてのは酷いもんだが、人間1人で平和になるなら……寧ろ俺は、もう封印されていいのかもしれない」
「! ヤララン、何を言うのですか!?」

 不意に、私は叫んでいた。
 いや、叫ばずにはいられない。
 彼が、自分を蔑ろにするようなことを言うなんて、到底信じられなかったから。
 いつも自信があって、陽気な彼が、暗鬱な目をしているから……。

「普通に考えりゃ、神楽器を作った理由は俺の夢と人柱、この2つの為だ。だったら、とっとと叶えちまえば良かった。お前にも、散々迷惑かけたしな……」
「迷惑だなんて、そんな! そんな事、一度も思った事ないですよ! ここに居るのも、私の意志です! 私が居たいからいるんですよ!」
「……こんな日の光も当たらず、毎日机に向かって、失敗が多い実験をしていて、そんな楽しくないことより、地上にいた方が良いだろ?ここにに居るのが私の意志? だとしたら、俺と一緒に居たせいで、お前の考え方が変わっちまったのかもしれない。いや、当然か。ここに来た時のお前のやる気を鑑みると、俺は間違いなくお前を変えたよ」

 絶え間なく彼は言葉を続ける。
 責任の重荷を感じている、真摯な眼差しをもってして――。

「だがな、普通に考えると、ここで頑張るのは辛い。何年かかるかもわからないことに熱心になれるのもいつまでだかわからない。だったら、そんな辛い役目を請け負うのは俺だけでいい。お前はもう――自由になるべきだ」
「ッ!」

 私は感極まって、思わず手を挙げた。
 バシンと乾いた音、それは私が彼の頬を殴った音だった。

「……どうして……どうしてわからないのですか……」
「…………」

 彼はロクに目線も合わせず、殴られた頬をさすっていた。
 意気消沈として、心ここに在らずといった様子で、ただただ虚空な様子で――。
 それでも葛藤のままに、私は叫ぶ。

「私がなんで貴方に付いて来たと思ってるんですか!! こんな危険な地まで来て、人生賭けてここまで来て、何の為だと、思ってるんですかっ!!!」
「……知らねーよ」
「ッ!! ヤラランのわからず屋! もう知りません!!」

 捨て台詞を吐き捨て、私は踵を返して部屋の戸へと走り出す。
 いつしか出ていた涙は風に流れ、重力によって緩やかに落ちていった。

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