連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/133/:不安

 地下神殿というだけあって、第1層の入り口は両脇に石像が立ち並んでいたりする。
 だからどうしたって思うが、その石像の中にある小さな龍が俺は好きだ。
 胴は肉がなくて骨だけなのが気持ち悪いが、凶悪な顔、焼けただれたような両翼、爪のないゴツゴツとした手をしている。
 コイツは悪魔力で出来る邪悪エヴィル・サウ音龍ンド・ドラゴンのミニチュアらしいが、悪い龍だろうが関係ない。
 なんせ龍、龍だ。
 空想上の生き物であり、男ならそりゃあ憧れるもんだろ。

「……オイ、こわっぱ。テメェまたこんなの見てんのかよ」
「お、ルガーダスさん」

 立ち並ぶ石像のほぼ中央にあるこの位置までルガーダスさんが現れる。
 相変わらず髪は跳ねまくり、ノンフレーム眼鏡越しの目つきの悪い目で今日も機嫌が悪そうだ。

「……ルガーダスさん、コイツ以外に龍っていないのか?」
「知らん。善魔力で白いのが作ればいるんじゃねぇの? ほら、ここの石像、左右でついになってるだろ?」

 ルガーダスさんの言う通り、この龍の反対に居るのも同じ姿の龍だ。
 悪だから黒で、向こうは善だから白か?

「白と黒……見てみてぇなぁ……」
「善魔力で魔物作っても仕方ねぇからな。コイツは1200万も魔力使うんたが、体長20mで邪魔だし、悪魔力にしろ、どっちみち作らねーよ」
「……残念だ」
「さらに言うとな、コイツは音で周囲の物を破壊する。制御前、咆哮1つで研究者全員をブッ殺したんだとさ。人骸鬼なんかより質が悪りぃし、ゼッテー作んねぇよ」
「……おお、恐ろしいな」

 さすがは邪悪エヴィル・サウ音龍ンド・ドラゴンという名だけはあるってことか。
 でも危険性があるなら作れないのも仕方ないか……。

「おらっ」
「いてっ」

 軽く足を蹴られる。
 これもよくあることだ。

「戻るぞ。時間がもったいねぇだろ」
「……へいへい」

 地下に進む通路を進むルガーダスの後ろに渋々付いていく。
 多少手荒な所もあるが、“時間がもったいねぇ”と言うあたり、この人も研究に対して本気になって来たように思える。
 俺も気合いを入れよう――。











 夏が過ぎても、地下は地中熱のおかげで気温が大して変わらず、季節の変化も感じずに過ごした。
 もとより季節の巡る速さを感じる暇もなかったわけだが、研究についてはあまり進んでいない。
 色々と理論を構築しつつも成り立たなかったり、実験の失敗は絶えない。
 それでも進捗具合は一定のペースを保ち、成果はあった。
 生活も変化なく健康を保てるし、体調は良好。
 変化があったとすれば、俺がフォルシーナとルガーダスに、普通に意見できるようになったことか。
 ちゃんとした理論構築ができてなくて相手にされてなかったが、最近は真面目に取り合ってくれることが多くなった。
 俺自身、知識を増やしていってる証拠である。
 成長している。
 成果が出る。
 自信に繋がる事が多く、前を見て一直線に進もうと――心に決めていたんだ。

「……ふぅ〜」

 机の上にペンを置き、反り返るほど背凭れに腰掛けて伸びをする。
 時間は深夜で、ルガーダスとフォルシーナは眠りに付いていた。
 前方にはフォルシーナがベッドの上で静かに寝息を立てながら眠り、俺の左手にはルガーダスが大きなイビキを立てながら布団を蹴飛ばして眠っている。
 2人を見て、俺は思う事がある。
 最近になって、よく研究を抜け出して2人だけで話をしているようなのだ。
 何してるのか訊いても答えてくれないし、不審極まりない。
 研究の事なら俺に隠す必要も無いし、謎だったんだが、思い当たる事がある。








 ――この2人、デキてるんじゃね?



 ……あくまで憶測に過ぎないが、お互い研究者だし、息が合うだろうからな。
 だとすると、研究まで抜け出す理由も説明がつく。
 というか、俺が一番遅くまで起きているというのがあり得ない。
 フォルシーナは集中すると徹夜するぐらいなのに、ここ最近は寝過ぎなんだ。
 1日8時間は寝てるんじゃなかろうか。
 なに? 美容? そこ、気にしちゃう感じ?
 ルガーダスは元々寝たいときに寝てたから良いがわ明らかにフォルシーナはおかしい。
 二人で内緒話もするし、これはもうな、うん。
 ……はぁ。

「……俺はどうすればいいんだろうな」

 ポツリと漏れる独り言。
 まさかの技術者の先輩が双方恋に落ちて研究に集中できないと。
 ……そのうち、俺1人になるんだろうか。
 頼もしい2人が居たのが俺のやる気を伸ばしていたんだが、1人になるとすると、寂しいことこの上ない。
 ……これからやっていけるのか不安だが、研究の忙しさにかまけて考えないようにしよう。
 たとえ俺1人になったとしても、研究を続けなくちゃいけないんだから……。

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