連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/130/:来訪者その2

 その日の深夜、ルガーダスが眠って俺とフォルシーナは2人目の来訪者を8層の空き部屋で迎え入れていた。
 椅子もないために立ったままだが、そんなことは御構い無し。

「……眠っ」
「じゃあなんで明日来ないんだよ……」
「ホントは眠くないから」
「…………」

 今のそこはかとなく無駄なやり取りをした相手は巫女装飾に身を包み、仏頂面をひっさげたノールだった。
 相も変わらず、連れない奴である。

「……それで、何の用だよ?」
「歌詞書いた。取り敢えず読んで」

 言って、数枚の紙束を俺の胸に押し付けてくる。
 俺はそれを手に取り、内容を拝見した。
 書かれていたのは譜面、その下にノールの書いたであろうか細い文字。

「……声に出して読んでも?」
「うわっ、恥ずかしいからやめてほしいんだけど……まぁ、今更だし、いいよ」
「おう……」

 許可を得たものだから、俺は視線を譜面に戻して歌詞を朗読した。



 灯火よ 燃えてゆけ
 水海よ 溢れ出せ
 星々よ  潤い満ちて
 命を育め……

 悠久の 時の中に
 暖かさ 紛れていく
 永遠に 満ち満ちよ
 穏やかな言霊よ……

 calm song……

 calm song 幸せに
 calm song 僥倖を
 calm song 大切に
 貴方との時間を……



 ここまでで一区切り、俺は口を結んだ。
 次に2番、そしてラストパートがある。
 俺にとっては、1番だけで十分な歌詞だった。

「Calm song、魔法系アルゴリズムだかなんかで穏やかな歌を意味する。でしょ、フォルシーナ?」

 歌のタイトルの意味をフォルシーナに確認するノール。
 急に名前を出されて慌てながらにフォルシーナは答える。

「え?えぇ、はい。そうですね……」
「そ。ならいいや。平和なしに穏やかさは得られないし、1番最後の“貴方”を全ての人間に言い換えることができれば、世界全体が平和じゃない?と、書いた私からのコメント。ぶっちゃけ、歌ない方が良いかもね」
「……いや、この歌詞良いと思うぞ。最後まで今読んだけど、俺は好きだ」

 自然と人間の関わりを描いていて、人を癒す想いが詰まっているような気がする。
 なだらかな曲に合う、優しい歌詞だ。

「……そう。まぁ、どーするかはその歌詞使うアンタ次第だし、ウチはこれ以上とやかく言わないよ。ルガーダスと話もあるから、幾つか本読みながら待ってるね。1番下居るから、用があったら声掛けてね。ヤラランじゃなく、フォルシーナさんっ」
「はい。了解です」
「……ホント、俺には当たり悪いよなぁ」

 それだけ言い残してノールは退室した。
 空調ぐらいしかない寂しい空き部屋には俺とフォルシーナだけが残される。
 ノールが行った後だし、暫く退室も難しいのだが、特に話すこともなくて無言だ。

「……ヤララン、私にも見せてくださいよ」
「ん? あぁ、はい」

 見せてと言われ、すぐに手に持った楽譜か思い当たり、手渡す。
 フォルシーナがふむふむと歌詞の部分を眺めて紙を見てはめくる。
 落ち着いた曲だし、歌詞も短くて読み終えるには時間がかからないようで、すぐに俺に返してきた。

「はい、返しますね」
「おう……」
「いやぁ、そういえば長らく演奏もしてないじゃないですか。久しぶりに音楽文化にも触れたいですね〜」
「確かにそうだな。俺も久しぶりにヴァイオリンも弾きたいし、演奏できれば良いんだがな」

 朗らかに笑いながら言う彼女に、俺も合意する。
 演奏、演奏か……。
 音楽自体も聴けてないから尚更弾きたいのだが、まだ我慢するしかない。

「そういえば、キィちゃんとメリスタスくんは神楽器持ったままですけど、その歌はどうするんですか?」
「…………。……ん?」
「え?」
「…………ん?」

 神楽器の世界に白魔法を反響させる力は7つの楽器を使わないと使えない。
 キィ達がいなくなってしまえば、使えなくなるのは当然の事。

「……すっかり忘れてた」
「ええーーっ!!?」
「……まぁ、いいんじゃないか? 世界の善意をむざむざ増やす必要もないし、仕方ねーよ」

 今となってはただの言い訳だが、一応理由もつけてみるとフォルシーナも肩を落として頷いた。

「……となると、私達が装置を制御して、次代の子に弾かせましょうか」
「だなぁ……。その頃に全部の神楽器が集まるかが問題だけど……」
「一応、私は神楽器の場所を知れますから瞬間移動で持ち主に協力を呼びかけましょうか」
「じゃあそれでいこう。ともあれ、俺たちは研究だ。……つっても、俺は明日ミュラリルに会いに行くけど」
「……どこに居るのかわかってます?」
「……いや、知らん」
「ですよねー」

 本末転倒とはまさにこのことだ。
 最近考えることが多くて他の事考える脳が無く、曖昧なのに返事を返してしまう。
 ミュラリルと会うついでに、心に休みを与えるとしよう。

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