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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/121/:律司神

 俺は3度読み返した資料をフォルシーナに回し、地下9階に戻った。
 その時にキィや王の姿はなかったが、きっとノールの所かどこかに戻ったのだろう。
 改めて来ても薄暗くてだだっ広く、装置自体に着くまで歩くのが億劫に感じた。
 横長のテーブルのようなそれ、キーやボタンが多くはめ込まれ、幾つかはタッチ式のものがあるようで、自身の手で触れてみる。
 図上にある白黒の円のさらに上、画面には俺にわからない言語が表示されている。
 だか、今の俺ならアレが読める――と言っても、ルガーダスが朝方言ってたものと同じであるが。

「――“界星試料”設定」

 現れた見出しと3つの文章。
 それはこの装置を使うための手順を示している。
 とは言っても、魔物を作ること、善悪比を見れるだけで、大して役に立たないのだが。

 あと資料に書いてあったのは装置の図面と幾つかの式、そして使用方法と文字の翻訳――。

「…………」

 俺は何も言わず、この試料の意義の項目を選択し、画面を表示させる。
 次の瞬間、画面に現れたのは俺たちの用いている一般言語で、長ったらしい文章が書かれている。

《この装置は世界の善悪が平等の場合、主に人間を精製した世界でどう反応し、どんな結末を迎えるのか拝見するための試料であり、星を製造するにあたってこの装置を地上に置いた。
 生物の目に届く所に置いた目的としては、目の届かないような世界はすぐに滅び、次なる研究の発展を期待したためである。
 平和性を得るため、救済措置として魔法生物の創作を生物に許し、魔物とその他生物の争いが可能な世界を我々は作った。
 この際、この画面を見ている諸君が悪か、善になるかは問わない。
 もしくは魔法生物を産まないという選択肢もあるだろう。
 判断は諸君に任せ、我々は静観する。
 但し、以下の行為に及んだ場合には処分に及ぶ可能性があるため、考慮していただく。

 ・装置を破壊する行為
 この行為に及んだ場合、世界を不要と判断し、世界を破壊する。
 ・我々の計画に支障を来す存在
 我々が論議し、不要な存在と判断すれば処分する。

 なお、改ざんについてはこれを容認する。
 何故なら、界星試料を作れるだけの技師を我々は必要とし、一般生物から取り上げるため、装置の存在よりも重要だからである。
                                                                 以上

 なお、この画面の文字はすべての生物が読めるよう自動翻訳される。
 我々はこの世界がどのような変化を遂げるか期待している。
                                       善律司神
                                       悪律司神》

「……神、ねぇ」

 全文を読んで感嘆する。
 装置を作り上げた存在は善律司神と悪律司神とかいう神様のようなものらしく、世界の変化を見たいだのという理由で作ったと。
 しかも、改ざんして技術が認められれば一般生物から取り上げる?
 それってつまり、人間ではない生物になるとか、俺たちの生きてるサウドラシアから出て行くとか、そういう意味だろう。
 俺たちはこの装置をどうこうして功績を残したとしても、その言葉誰にも知られず俺たちは律司神のもとへ行くということで、大体間違いなさそうだ。

「――全ては善悪の研究のためにできていたのか。もしくは神の配下になるための……」

 素直に感心できるのは、よく出来た世界だということだ。
 いや、神様が作った世界がよく出来てないはずがないだろうけど、それでも、人間が手も足も出ないという意味で、この世界システムは完璧だった。

 平和をもたらす事は、元々が不可能だった。
 人間なんかじゃ歯が立ちそうにない装置をポンって置いといて、でも、これを改ざんした人間は世界に残れない。
 なるほど、酷い仕組みだ。
 だけれど――いや、だからこそ、やり遂げる価値がある。

「……おいおい、その画面は研究者以外に見ちゃいけねぇんだ。王にも見せてねぇっつーのによ」
「……ルガーダス」
「さん付けしろよ三下が」

 コツコツと靴音を立て、頭をガシガシかきながらルガーダス――さんが現れる。

「……神ってのは、研究者なんだろうな。俺も昔は凄かった。どんな犠牲があろうとも真理を欲して研究した人間だった。だから気持ちはわからんでもねぇが、自分が研究対象の一種ってのは胸糞悪りぃ。このナントカ律司神が目の前にいりゃあ、タコ殴りにすんのによ。こんなもんだけ置いて姿見せねぇのがいけすかねぇ」
「……研究か。俺にはその気持ちがよくわからねぇけど、研究されるってのは嫌だってわかるよ」

 自分が調べられてるってなると、嫌な気しかしない。
 だけど、星が生まれたのは研究のため……。
 俺は目を伏せ、頭を下げた。
 星を作った理由も碌でもないし、世界は平和になれず、神はそれを静観するのみ。
 改善する事を妨げることばかりだった。
 フラクリスラルはこれを隠蔽し、西大陸全土を争いの地に変えていて――俺たちは悉く討ち果たした。

「――これで最後か」

 西大陸に来る以前、フォルシーナに「何年かかるかわからない」と言った。
 手で触れている装置がどれ程解析が難しいものかは知らない。
 だけれど、何年掛けても、平和を手にするために、戦おう。
 なに、今までは命の取り合いがあった。
 それに比べれば、知恵比べなんて些細なこと。

 目を開け、視線をルガーダスさんへと向ける。

「……ルガーダスさん。俺に研究の考え方とかを教えてくれ! 頼むよ!」
「……構わんぜ。ほら、俺の部屋に戻るぞ。画面消して来い」
「おう!」

 ルガーダスさんが踵を返して戻っていく。
 俺もおぼつかない操作で画面を消し、後を追う。
 とりあえず、やる気がある。
 ならばこれを糧にやっていこう。
 何年掛けても――。

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