連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/119/:界星試料

「ったく……可愛い嬢ちゃんかと思えば暴行に及びやがって……いてて」
「原因は貴様だ。少しは自粛しろ、ルガーダス」

 数分でフォルシーナとルガーダスが戻ってきて、ルガーダスは腹部を抑えていた。
 まぁ、ルガーダスの奴も悪いと思うが……。

「フォルシーナ、暴力はよくねぇぞ?」
「わ、わかってますよ。ちゃんと3発で抑えましたから」

 少し慌てながらに弁解するも、3発ってのもダメだと思う。
 ……でもキレて3発か。
 良いのか悪いのか。

「若干赤魔法で強化してただろテメェ……」
「え? な、なんのことですかねぇ?」

 ルガーダスがここぞとばかりに指摘した。
 フォルシーナは俺から目を背けて威圧的な視線をルガーダスに送って黙らせる。
 …………。

「……まぁ、いいけどな。それより、この機械が善悪調整装置ってやつなのか?」
「あん?あぁ、そうだよ。世界の根幹にある装置。どれがつったら、ここにあるもの全部だな。ちょっと起動させてやるよ」

 ルガーダスは腹を抑えながら立ち上がり、長テーブルのようなものの前に立った。
 手を置き、人差し指で軽く黒い面をなぞる。
 瞬間、ブォンという音とともに白と黒の円の上にモニターのようなものがき、何か文字が表示された。
 俺には読めない文字だった。
 大きな見出しが一文と、その下に3つの文。
 ルガーダスはこれをわかっているんだろうが……魔法で使う言語か?

「……おい、自称天才女。これ、読めるか?」
「……読めません。知ってる単語は、あるのですが……」
「へぇ。単語を少しでも知ってるってことは、やっぱ魔法と関与してるんだろうな」

 ルガーダスは眼鏡を上げ、画面に注目した。

「……俺たちもまったく読めなかった。だからハヴレウスは研究してきた。300年やったらしいが、解析の道具だってないのに、どう研究したのかはよく知らん。だがな、とりあえずはこう訳した」

 ――“界星試料かいせいしりょう”設定
 ――生物精製
 ――善悪量見聞
 ――この試料の意義

「俺たちが出来ることは、世界の魔力を吸い取って善か悪の傾向がある魔物を作ること。そして、過去の善悪バランスを読み取ること。そんだけだ。この試料の意義は知ってても吐き気がするだけだし、善悪平等がコイツのせいだのと言われるとどことなくムカつくぜ」

 ルガーダスは言うだけ言って肩を竦め、首を横に振った。
 この機械のせいで疲れたとでも言わんような態度。
 …………。

「……“界星試料”。試料ってことはつまりこの世界は試作サンプルの1つとでもいうのか?」
「サンプルかどうかは知らねぇよ。ただ、コイツを試料として世界を作ったって書いてあるぜ?そしたら、このサウドラシアという世界の存在意義を簡単に説明できる。――この世界は、“もしも世界の善悪が平等だったら”という研究のためにできた世界。……ってな」
「…………」

 酷く残酷な話だった。
 それならば、この世界は結局、試作サンプルの1つでしかないじゃないか。
 善悪平等は必然で、変えることがそもそもの間違い――?

「俺たちは300年掛けてこの装置の画面をこのトップ画面と他3つの文の先以外の画面を見たことがない。コイツがどういう原理で動いてるのかも知らん。魔物のできる原理やら善幻種、悪幻種なんてのもサッパリだ。この装置を分解バラそうにも組み立ての理論すらわからんし、分解し方すら見当もつかない。つまり、世界っつーのは、この星が誕生した時から人間にとっては非情だったのさ。俺たちは世界の言いなりとしてるしかないんたよ」
「…………」

 誰もが黙った。
 いや、何も言えなかったんだ。
 研究し尽くしてきたんだろう。
 300年間という歳月を経ても訳した程度のことしかできず、人間は魔物を生んで操ってただけ。
 俺たち人間は、どこの誰が研究してるかもわからない奴の実験生物に過ぎないわけだ。

 その命、世界のために使ってみないか、と俺は言った。
 違う、俺はこんなもののために言ったわけじゃない。
 人類の繁栄のために身を粉にして働くような真似をすれば、きっと人生に悔いもないと思って言った言葉なんだ。
 こんな装置のためじゃない。
 もしもこんな装置のために俺があの言葉を言っていたのだとするなら――そんな俺には吐き気がするだけだ!

「フォルシーナ、俺から提案がある」
「……なん、ですか?」

 フォルシーナに目を向けると、眉を顰めて悲しそうだった。
 声も弱々しくて、気丈なコイツらしくない。

「お前だけにコイツを制御しろとは言わせない。俺は魔法すら無知だが、一緒に目の前の機械を操ろうぜ」
「……は? 正気ですか? これは最早、文明が違うんですよ!? どうしたって、こんなものは……」
「弱音を吐いてたって仕方がないだろ。俺はここまで来て帰るなんてできない。お前がやらなくても俺はやらせてもらう。いいか、ルガーダス?」
「……壊しさえしなきゃ、好きにしてもらって構わねぇよ。ただ、コイツは“界星試料”、星の根幹だ。停止なんかしたら最悪、世界が滅ぶ・・・・・かもしれない・・・・・・と心に留めておけ」
「わかった」

 俺は続けて、キィとメリスタスに振り返った。

「キィ、メリスタス。お前達は拠点に戻ってこの辺り以外の西大陸を平和にしろ。できるな?」
「待て。そんなことをしては、あと何匹の魔物を作らなくてはいけなくなるかわかっているのか?」

 王が俺の言葉を制す。
 確かに、魔物を作らなくてはいけなくなるだろう。

「コイツを制御さえしちまえば、幾ら魔物を作ろうと関係ない。魔物を作りまくったとしても、後の平和と天秤にかけるなら、俺は制御する事を選択する」
「……さっきは好きにしろと言ったが、制御できると思っているのか?俺たちゃ300年間コイツを調べようとした。一応、天才達だぜ?それでわかった事は微々たるものだ。今日初めてコイツに触れたお前に何ができる?」

 ルガーダスは言う。
 過去に調べたのは天才達だと。
 そうだろうな、きっと俺とは比べ物にならない程の勉強をしてきた奴が解析を試みたんだろう。
 俺は知識だけなら凡人未満かもしれない。
 だからといって、それが諦める理由にもならない。

「俺1人だろうと、やってみないとわからねぇよ。何年かかるかもわからない。それでも、俺は諦めたくないんだ。世界をなんとかする。必ず!」
「…………」
「…………」

 王とルガーダスは黙した。
 しかし、瞳は真摯に俺を見つめていて逸らすことはない。
 やがてルガーダスが疲れたかのようにため息を吐き、踵を返した。

「付いて来い。ズブの素人のお前は、研究資料の見聞から始めろ」
「! あ、あぁ! 助かるぜ!」
「ふん」

 カツカツとひとりでに歩くルガーダスを、俺は追いかけた。
 悪態つきながらも、良い奴なのだろう。
 とにかく、研究のスタートラインに俺はたった。
 俺なんかにどうこうできるかはわからない。
 ただひたすらに頑張ろうと、それだけを心に決めた。

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