連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/118/:地下最下層
3人の眠る家に戻ると、もう全員起きていて王も壁に寄りかかって座っていた。
「……ヤララン、朝帰りですか?」
俺とノールが帰ってくるのを見つけるや、フォルシーナがニヤニヤと笑顔を向けながら訊いてくる。
朝帰りというのがそもそもよくわからなかった。
「は? いや、早起きしたからちょっとノールに頼みごとしてただけだよ」
「頼みごと?」
「神楽器の力でさ、曲は決めてあったけど歌は決めてないだろ? 歌も付けたら良いと思ってさ」
「……そうですか。それは、素敵ですね」
「だろ?」
言って、フォルシーナは微笑んだ。
曲も歌も、必ず仮名Calm Songでなきゃいけないってわけじゃない。
でも、俺が無い頭をフル回転させて考え、フォルシーナも納得してくれた曲だ。
折角なら最初ぐらい、この曲を紡ぎたい。
「……よく話の内容が掴めないが、もう移動してよいか?」
「ん? あぁ……悪いな、王。いつでもいいぞ」
「……了解だ。全員、目を瞑れ」
『…………』
王の指示で誰もが目を瞑った。
一瞬、フッと体が浮いたような感覚があったが、次の瞬間にはひんやりとした空気に体が晒されて何事かと目を開いた。
「……な、なんだここは……?」
今居る所は、俺たちの住んでる世界とはまるで異質。
どこか演劇舞台の会場のような広さだが、幕はどこにもなく、点々と散らばった照明は儚い光を灯すのみ。
大家族で晩餐でも食うのに使うような長さの黒い鉄で出来たデスクは均等に四角いパネルが嵌められてて、その目の前には巨大な白い靄と黒い靄が別れて唸ったような、黒い額縁に入った巨大な円板がある。
その両斜め下にはおよそ10兆近くの数字がオレンジの光を放つ文字で書かれている。
部屋の両端にはポンプのようなものが天井に伸びるように付けられていて、その先端は広がっている事から何かを出すためにあるようだ。
天井には巨大なファンが2つゴウンゴウンと回っている。
大きく目につくものといえばこんなものだが、足元や壁に、見たこともない配管や配線が乱雑に放置されてたり繋がっていたり、意識が刈り取られたかのような人骸鬼が壁に寄りかかって放擲されている。
「……もう目を開けてもいいぞ。既に開けてる奴もいるがな」
「うっ」
「ぎくっ」
王の一言で俺とメリスタスが唸った。
お前もか。
……うちのメンバーは男の方が情けないな。
「これはこれは、壮大な作りで……」
「……別世界みたいだな」
「ここを管理しているルガーダス曰く、この世界、サウドラシアの文明が作ったものではないそうだ」
「でしょうね。生産面や機能性を考えれば、大きくても人の手で持てるものしか魔法道具は作れませんから」
フォルシーナが顎に手を当て、カツカツと鉄の地面を歩きながら王に応対する。
材質などを調べてるのか、フォルシーナはファンを見上げたり、床を触ったり、配線を触ったり、無闇に辺りを触っていく。
「……この線はなんですか?」
「電気を送っているそうだ」
「はい? 電気? 黄魔法を延々にながしている、と……?」
「いや、魔法ではなく、物理的なものらしい。回線やら配線やら、ルガーダスはよくわからないことを言っているぞ」
「……物理化学ですか」
フォルシーナが床に落ちた線の塊を1束拾い上げ、繋ぎ目を覗き込む。
「……そんなものを見てもわからないだろう?」
「ええ、これっぽっちも。……この技術に追いつくのに、一体何千年掛かるんでしょうか……」
「さぁな。だが、下手に触るとルガーダスが怒る。ほどほどにせよ」
「……そのルガーダスさんは、どこですか?」
「寝ている。奴は朝弱いのだ……」
「ふむ……」
フォルシーナは配線を置いて、辺りを歩いて回った。
俺やキィ達は見てても面白くなく、何もない真ん中辺りに座り込んでゆっくりと回るファンを眺めていた。
そういえばノールがいないが、アイツはここに来る用事もないから王が瞬間移動させなかったのだろう。
「……存外、広いですね」
「9層に分かれていて、ここは最下層だ。地下1階は神殿のような作り、地下2階から7階は今では魔物の倉庫、8階はルガーダスの家みたいなものだ」
「……そうですか」
王の返答に、疲れたような声でフォルシーナが相槌を打つ。
段々と元気が無くなっているようにも見える。
しばらく見て回ってから、彼女はちょこちょこと小走りに俺の方にやって来た。
「……ヤララン、どうしましょう」
「……なんだ?」
「どう考えても手も足も出ない感じです」
「……マジで?」
「技術レベルがケタ違いです。千年経っても人類はこの技術に太刀打ちできないと思います。そもそも、物理的なものや工学は世界的に見ても絶望的なんですよ。家の灯だって【光】か火ですから。ここには薄暗いですが、電灯なんて物があるんです。もうここは、文明が違うんですよ」
「……ふーん」
技術レベルが違うのは見受けられるが、俺にはふーんとしか言えない。
元々、俺にはお手上げだしな。
「……諦めるか?」
「まさか。そしたら本当にここまで来た意味が無いです。とりあえず、挑戦はしますよ」
「だな。頼むぞ」
「はい……」
フォルシーナの返事は弱々しいものだった。
……いつも元気なコイツが自信がなくすほど、か。
研究させたとしても、あまり根を詰めさせないようにしないと、精神的に辛そうだ。
「誰だお前ら!」
その時、怒号が発せられた。
声の方を全員で注目するが、薄暗くてよく見えない。
ズリズリと靴裏を擦りながら歩く音と共の、1人の中年男が座る俺たちの後ろに立った。
ボロボロの白衣にボサボサに伸びきった茶髪。
髭も所々伸びていて、小汚い印象を受ける。
ノンフレームの眼鏡を掛け、痩せ細った身体で身長も150ちょいといったところか。
老け顔でなんか怒ってるが、あまり怖い印象はない。
「……なんだ? お前ら身なりいいな。東のガキ共か? なんでこんな所に居やがる。王は仕事サボってんのか?」
「……余ならここにいるぞ」
「は? なんでアンタはガキ共をここに入れてるわけ?頭の悪いクソガキがこの機械壊して止めたらどうしてくれんだよ!」
「……壊してないから安心せよ。それと、貴様は煩過ぎだ。寝てろ。それかいつもみたく寝ぼけてろ」
「人様の家に土足で上がってるガキがいるのに葛藤抑えるかよ!! 朝弱いとか関係ねぇ!! おらおら! さっさと出てけ馬鹿ども!」
「いてっ」
小柄なおっさんが俺の背中を蹴飛ばす。
……コイツがルガーダスか?
目の前にある機械を操るようには思えない横暴さだぞ?
「……馬鹿ですって?」
「あ? なんだ女のガキ?」
「面白いことを言いますね、ルガーダスさん。ヤラランを蹴ったのにもキレちゃいましたし、ちょっと魔法について談笑でもしませんか?」
フォルシーナが笑顔のまま立ち上がり、ルガーダスに近付いていく。
なんだ、キレちゃったって。
お前の何がキレたんだ。
「はぁ? 誰がお前なんかと――」
「いいから表にでなさい。……ね?」
「……お、おう。なんだよ。わかったよ……」
「…………」
おそらくライオンをも圧倒するだろう凄みでルガーダスに言い放ち、ルガーダスは声をしぼませながら承諾して2人がルガーダスの現れた方へと姿を消す。
……フォルシーナって、怒ると怖いんだな。
怒らせないようにしようと、俺は肝に命じたのだった。
「……ヤララン、朝帰りですか?」
俺とノールが帰ってくるのを見つけるや、フォルシーナがニヤニヤと笑顔を向けながら訊いてくる。
朝帰りというのがそもそもよくわからなかった。
「は? いや、早起きしたからちょっとノールに頼みごとしてただけだよ」
「頼みごと?」
「神楽器の力でさ、曲は決めてあったけど歌は決めてないだろ? 歌も付けたら良いと思ってさ」
「……そうですか。それは、素敵ですね」
「だろ?」
言って、フォルシーナは微笑んだ。
曲も歌も、必ず仮名Calm Songでなきゃいけないってわけじゃない。
でも、俺が無い頭をフル回転させて考え、フォルシーナも納得してくれた曲だ。
折角なら最初ぐらい、この曲を紡ぎたい。
「……よく話の内容が掴めないが、もう移動してよいか?」
「ん? あぁ……悪いな、王。いつでもいいぞ」
「……了解だ。全員、目を瞑れ」
『…………』
王の指示で誰もが目を瞑った。
一瞬、フッと体が浮いたような感覚があったが、次の瞬間にはひんやりとした空気に体が晒されて何事かと目を開いた。
「……な、なんだここは……?」
今居る所は、俺たちの住んでる世界とはまるで異質。
どこか演劇舞台の会場のような広さだが、幕はどこにもなく、点々と散らばった照明は儚い光を灯すのみ。
大家族で晩餐でも食うのに使うような長さの黒い鉄で出来たデスクは均等に四角いパネルが嵌められてて、その目の前には巨大な白い靄と黒い靄が別れて唸ったような、黒い額縁に入った巨大な円板がある。
その両斜め下にはおよそ10兆近くの数字がオレンジの光を放つ文字で書かれている。
部屋の両端にはポンプのようなものが天井に伸びるように付けられていて、その先端は広がっている事から何かを出すためにあるようだ。
天井には巨大なファンが2つゴウンゴウンと回っている。
大きく目につくものといえばこんなものだが、足元や壁に、見たこともない配管や配線が乱雑に放置されてたり繋がっていたり、意識が刈り取られたかのような人骸鬼が壁に寄りかかって放擲されている。
「……もう目を開けてもいいぞ。既に開けてる奴もいるがな」
「うっ」
「ぎくっ」
王の一言で俺とメリスタスが唸った。
お前もか。
……うちのメンバーは男の方が情けないな。
「これはこれは、壮大な作りで……」
「……別世界みたいだな」
「ここを管理しているルガーダス曰く、この世界、サウドラシアの文明が作ったものではないそうだ」
「でしょうね。生産面や機能性を考えれば、大きくても人の手で持てるものしか魔法道具は作れませんから」
フォルシーナが顎に手を当て、カツカツと鉄の地面を歩きながら王に応対する。
材質などを調べてるのか、フォルシーナはファンを見上げたり、床を触ったり、配線を触ったり、無闇に辺りを触っていく。
「……この線はなんですか?」
「電気を送っているそうだ」
「はい? 電気? 黄魔法を延々にながしている、と……?」
「いや、魔法ではなく、物理的なものらしい。回線やら配線やら、ルガーダスはよくわからないことを言っているぞ」
「……物理化学ですか」
フォルシーナが床に落ちた線の塊を1束拾い上げ、繋ぎ目を覗き込む。
「……そんなものを見てもわからないだろう?」
「ええ、これっぽっちも。……この技術に追いつくのに、一体何千年掛かるんでしょうか……」
「さぁな。だが、下手に触るとルガーダスが怒る。ほどほどにせよ」
「……そのルガーダスさんは、どこですか?」
「寝ている。奴は朝弱いのだ……」
「ふむ……」
フォルシーナは配線を置いて、辺りを歩いて回った。
俺やキィ達は見てても面白くなく、何もない真ん中辺りに座り込んでゆっくりと回るファンを眺めていた。
そういえばノールがいないが、アイツはここに来る用事もないから王が瞬間移動させなかったのだろう。
「……存外、広いですね」
「9層に分かれていて、ここは最下層だ。地下1階は神殿のような作り、地下2階から7階は今では魔物の倉庫、8階はルガーダスの家みたいなものだ」
「……そうですか」
王の返答に、疲れたような声でフォルシーナが相槌を打つ。
段々と元気が無くなっているようにも見える。
しばらく見て回ってから、彼女はちょこちょこと小走りに俺の方にやって来た。
「……ヤララン、どうしましょう」
「……なんだ?」
「どう考えても手も足も出ない感じです」
「……マジで?」
「技術レベルがケタ違いです。千年経っても人類はこの技術に太刀打ちできないと思います。そもそも、物理的なものや工学は世界的に見ても絶望的なんですよ。家の灯だって【光】か火ですから。ここには薄暗いですが、電灯なんて物があるんです。もうここは、文明が違うんですよ」
「……ふーん」
技術レベルが違うのは見受けられるが、俺にはふーんとしか言えない。
元々、俺にはお手上げだしな。
「……諦めるか?」
「まさか。そしたら本当にここまで来た意味が無いです。とりあえず、挑戦はしますよ」
「だな。頼むぞ」
「はい……」
フォルシーナの返事は弱々しいものだった。
……いつも元気なコイツが自信がなくすほど、か。
研究させたとしても、あまり根を詰めさせないようにしないと、精神的に辛そうだ。
「誰だお前ら!」
その時、怒号が発せられた。
声の方を全員で注目するが、薄暗くてよく見えない。
ズリズリと靴裏を擦りながら歩く音と共の、1人の中年男が座る俺たちの後ろに立った。
ボロボロの白衣にボサボサに伸びきった茶髪。
髭も所々伸びていて、小汚い印象を受ける。
ノンフレームの眼鏡を掛け、痩せ細った身体で身長も150ちょいといったところか。
老け顔でなんか怒ってるが、あまり怖い印象はない。
「……なんだ? お前ら身なりいいな。東のガキ共か? なんでこんな所に居やがる。王は仕事サボってんのか?」
「……余ならここにいるぞ」
「は? なんでアンタはガキ共をここに入れてるわけ?頭の悪いクソガキがこの機械壊して止めたらどうしてくれんだよ!」
「……壊してないから安心せよ。それと、貴様は煩過ぎだ。寝てろ。それかいつもみたく寝ぼけてろ」
「人様の家に土足で上がってるガキがいるのに葛藤抑えるかよ!! 朝弱いとか関係ねぇ!! おらおら! さっさと出てけ馬鹿ども!」
「いてっ」
小柄なおっさんが俺の背中を蹴飛ばす。
……コイツがルガーダスか?
目の前にある機械を操るようには思えない横暴さだぞ?
「……馬鹿ですって?」
「あ? なんだ女のガキ?」
「面白いことを言いますね、ルガーダスさん。ヤラランを蹴ったのにもキレちゃいましたし、ちょっと魔法について談笑でもしませんか?」
フォルシーナが笑顔のまま立ち上がり、ルガーダスに近付いていく。
なんだ、キレちゃったって。
お前の何がキレたんだ。
「はぁ? 誰がお前なんかと――」
「いいから表にでなさい。……ね?」
「……お、おう。なんだよ。わかったよ……」
「…………」
おそらくライオンをも圧倒するだろう凄みでルガーダスに言い放ち、ルガーダスは声をしぼませながら承諾して2人がルガーダスの現れた方へと姿を消す。
……フォルシーナって、怒ると怖いんだな。
怒らせないようにしようと、俺は肝に命じたのだった。
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