連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/114/:願い

「ヤララン、私には疑問があります」
「なんだ?」
「何故私達は中途半端に魔法が使えるのでしょうね。どうせなら森羅万象を操れれば良かったのに」
「……俺にそんな話振るのはイジメ以外のなにものでもねぇぞ」

 キィ達が話しているだろう間。俺たちは壊れた家屋を修繕、建造して回っていた。
 大体の建っていた場所には若干跡が残ってるから、それを元に【緑魔法】で木造の家を建てていく。
 今回はフォルシーナも神楽器を持って魔力量を増やして作業をしているのだから珍しい。
 フォルシーナは基本的に指揮や頭を使った作業ばかりをしているから、自分から何かするなんてのは貴重な場面だ。

「イジメてるんですよ?」
「タチ悪いな。……いつものことだけど」
「まぁまぁ、冗談はさて置き」
「……置いといていい問題かよ」
「まぁまぁ、置いとくとしまして……」

 ねちっこく二度も置くと言うからには、俺も諦めて置いとくとしよう。
 何も言わず、目だけで反抗するも、フォルシーナは苦笑で返した。

「さっきサァグラトスさんと私が話してる時、ヤキモチ焼いてませんでしたか?」
「わざわざ掘り返すんだな、お前は」
「気になりますからっ」

 ニヤニヤ笑いながら俺の手を絡め取ってくる。
 ……なんだコイツは、今日はとっても気持ち悪いぞ。
 俺はフォルシーナの両肩を持ってグイッと突き放し、おでこにデコピンしてやる。

「痛っ」
「変な勘違いすんな。まぁお前の言ってることが正しかったにせよ、自分の従者が主人の前で男に尻尾振ってるのが嫌だっただけだ」
「その言葉、従者を恋人に変えてもう一度っ」
「……デコピンより強烈なのが喰らいたいと?」
「強烈な甘い言葉を喰らいたいですっ」
「…………」

 俺は静かにため息を吐いた。
 頰が赤くてニコニコしているフォルシーナなんて初めて見たし、なんか気持ち悪い。
 フォルシーナが何を期待しているのか知らんが、メリスタス達に毒されてしまったのは間違いない。

「お前がそんな調子でどうするんだよっ。しゃきっとしてくれ」
「……私がこれだけデレデレなのに、ヤラランは冷たいですね」
「デレデレだとなんなんだ。これから先、俺たちの命運はお前に掛かってると言っても過言じゃねぇんだぞ?」
「…………」

 フォルシーナも口を閉じ、うっとりした目から冷静な目に戻る。
 静かに開いた口には、少し緊張が篭っていた。

「……遂に、大詰めですか」
「だなっ。大陸はあと半分あるが、1番の問題はこれで解決するだろう。案外、時間が掛からなかった」
「1年半……長いようで短かったですね。でも、これだけの月日を経て私達は……まったく変わってない」
「……いらねー知識は増えたけどな」
「そんなのは成長でもなんでもないですけどね……」
「……そうかもな」

 本当に、要らない知識は増えた気がする。
 善悪調整装置だの、善幻種や悪幻種、フラクリスラルがどーしてるとか42年前の話とか、ハヴレウス公国の事情だの……知りたくもない情報だ。
 無論、知らなかったら今の状況はないし、今となっては今まで知ったものは運命と言っても過言じゃない。
 まぁ、多少のことを知ったからって成長したってわけでもないのは、フォルシーナの言う通りである。

「でも、成長しなくたっていいさ。成長せず変わらないなら、俺たちはずっと仲良しだろ?」
「……よくもまぁ、そんな恥ずかしいセリフを……」
「今更お前に恥じらうことなんてねぇよ。身体的なこと以外」

 フォルシーナは自分の頭を人差し指で何度か叩きながら苦いものでも食べたように口を歪めた。
 ……お前の方が恥ずかしがってるのか?
 もう言われ慣れてるだろうに。

「気持ちってのは言わなきゃ伝わらないだろ? 素直に言うもんだ」
「……素直過ぎます」
「俺は素直さが自分の良い所だと思ってるからな。良いだろ?」
「……まぁ、嫌いじゃないですがね」
「……微妙な返事だな」

 あまり気の良い返しではなかったが、嫌いでないというならそれでいいであろう。

「……私も、そのうち……恥ずかしいセリフの1つでも言えるようになりますよ」
「……お前が言ったら、天地ひっくり返りそうだな」
「……セリフより拳の方が欲しいですか?」
「痛いのはやめてくれ……」

 苦笑で返すが、フォルシーナはむーっと怒ってそっぽを向いた。
 ……やっぱり素直じゃない気がする。
 本当に天地がひっくり返りそうだ。

「そうだそうだ。フォルシーナ、そろそろ神楽器渡す奴決めないとな」
「え……あっ、そうですね。ベースとアコーディオンが残ってますし」

 もうすっかり忘れられていたが、神楽器は白魔法が使える誰かに渡さないといけない。
 俺がヴァイオリン、
 フォルシーナがフルート、
 キィが小太鼓、
 メリスタスがシンバル、
 タルナがギター。
 あと2つの持ち主を、もうさほろそろ決めたい。

「……神楽器、7つの楽器に同時に魔力を流すと各々の40倍になった魔力を使って、世界全体に【音響サウンド】を発動させる、と……。2つ目の能力の通り、白魔法を流せば世界全体の人間に善意を賜う。……改めて考えてみると、壮大ですよね」
「良いんだよ。本来の俺たちの目的は――」

 ――誰もが善意を持っている、その証明を行う事だろ?

 そう口にするのに、戸惑いはなかった。
 優しくない人間なんて、俺は居ないと思ってる。
 人間なんて、ちょっと悪い事したら「アイツは悪い奴だ」とレッテルを貼られ、長い間悪者になってしまう。
 俺はそれを認めたくない。

 西大陸の平和も俺の願いではあるが、悪い奴をいろいろ見て、みんな根は良い奴なんだと知りたかっただけなんだ。
 随分なわがままなのはわかっている。
 だけど、もし叶うなら、心から悪い奴なんて居ないと信じたいんだ。
 神楽器はその証明にと作ってもらった。
 まさか7個同時じゃないと発動しないとか、そんな風に作られるとは思いもしなかった。
 とにかく、無理やりではあるけれど、善意を世界中に渡らせたなら全部が全部悪い奴はいなくなる。
 全ての人間に、ほんの少しかも知れないけれど、優しさが芽生える。
 どんな悪人でも、優しさが少しでもあったという事が知れれば、少しぐらいは報われるだろう?
 俺は、それがしたかっただけなんだ――。

「……ほんと、とんでもない事言い出すから何かと思いましたよ」
「るせぇ。技術革新もあったんだろ? ならいいじゃねぇか」
「……まぁ、そうですね。因みに私は技術とか簡単に教えたりしないので、魔力増幅とか、世にまだ出てない意味不明な技術は私しか使えません。ふふん、私を神とあがめてもいいですよ?」
「崇めねぇけど……とにかく、誰に渡すかは今夜にでも決めようぜ」
「……はい」

 自慢話をスルーしたのが嫌だったのか、少ししょげた様子のフォルシーナだったが、また家屋を直していくうちには機嫌も戻る。
 そのうち現れた王に呼び戻され、俺たちはキィ達の元に帰った。

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