連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/110/:王

 ノールと話をしている最中にフォルシーナも寂しい屋内に戻って来た。
 3人になって、俺とフォルシーナでキィの話をし、ノールが相槌や質問したりして時間を過ごした。
 生い立ちについても知りたいだろうと思い、生まれ育ちから今に至るまで、本人には悪いが、ノールに教えた。

「……キィ様も大変だったのは、よくわかったよ」

 経緯の全てを伝えると、暗鬱な表情でノールが呟いた。
 3人で囲う囲炉裏は一度火を消され、炎の音もないから余計に哀愁が際立つ。

「……でも、今が幸せそうだし、あのメリスタスって坊やに頑張ってもらわないとね」
「……そうだな」

 メリスタスは優しくて温厚だから、キィの辛かった部分を慰められるだろう。
 男のくせに頼りないけど、キィが頼りになるから相性もいいし、2人がこれからも仲良く過ごしてくれれば俺も嬉しいな。

「ところで、話の中に出てきた神楽器ってのは何?」
「それはですねぇ、私の作った楽器です。7種類あって、全部効果は統一です。魔力を40倍にしたり、誰でも弾けたり、演奏した時に魔力を流せば、魔力のカラーに合わせた感情を、音を聴いた人に与えたりできるんです」
「……はしゃいで説明すんなよ」

 突如フォルシーナがウキウキと説明を始めた。
 しかも、相変わらず最後の能力については触れないんだな。
 まぁ、最後の能力を考えた俺でもアレを言うのは少し恥ずかしいけど。

「魔力40倍? じゃあそこの自称世界一善魔力の多い男は善幻種になったりしないの?」
「私もそう考えてたんですけど、別に魔力が増えたから善意が比例して増えるわけでは無かったんです。一方を魔法道具で無理やり増やしても善意が増えるわけじゃないみたいですね。まぁ、第三効果の魔力色の感情を与えられるから、その時には増やせますよ。自身ではないですがね」
「……ふむ。善意が増えれば善魔力は増えるけど魔力が増えても意思はどうこうならないんだ」
「魔力を溜め込むのは人間の体内ではなく、別次元なんですが、その点はご存知ですか? 基本的に人間の体と離れてるなら、脳に意思のある人間とは基本的に関係がなく――」
「…………」

 なんだか難しくてわけわからん話を2人が繰り広げ出したので、俺は寝転んだ。
 天井には蜘蛛の巣の1つもない。
 キィ達、掃除頑張ったんだな。

「じゃあ、悪魔力を体内に無限吸収しても体に変化はないの? 悪魔力の吸収で殺意なんかが増えたりしないなら、いろいろと変わってくるはずなんだけど」
「うーん……それについては不明ですね。自身のを増幅じゃなく、体外からのものを受け入れるとどうなるかは定かでは……。【静音吸引】は自身の魔力に変換する技なので、体外からの吸収は試したこともなく、そこら辺もいつかじっくり研究して――」

 ……キィとメリスタスはまだ帰ってこないのか。
 帰ってきても俺は特に会話に参入できないだろうが、訳のわからない理論を繰り広げる2人の会話を聞いてるかよりは幾分かマシだろう。
 ……俺もやっぱり、自分の価値観と合う恋人でも探してしま――

「――ノール!!」
『!?』

 怒号に近い男の声に、俺は飛び起きた。
 フォルシーナも立ち上がって羽衣を展開していて臨戦態勢だった。
 だが、相変わらず座ったままのノールは慌てなかった。
 自分の背後に、男が立っているというのに――。

 突如現れたのは青の着物の上に金のヒラヒラがついた赤のマントを着ている老人だった。
 所々金属の装飾もあり、頭には三つ叉のように三本棘のある王冠を被っている。
 目元はクマだらけで白い髭は胸元まで届く、老いた王の姿――。

「どうしたの、サァ兄?」

 なんでもないようにノールが男に尋ねる。
 この目つきの悪りぃ爺さんが、王……?

「昨日ルガーダスの創った人骸鬼が一体制御に失敗して抜け出した。次期にここらを通るはずだ、討伐せよ」
「了解。報告は?」
らぬ。……む?」

 初老の爺さんは、今更俺たちに気付いた様子で俺とフォルシーナを見比べた。
 長い髭を撫でながら短く唸る。

「ふむ……ノール、この者らは?」
「シィ様のご子息、そのお友達」
「何? シィの……?」
「はい。ご子息ももうそろそろ帰ってくると思うし、会って行かれます?」
「……うむ。そうか、シィの……」
「!」

 サァ兄と呼ばれる男が無言で俺の前まで静かに歩いてきた。
 今までにない荘厳さを持った男に少し気後れするも、背丈がさほど変わらないからか、怯むことはなかった。

其方そなた、名は?」
「……ヤララン。捨てた家名はシュテルロードだ」
「ほう、シュテルロードの……あの男の息子か」
「……もう息子じゃねぇけどな」
「成る程。父が気に入らなかったか。其方は正義感が強いのな。天晴あっぱれだ」
「いやいや……」

 その表持ちで、真剣な眼差しで褒められると流石に気後れして、俺の言葉尻は萎んだ。
 威厳ありありな爺さんだことで……。

「ノール、出ろ。余はこの者らと少し話す」
「了解っ。あんまり虐めないであげてよ?」
「老人の願いを言わせてもらうだけだ。貴様はさっさと人骸鬼を倒してこい」
「はいはーいっ」

 呑気な声で返事を返し、ひょいっと立ち上がってノールはドアから出て行った。
 あの調子で話せるのは長年の付き合いがあるからなのか、それとも別の理由かも気になるが、今はそれが問題ではない。

 王はフォルシーナをも手招きし、フォルシーナは慎重に歩いて俺の横に立った。

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