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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/104/:衰弱

 黒を染める雪の竜巻は霧散した。
 後に残って立つは、虫の息になりつつも立つ女のみ。
 即死クラスの魔法を使ってくるとはいえ、流石に4対1なのだからここら辺で不憫に思えてきた。
 しかし、ここまでの技を受けても立っているその実力には舌を巻く。

「ヒュー……ヒュー……おのれ……おのれ……ヒュー……寒い……ヒュー…………ウチ、を……人を超えた、ウチを……ヒュー……」
「…………」

 女の手足は凍りつき、首から下はほぼ氷で頭も半分ほど凍っており、片目は見えていなかった。
 流石に俺も、同情せずにはいられない。
 しかし、もう害もないのは確実で、俺たちは4人でこごえる女に近付いた。

「……貴様、ら…………ここで……ゴフ、ウウッ……!」
「……血が吐きたくても、血液が凍ってますか?よく生きてますね……」
「……あたり、前だ…………ウチは、人間を超えた…………悪幻種……貴様ら、なんかに…………」
「……悪幻種だと?」

 女の語った言葉の中から、聞き慣れぬ単語を拾う。
 悪幻種ーーつまり、善幻種の対になる存在?
 人間で、悪幻種だと……?

「……そうだ……。貴様ら、よりも…………尊い命! 貴重な……存在だ……っ!! わかったら……! おとなしくっ、殺されろぉおお!!!」
「……俺たちは死ねねぇ。お前だけが尊いわけじゃねぇんだよ。誰しもが生きてて良い、尊い命だ」
「ヤラランくんの言う通りだよ。悪い人だな〜、って思う人もいるけど、僕もいろんな村を見てね、誰しも良い人であれると思ったんだ。みんな尊い。殺される必要はないよ」
「……メリス」

 キィとメリスタスが隣で手を繋ぐ。
 ……こんな時にまでイチャつくのはやめてくれないだろうか?

「……ハッ。貴様らが、尊いなどと……ゴミのように、死ぬのがお似合いだっ!!」
「……どうして貴女は、そんなに人に死ねだのゴミだの言うのですか?仲良くしましょうよ」
「フザケルナァァァァアアアア!!!! 貴様らなんかぁぁあああ!!!」
「……錯乱してますね。どうしますか、ヤララン?」
「……そーだな」

 藪から棒にフォルシーナから話を振られるが、コイツが悪い奴ならやることは1つだろう。
 俺は刀を胸の前に持ってきて、握り直す。

「!? 待て! 早まるな!! ウチはまだ死にたくないっ!! こんな、こんな死に方は嫌だっ!!! まだ何も成し遂げてないというのにっ!!!! い、嫌だぁぁあああ!!! ううぁぁあああ……うぅううっ……ううっ…………」
「……なんだかなぁ」

 大泣きし始める女を見て、刀を下げて頭を掻く。
 涙は本物だし、“成し遂げてない”と言うあたり、どうしても死にたくない理由がありそうだし。
 別に殺す気なんて微塵もないが……。

「? ヤララン、【羽衣正義】ならさっさとやってしまえば――」
「待て、フォルシーナ。なぁ、アンタ。どうして死にたくないんだ? 理由によっては助けてやらないでもないぜ?」
「うううっ…………り、理由?知りたい?」
「あぁ、聞かせてくれるならな」
「誰が貴様らみたいな足の裏についたゴミのような奴に教えるか、クソ野郎!!! お前と交わす口なんて罵倒するこの口しかねぇええんだよぉおおお!!」
「…………」
「流石は悪幻種だな。罵倒のレベルが私達とは別次元だぜ」
「おい、キィ……そこは感心するなよ」

 何故か和やかな雰囲気になる。
 主にバカップルのほのぼのオーラがこっちにまで移ってきただけだと思うが、迷惑極まりない。
 しかし、確かに酷い罵倒だ。
 コイツが悪い奴だ、っていうのは明白だろう。
 最早交渉の余地もないと見て、刀を振り上げる。

「ひっ――」
「【羽衣――」
「助け――」
「――正義】」

 戸惑いなく、刃を振り下ろした。
 女の体を刀は通過して、血も流れない。
 見かけ上なにも変わってないが、これでカララルの時みたく変わっ――

 ――ブシュッ

「……え?」

 目を丸くして、目の前の女が呟いた。
 その驚きの後に、彼女の翼が黒い魔力となり、世界に溢れ出す――。

「うおっ!?」
「な、なんだ!!?」
「ごぐぐぐぐぁぁあああアァァァア!!!?」

 広がる青黒いは空に溶けてその色を失い、蒼天の空に還る。
 魔力が流れ続ける限り、女は涙を流し、狂ったように叫び続けた。
 突如、翼が形を取り戻す。
 それは一瞬のこと、次の瞬間には白い光が辺り一帯に発生し、黒き羽が吸収し始める。
 羽の色は白くなり始め、半分が白くなったところで吸収が終わり、景色が還った。

「……ご、うっ……つっ」

 両目から血涙を流しながら呻き、女は魔力で作った装備も羽も解いて元の巫女装束の姿に戻った。

「……うっ、うううっ、ウチ……ウチは……ア、アァ……さ、さむ……ぅ……ァ……」
「! キィ、メリスタス。魔法を解いてくれ」
「え? でも……」
「危険じゃねぇの?」
「いや。もう、大丈夫だよ……」
『…………』

 2人は無言で魔法を解除した。
 黄色い粒子となって消えゆく氷から解放され、巫女装束の女はその場にへたり込んで座った。

「……あ……ぅ…………うぅ……」
「……【火の玉ファイヤーボール】」

 寒さに震える女性を囲うように炎の球を出現させる。
 さっきの白い光、おそらく善魔力がこの女性に流れ込んでたにしても、まだ話せる状況にはなさそうだ。

「キィ、しばらくソイツを見張っててくれ」
「は? なんで私が……」
「お前の事を知った風だっただろ? きっと母親の知り合いだと思うぜ」
「……。わかったよ」
「当然、メリスタスも居ていい。俺は魔力の消耗激しいから、暫く休んでるよ」

 言って、休めそうなところがあるか村を見渡す。
 ここから見えるのは倒壊して瓦礫が適当に積まれたような風景だけで、とても休める所などない。
 何分間の戦いだったのかはわからないが、1時間も経たずにこの村は崩壊してしまった。
 争いの後を見るのは嫌で、せめて寝転べるスペースを探しに俺は移動を始めた。

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