連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/102/:二千桜壁

キィとメリスタスは俺を押し飛ばして前に踊り立ち、勢い止まぬ黒い球体へと剣を突きつける。

『【静音吸引せいおんきゅういん】!』

青く光る刀身は黒い球体の衝撃を感じずに受け止め、小さなそれを消滅させた。

「っと……」

押し飛ばされた俺はフォルシーナに受け止められ、顔を上げて自分の剣を眺める2人と敵を見る。
何故かキィもメリスタスも驚いていていた。

「嘘だろ……」
「この魔力量、これで普通の攻撃――」
「【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】――【悪苑の剣戟グジャロード】」
『!!』

黒の女は自身の身長の倍近くある黒の剣を出現させ、地に向けて振り下ろした。

「――避けろぉお!!!」

その間際、キィが叫ぶ。
俺は振り返ってフォルシーナを抱えて上空へと退避し、メリスタスもキィも飛ぶのが見えた。

次の瞬間には、地表が爆発した。
まばゆい黒の光が地面で轟音と爆風を生み、俺たちを空へと押し飛ばす。

「――ッ!?」

風の勢いが止み、下を見下ろす。
そこには、大きな穴があった。
およそ10世帯ほどの家が入るだろう大穴、その中心には項垂れる黒い甲冑と翼が見える。

「……バケモンかよ」
「でも、今ので魔力を大半は使ったはずですよ」
「だな。倒すぜ」

脇に抱えたフォルシーナの言う通り、あれだけ魔力を使えば動くのもしんどいはず。
俺は何も言わずに赤の羽衣を展開したフォルシーナを離し、黒い点目指して風を切りながら降下する。

「――アアッ!」
「!」

気配を察知したのか、背中を仰け反らせて腕をこちらに伸ばして黒い魔力弾を連続で放ってくる。
速い――が、視認できる速度であり、直線的な攻撃だ。
体を反らせば躱せてしまい、裾の影から刀を取り出し、目前に迫った女へと一閃する。
ガツン、という硬い感触があった。
刀は少女の肩に直撃したが、まるで岩を叩いたような感覚が腕にあるだけで、女の黒い瞳は不思議そうに俺を見ていた。

「――おい。誰がウチに触れていいと言った?」

黒い瞳を光らせながら、刀をガントレットで握りながら冷淡な声で呟く。
飛びのこうとしたが、体が動かなかった。
ただ目の前の奴は言葉を呟いただけ。
それなのに、俺は初めて恐怖を感じた。
ぶわりと汗が噴き出し、体は硬直する。
俺の口は開いたまま何も喋れず、震えだす――。
何故、こんな――。

「……ヘェエエ、震えてるんダァ」

ニタリと笑いながら彼女は呟いた。
冷淡ではない、嬉々とした声。
恐怖が和らいだのか、俺の口は微かに動いた。

「な、なん……だ、よ」
「動けないでしょ? 動けないでしょ? ありがとっ、ウチが遊びやすいでしょ? アハッ、アハハハハハ」
「ッ……こ、の……」
「どけぇえヤラランッ!!!」
「!?」
「ん?」

叫びに近いキィの言葉に俺は空を見上げた。
ちょうど真上、そこにはキィ、フォルシーナ、メリスタスが紅く光らせた刀を構えていた。

『【赤龍技せきりゅうぎ】――』
「ッ!!」

3人同時に技の詠唱を始めると、俺は刀を手放して飛び退いた。
体が動いたのは緊張が解けたか生存本能かのどちらかだろう。
逃げながら、頭だけ空に向けて様子を伺う。

「――およ? 置いてっちゃった」

残された黒い女は刀を放り投げ、首を一周回し、空を見た。

「攻撃? よし、【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】――」
『【轟力閃赤ごうりきせんか】!!!』
「【悪苑の殲撃シュグロード】!!!」

赤い3つの斬撃波に対し、女は両手に出現させた槍の片方を、空に向けて投げただけ――。
折り重なる斬撃波と細い黒の槍が衝突する。
一瞬のことだった。
たった一本の槍が、斬撃を押し返すのは。

「そらぁッ!!」

さらにもう一本の槍を空へと投げる。
キィイインと唸る空気、斬撃を放った3人はそれぞれ横に飛んでいて、あんなものはまず当たらないが――2本目の槍が1本目に接触した刹那、爆発した。
黒い煙は空を覆い尽くし、爆風は地上まで降り届く。
膝立ちになって俺は風を耐え凌ぐも、空に居たフォルシーナ達は――

「死んだかな?」

大分離れたが、黒い女の呟く声はよく聞こえた。
やがて暗い煙は徐々に晴れ、青の空がポツポツと見え始める。

――ピ〜〜〜〜〜〜ッ!!

「!?」
「なんだ……?」

笛の音が聞こえた。
その高い音はきっとフルートの――。

「……まったく、こういう所で使う気は無かったのですが――仲間を護ったのですし、よしとしましょう」

暗い空の中、太陽と共に無数の桜の花びらが青空に映った。
その中にはキィとメリスタス、そして、剣とフルートを持ったフォルシーナが立っていた。

「【羽衣天技はごろもてんぎ】、【二千桜壁にせんおうへき】……。私の作った最高の防護魔法……そう簡単には、打ち破らせませんよっ?」

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