連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/99/:初動

 1年の間に、大陸の半分近くは俺たちの領土となった。
 元来、村々は離れていたりして基本は森続き、村と村をはしごを登るように一つずつ行けば1年で半分まで行く。
 と言っても、それだけではない。
 俺とフォルシーナ、キィ、ミュラリル、メリスタスで各々部隊を作ったりして、別れて行動したこともあり、広範囲に渡って領土を広げた。
 交通の便のためにフォルシーナにはマフラーのような飛行魔法道具を幾つも作ってもらい、物流や人々の移動もあった。
 全部で6000人から7000人前後と少ないが、殺し殺される世界、人口が多い方が不思議なもんなんだ。
 だが、6000人居れば色々できる。
 そう、国でさえ――。
 …………。

「ヤラランっ。聞いてますか、ヤラランっ?」

 上の空の俺の心に響く声。
 顎肘付いてた手を離し、声のする方を見る。
 振り返れば、フォルシーナの顔が目と鼻の先にあった。

「ん? ああ、なんだって?」
「だからっ、体制統一のために今までの村や町を1つに纏めて国にするって話ですっ!」

 そう言ってフォルシーナは曲げた腰を伸ばし、凛然と立つ。
 彼女の背景には今いる村の会議室の壁があり、今の状況を理解する。
 そうか、そんな話をしてたか。

「で、誰が王様とかやるんですか?」
「はぁ? 知らねーよ。ま、纏めるんならタルナかカズラだろ。アイツらが今の領地主より半年だけ長くやってるし」
「……貴方はやらないんですか?」
「なんで俺なんだよ。まだ旅は半分だっつーの」

 西大陸は、一応広い。
 一応と付けたのは、飛べば広さなど俺には関係ないからだが、外回りを休みなく歩けば10年は軽く掛かる距離だろう。
 当然、北に行けば寒いし中部に行けば暑い。
 どっかの部隊はオーロラを見たりと、羨ましい限りだ。
 だから、俺はまだ旅をしたい。
 自分のためにも、ね。

「……みんなは貴方かキィちゃんなどがやって欲しいというでしょうけどね。良いんですか? そんな投げやりで」
「俺はガキだ。難しいことはよくわからん。王様とか死んでもごめんだね。無責任なこと言う奴なんか知らんからやれって言われたって俺はぜっっったいにやらん」

 言って、俺は座っていた椅子に深く座った。
 そもそも俺みたいな奴に責任押し付けないでほしいね。
 俺は良い奴だが、それゆえ人付き合いが多少上手いだけでそれ以上の人間じゃない。

「それに、キィもミュラリルも即位させないからな。まだアイツらには領土拡大を手伝ってもらいたいし」
「……だとしたら、タルナですか」
「不満か?」
「そうではないです。統一するなら、暫くは彼に任せましょう」
「だな」

 上手く説得し、タルナが王とかいうクソ忙しい職に収まることに。
 この国は金があるわけでもないし、王様だからって遊ぶこともできず寧ろ仕事ばかり回されるだろう。
 ま、神楽器持ってるしな。
 たくさん人を配属させれば良いだろう。
 アイツも、いい加減俺に振り回されるのも慣れてるだろうしな。

「では、私たちはどうします?」
「……うーん」

 俺の椅子の前にあった長テーブルの上に、フォルシーナが地図を広げる。
 この西大陸の地図だ。
 今居るのは、丁度西大陸の中心地。
 そして、ここから西に5kmほど先には――

「……ハヴレウス城、か」

 ミュラルルの言っていた“王”の居るとされるハヴレウス城がある。
 城の周りには、城下町……。

「王都、ですね」
「あぁ。ここは人が多そうだ」
「……ふむ。行くメンバーはどうします?」
「…………」

 今回のメンバーは重要かもしれない。
 できれば、戦力になる奴を何人か側に置いておきたいが……。

「キィとミュラリルはどうしてる?」
「キィちゃんはメリスタスくんと村に居ますよ。ミュラリルちゃんは北方に彼女の部隊があるって、1週間程出払うそうです」
「……そうか」

 キィとメリスタスがいるならなんとかなりそうだ。

「カララルは?」
「3つ前の村にヤラランが置いてったきり見てないですよ?」
「え、そうなの? じゃあ今度会いに行くか」

 最近見ないと思ったら俺が置いてったのか。
 すっかり忘れていたというか、忘れていたかったな。
 前回会ったときはこっち見た瞬間脱ぎ始めたし、段々行動が過激になってるんだよ。
 あまり会いたくはないが、顔合わせぐらいはしておこう。

「となると、メンバーは俺、フォルシーナ、キィ、メリスタスでいいか」
「懐かしい面子ですね。もう神楽器を持った面々と共に行動することもなかったですし、久し振りにいじり倒すとしましょうかねぇ、うへへへへっ」
「……遊びじゃねーんだから、気ぃ抜くんじゃねーぞ」

 腰を上げて立ち上がる。
 よだれを垂らして笑うフォルシーナの頭を小突いて、少し痛そうにする彼女にもう一つ告げた。

「出発は明日な?」
「……相変わらず早いですね」
「この場所はテキトーに誰かに任せよう。さっさと王とやらをシメて、美味いもんでも食おうぜ」
「……承知しました」

 あまりよろしくなさそうな返事をするが了承を受け、そうして俺たちは村を出たんだ。
 そう、久し振りに積もる話とか、4人で絆を深め合う機会だとも思っていた。
 なのに、なんだアイツらは。

「ほらメリス〜、これがニッコリーノソウつって、食べたらニコニコ笑う草なんだよ〜」
「え、なんかゴボウみたいだね〜。でも、こんなのなくても、キィちゃん見てたら笑顔になるよ〜?」
「え、もうっ! 恥ずかしいだろ〜?」

 陽が暮れて焚き火を灯し、森の中で俺たちは焚き火を囲んで4人で座っていた。
 フォルシーナと俺は会話を交えず、キィとメリスタスの甘い声を聞いている。
 というか聞くしかなかった。

 飛んで行けば城まで1日も掛からないのに、談笑しながら行こうとして歩こうと俺が提案したせいでこんなことになってしまった。
 というか、キィとメリスタスがまともに歩く気がなくて立ち往生ばかりだったし、というか、ずっとピンク色のオーラを出している。
 ……人選、間違えたかなぁ。

「ヤララン、少し席を外しませんか?」
「おう。冷たい空気吸いたくなってきたし、行くか」

 藪から棒に出されたフォルシーナの提案に乗り、座っていた丸太から腰を上げる。
 こっちが立ったのに2人は見向きもしない、というか気付いてすらいない。
 少し呆れながら、フォルシーナに促されるままに木々生い茂る暗い森の中を進んだ。

「……はぁ。この辺りでいいよ」
「え? はい」

 ある程度離れると、フォルシーナに言って立ち止まり、木にもたれかかる。
 フォルシーナはいつもの様子でニコリと笑い、尋ねてくる。

「どうです? あの2人を見てると、恋もそんなに悪いものではないでしょう?」
「いや、俺には合わねぇ……。お前はあんな風にならないでくれよ?」
「貴方にそう命じられている間は自粛しますよ」
「……だといいがなぁ。俺はお前が他人にあんな風にされてると気持ち悪くてしかたねぇ」
「えっ!!?」
「あ?」

 急に驚くフォルシーナに俺までびっくりする。
 なんだ?

「どした?」
「いえ、その……や、ヤララン。それって……」
「それ?」
「私が他の男を口説いて欲しくない。つまり、嫉妬……ってことですかね……?」
「…………」

 俺の口は今横に長い方のようになっていることだろう。
 俺が注意したかったのは頭の中がお花畑みたいになるなって事だったつもりなんだが、既に半分以上片足突っ込んでるな。
 それについてはもう止める気はないが、嫉妬、嫉妬ねぇ……。

「まぁ、そりゃあするだろうな」
「!?」
「一番俺に信頼してくれてると思ってた相棒が、一番信頼してる相手を変えるんだからな」
「…………」
「……なんだよ、その白い目は?」
「……恋愛的意味の、嫉妬じゃ、ないんですね……」
「? 当たり前だろ?」

 そもそも俺たちはそういう仲じゃない。
 そんじょそこらの恋愛より尊い友情だろうに。

「……ヤララン、そんなんだからモテないんですよ。今のはちゃんと嫉妬って言うか恥ずかしそうにもじもじするところでしょう? すすれば私も少しぐらいドキッとしてですね……」
「はいはい、わるーございますよー」

 いつも通りの皮肉を頂く。
 キィとメリスタスは変わったが、俺とフォルシーナは何も変わってないようであった。

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