連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/98/:結論とそれから

 昨日と同じ夕映えが見える。
 昨日と同刻、同じ場所に、俺は立っていた。
 当然、用事は――

「よっ。待たせたな、ヤララン」

 タンッと足音を立てて屋上の上に降り立ったのはキィだった。
 いつもの調子で、昨日は何事もなかったかのような様子に、俺は少し救われていた。
 彼女も彼女で、複雑な気持ちに折り合いがついたのだろう。

「待たせてんのはこっちだっての」
「それもそうだな。早く答えろよこの朴念仁が」
「……はいはいっ」

 いささか遠慮がなさすぎる気もするが、まぁいい。
 わざわざ同じ時間に呼び出したんだ。
 きっと俺の用事はわかってるだろう。

「それで、返事だが……」
「おう……」
「…………」
「…………」
「……。現状、俺はお前と恋人になるつもりはない。悪いとは思うが、これが俺の返答だ」
「…………」

 俺の返答を聞いても、キィの顔色が曇ることはなかった。
 もとより、回答延期かイエスノーの3択。
 その中で、一番悪い返事だっただけ。
 予期することはできただろう。

「……理由を聞いてもいいか?」

 落ち着いた様子で尋ねてくる。
 俺は一つ頷き、答えた。

「理由は2つだ。1つは、俺が1人のために生きるつもりがないからだ。俺は今の自分の生き方を変えるつもりはない。この先消え行く運命なら、悲しみが小さい形で抑えたいんだ」

 1人のためには、俺は生きない。
 多くのために生きるし、それが変わることがないのはキィもわかってると思う。

「もう1つは、俺自身がお前とどう向き合えばいいのか、まだよくわからないからだ」
「……普通に接してくれれば、いぃだろ……」
「俺だってそうしたいところさ。だけど、俺にはその“普通”がわからない。今まで接してた中、お前にあがなおうと努めてた点があるし、正直、恋人になってもならなくても、お前との今後の付き合い方がわからないんだよ」
「…………」

 キィは俯いて沈黙した。
 生憎、俺は心の整理が手早くできるほど大人じゃない。
 だけど、この先の付き合い方を決めたとしても、俺がキィを恋しく思うような付き合いではない。
 なら、俺は受け入れられない……。

「……それでも――」

 ポツリと、キィが呟いた。
 一拍間を空け、彼女は顔を上げる。

「それでも! ヤラランが付き合い方とか考えてくれてるのは、私が大切だからだよな!?」
「当たり前だ。大切じゃねぇ奴のために悩むかよ、アホ」

 俺は即答していた。
 もうずっと共に過ごしてきた仲間、大切じゃないわけがない。
 するとキィは安心したように微笑む。

「良かった……」
「…………」
「あ、じゃあ私にもまだチャンスあるんだろ?」
「は……? いや、諦めないの?」
「なんで諦めるんだよ。いやまぁ、無理だと思ったらさすがに諦めるけど、それまでは頑張ってみるかな」
「……。懲りねぇ奴だなぁ」

 フられたのに根気よく挑戦しようとは、健気なことだ。

「ま、頑張れや」
「おうっ!」

 元気の良い返事を返す少女。
 話は終わり、俺たちは同じ帰路を歩んで帰って行った。

 それからはひたすらに同じような日々が続いた。
 村や町を次々と治め、キィやミュラリル、カララルは毎日のように俺にやっかんでくるし、フォルシーナはからかってくるし、そんな日々の連続。
 そうそう、メリスタスが仲間入りした。
 普通に良い奴だったし、村での生活で度胸も少しはついたらしい。
 今となってはミュラリルやキィと同等に働いてくれる。
 神楽器のシンバルも渡し、今後に期待を高めている。

 そして、キィの告白から、かれこれ1年が経過した――。



「……せねぇ」

 森の中、切り株の上で1人ごちる。
 切り株の元は大樹なのか、体育座りしても足からお尻まで円の中に収まったが、どこからどう見ても俺は寂しい奴だった。

「……まだ言ってるんですか?」

 後ろから、呆れたようなフォルシーナの声がする。
 まだ、というのは、俺が1ヶ月前から同じようなことを言っているからだろう。

「……だって、あれ見ろよ」
「……もう見たくないです。見てて疲れますし」
「いいから……見とけ」
「…………」

 俺がフォルシーナに見ろと催促させる。
 その見せたいものといえば――

「ちょっと、キィ……抱きついたら食べにくいってば」
「ツレないこと言うなよ、メリス〜♪」
「まったく、もう……しょうがないなぁ♪」
「…………」

 メリスタスとキィがイチャイチャしているのだった。
 もうウザいくらいラブラブなのであった。
 なぜああなってしまったのかというと、キィは俺に告白してから3ヶ月くらいで諦めた。
 ちょうどその頃にメリスタスの所に俺が出向き、仲間になれると踏んで連れてくると、その次の日からキィとメリスタスは友達になっていた。
 日に日に仲睦まじくなっていき、1ヶ月前に恋人宣言。
 今では他人の目など気にせずイチャつく始末だ。
 あの頃の粗悪な態度のキィはどこに行ったのか、口調は変わらずともしおらしくなったし、メリスタスもメリスタスでイチャつくのになんのためらいもない。
 なんなんだ、アイツらは。

「……俺、選択を間違えたかなぁ」
「キィちゃんと恋人になっとけばよかったと?」
「……それもなんか微妙だわ。あれ見てると、な……」
「……左様ですか」

 気付けば俺も18歳、フォルシーナはあと半年近く経ったら20歳。
 あんなもん見せつけられたら、俺も恋人作った方が良いのかねぇ……?

「……はぁ」

 間抜けなため息が、俺の口から吐き出された。
 ……うらやましー。
 …………。

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