連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/93/:真相・①

 その日、俺は所々サポートに回って1日を過ごした。
 親睦を深め、ゆったり夜を待つ。
 どうか今日が語る日にふさわしいと願いながら、陽が落ちるのを待っていたんだ。

「……いた。よっ、ヤララン」
「んん? おお、キィ。ちょうど探そうとしてたんだ」

 家屋の上で胡座あぐらをかいていると、横にキィが降り立った。
 半被にスカートと、着物を着てる身からすれば相変わらずの薄着で、キィの振る舞いも矢張り軽やかだった。

「……ここ、陽が綺麗だな。屋根の上なんて乗らねぇから、知らなかったよ」
「……あぁ、悪くない景色だ」

 地平線に半分沈んでいるのがはっきりと見える。
 オレンジの弧は徐々に距離を縮めていき、10数分で沈むであろう。

「で、何の用だ?」

 立ち上がり、キィに尋ねる。

「……大事な話があるんだ」
「へぇ、そりゃ奇遇だな。俺もお前に話があるんだよ」
「マジか!? えっ、えええぇっ!!?」
「……なんで驚いてんだか」

 俺の返答は予想外だったらしい。
 なんっつーオーバーなリアクションなんだか。

「ちょ、ちょっと待て! 内容が同じだったら……やべー、どうしよう……」
「? 顔赤えぞ? 大丈夫か?」
「な、なんでもねぇ……気にすんな……」
「? おう」

 膝に手をついてスーハースーハーと息を吸っているキィさん。
 なんの話だよ……こっちは昨日のフォルシーナのせいで少し気が重いのに……。

「……先に言え。聞くだけ聞くから」
「あ、あぁ……」

 催促すると、気弱な返事が返ってくる。
 ふむぅ……なんの話だか……。

「……い、いいい、一度しか言わないから、心して聞けよっ!?」
「聞き逃さねぇよ……はい、なんだ?」
「…………」

 彼女は一拍おいて、瞳を潤ませながら小さな口を細々と開いて、告げた。

「……好きだ、ヤララン。私で良ければ、恋人になってくれないか?」
「――――」

 耳を疑った。
 ……好きだと?
 恋人になって、だと?
 そして、フォルシーナの言った乙女の意味を理解した。
 アイツは乙女と言えば恋、と言っていた。
 あれはこの時のための布石だったのだ。
 キィの気持ちをもないがしろにしないために、隠した言葉だったんだ……。

「……好き、か」

 返答に困ったが、とりあえず会話を続けた。
 変に疑われるのは、ヤバい。

「……あぁ。結構前からな。ヤラランの事だし、気付いてなかったんだろ?」
「……気付かなかったさ。気付いてたら、驚かねぇっつの」
「それもそうだな〜……」

 あっけらかんとしているキィの態度に、少しだけ救われた。
 まだコイツには、心の余裕がある。
 告白だって、それなりに勇気があるはずなんだが、余裕があるだけ良かった。

「……それで、返事は? 私はフラれようが構わねぇよ。それで吹っ切れるからさっ」
「…………」

 返事は決まっていた。
 だが、どう言えばいいのかまだ頭の整理がつかないでいる。

「……キィ」
「……あぁ。なんだ?」
「返事の前に、俺の話を聞いてくれないか?」
「……女は待たせるもんじゃねーぜ?」
「いーから、聞けっ」
「……おう」

 半ば強制的に話を変える。
 そう、話の後なら、返事はすぐできる。
 だから、まずはこっちを――

「キィ、俺はずっと、お前に隠していた事がある」
「……隠していた、こと?」
「俺のフルネームは、ヤララン・シュテルロード。そして、キィ」
「!」
「お前の母親を殺したのは、俺の父親だ――」

 沈みゆく夕陽は儚く、夜の訪れはごうごう鳴る風を引き連れてくる。
 しばらく晴れ続きだった空は、嵐の予感を震わせていた――。

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