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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/92/:勇気

 次の日の夜、俺はフォルシーナを呼び出して夜道を散歩していた。
 雨の降らない日々が続いているのは幸いか、夜風が気持ちいい。
 俺たちみたいに無闇に歩く人もなく、家々から漏れる光だけで道を見て、行き先もないのに進んでいく。

「……久々に散歩をしようと誘われれば、ついにその話ですか」
「あぁ。今のアイツなら、俺の話も受け止められるさ」

 横に並んで歩いていく。
 話の内容が内容なのに、足取りは重くない。

「……私、余計なことしましたかねぇ」
「なにがだ?」
「いえ、こっちの話です」
「……あっそ」

 ならば言わなければいいのに。
 聞かれたくなさそうだから追求しないが。

「……どうなりますかね、ヤララン」
「お前の方が不安になるなよ。俺の方が、キィに嫌われないか不安なんだぜ?」
「……。……キィちゃんは、乙女なんですよ」
「まーた乙女か。よくわかんねぇよ……」

 乙女だなんだと言われてもわからんから、きっとわかられないように言ったんだろう。
 教えないくせに意味深い事を言う。
 きっとそれは、なんらかの警告――。

「……まだ早いか?」

 俺は足を止めた。
 突如重くなった両足を。

「……いえ。いつ言っても、きっと変わりません。成長した彼女に、私は委ねます……」
「……そうかい」

 フォルシーナから見ても、成長しているらしい。
 だったら伝えることは伝えないとねぇ……。

「……明日、言う。お前は立ち会うな。これは俺たち家族の問題だ」
「……承知しました」
「ハハッ、もしキィが錯乱して俺を殺したら、後の事は任せるぜ?」
「そんなことがないようにしますよーっ」

 もうアイツも16歳近くのはずだ、そこまで心は弱くないかもしれない。
 けれど、どうだろう?
 アイツの母親を殺したのが、俺の父親だって知ったら――?










 その日の夜、私はキィちゃんを誘ってヤララン達とは別棟に寝ることにしました。
 補修されたベッドに2人で寝そべり、枕元にあるチェストの上には蝋燭が淡い灯火を放っている。

「……なぁ、なんか用があるんだろ? 早く話してくれよ」

 着物姿のまま布団に入っているキィちゃんが、枕に肘を立てて頬杖をつく。
 私はキィちゃんの方を向いて寝そべり、微笑んだ。

「そんなに焦らなくてもいいじゃないですか。それとも、ヤラランが心配ですか?」
「はっ? なんでヤラランが心配なんだよ……。別に私は……」
「ミュラリルもカララルも、ヤラランは対等に仲良くする。もし今より仲良くなったら、自分は構ってもらえない……でしょう?」
「……誰が、ヤラランとなんか」
「顔、赤いですよ?」
「な、なんだよテメェぇええ!? おちょくってんのか!?」

 ガバッと布団を吹き飛ばし、ベッドから飛び退いて両手を手刀にし、構えてくる。
 フフッ、そんなに面白い反応するなんて……。

「いつもヤラランが他の女の子と話してると、拗ねて雑草食べたり、怒ったりしてますよね」

 私も上体を起こして、優しく問いかける。
 少し呻いたが、しばらくの沈黙の後、彼女は答えた。

「……フォルには隠せねぇしな。私、好きだよ。アイツ」
「でしょうね。見ていてわかりますもの」
「みーんなアイツのこと好きじゃん。どーすんだよ……。私、そんな美人でもないし、ミュラリルとかフォルみてーに畏まってねーし……カララルみてーに快活でもねぇし……良いとこねぇし、勝てねぇよ……」
「でも、ヤラランはあなたの事をよく考えてくれてますよ」
「それは嘘だよ。ヤラランは私のこと、ここに置いてったじゃねーか……成長だなんだのと言ってるけど、内心どう思ってるのか……わかんねぇよ……」
「…………キィちゃん」

 どんどん声は小さくなり、俯いてしまう少女。
 ……まさか、こんな殺伐とした境遇を生んでしまうとは。
 ヤラランに想いを向けさせようとしたのは、いらなかったのかもしれませんね……。

「……キィちゃん、そんなに悲しまないでください。それに、ヤラランは人を疎むような人じゃないでしょう?」
「わかってるよっ……。でも、もしヤラランに、私が見てない間に女とかできたら…………耐えらんねぇかも……」
「…………」

 私は確信した。
 彼女は確かに、この街の長としてよく働いた。
 だけれど彼女はまだ子供で、ヤラランの話を受け止められる力はない……。

「……だから、もういいや」
「…………え?」
「明日、アイツに私の胸の内を明かすよ」
「――――!?」

 驚きで声も無かった。
 なんでこのタイミングで、ヤラランにそんなことを……。
 だとしたら、ヤラランにまだ言うのは遅いと言っても、喋るしかなくなってしまう。

「キィちゃん、落ち着いてくださいよ」
「私は冷静だよ。伝えるべきことを伝えるだけさ」

 顔を上げた彼女の瞳はどこまでも澄んでいて、曇りなど一点も無かった。

「……フォルの用事も聞いてねぇのに、話しちまって悪かったな。フォルがヤラランを好きかは私にはよくわからんかったが、アイツは私が貰うぜ」
「……それは――」

 もはや止める術はない。
 私か言うべきなのでしょうか?
 今私が言えば、少なくとも危険は薄い。
 ただキィちゃんが物凄く憤るだけ。
 それで済む。
 だけれど……。
 ……だけれど……。

「……1つ、確認させてください」

 ポツリと呟いた。
 あぁ、私には勇気がない。
 なんてくだらない言い訳を考えてしまったのだろう――。

「なんだよ?」
「キィちゃんは、ヤラランに何を言われたとしても、怒ったり、傷付けたりしませんか?」
「……今更っ、怒ったりしねーよ。アイツは私を成長させてくれた恩師だ。怒ったりしねぇって」
「……それは良かったです」

 ならば私はここで言わない。
 ……キィちゃんやヤララン、誰よりも臆病で、ごめんなさい。
 自分が今の関係を壊したくないだけなんです……。
 弱くて、すみません……。

「それで、フォルの用は?」
「可愛いキィちゃんと一緒に寝たかっただけですよっ。ほら、布団戻してくださいっ」
「何の用もないのかよっ! あーはいはい、じゃあ寝るかな〜」
「ええ……」

 布団を持ってきて、先ほど寝ていた位置に戻るキィちゃん。
 それを確認して、私は息で蝋燭を消す。

「おやすみ、フォル」
「……おやすみなさい、キィちゃん」

 訪れた闇はほのかに明るくて、それが儚くもあった。

「……また明日」

 私が次にそう呟く頃には、キィちゃんは寝息を立てていた。
 かのじょの安らかな寝顔を見ていると、隠し事をしている自分の胸が痛めつけられる。
 でも、ヤラランが逃げないって決めたのだから、私はただ、見守りましょう……。

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