連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/91/:合流
街での珍騒動から2週間が経過し、俺とカララル達で新たな村での統治者を決めてもう一度キィ達のいる街まで後退した。
「久し振りですわね、この街も……」
街には特に入口らしきものはないが、中央の大通り、その入口前に俺たちは立っていた。
春の春風に髪を揺らしながらミュラリルが懐かしむように呟く。
この場所を出て3週間程、ミュラリルにとっては濃密な日々だったに違いない。
俺と共にいたことから頼られることも多く、王族であり、多色の魔法が使えてたくさん働いてもらった。
そもそもこの街にも1週間足らずしかいなかったし、懐かしいと感じるのも不思議ではない。
「明主様、私は疲れました。抱っこしてください」
「お前はもう少し自重しろ」
腰元に引っ付いてくるカララルに軽くゲンコツを喰らわせる。
今回はキィみたいに西大陸で生まれた奴が何人か居て、カララルに文字などを教えさせた。
カララルのせいか、教え子のガキンチョも俺を見つけると抱きついてくるようになるし、良かったのか悪かったのか……。
カララルは成長してるのかしてねぇのか、よくわからん。
「いいから、行くぞ」
『はい』
俺は街中を歩み出し、その後ろに2人が続く。
道行く人に好奇の目で見られながら、時には声を掛けられて応対し、先日訪れた役所までゆったりとやって来た。
正面から見ると横に広い2階建ての建造物であるが、奥行きが広くて2階には10以上部屋があったりする。
細い四方の窓が規則正しく6つずつ付いた両開きのドアの片方を押し開けて中に入る。
「ん? どした――って、ヤラランじゃねぇか」
入り口にあるカウンターの中では、背もたれに体を預けながら白い紙をピラピラ眺めているキィがいて、俺たちに気付いて驚嘆する。
紙束をカウンターに投げ出し、よっと言って彼女は立ち上がる。
「どうしたよ? こっちは平和だぞ?」
「あぁ、だろうな」
平和なのは道中見て取れた。
キィは自身の役割を果たせている。
「用事は単に、こっちの様子見と、他に付いてくる奴がいないか探しに来たんだ。やっぱ、フォルシーナがいないと俺的には辛いし、今回でキィが抜けるのが痛手だってよくわかった」
「……わたくしたちでは、役不足でしたでしょうか?」
背後に立つミュラリルが、しょぼくれた声で訊いてくる。
俺は振り返り、すぐさま否定した。
「そんなことはない。ミュラリルはよくやってくれているし、カララルも今回は、割と役に立った」
「今回はって、いつもは役に立ってないと!!?」
「……立ってなくね?」
「ひぃぃいいいい!! 頑張りますぅううう!!!」
「あーもう! いちいち引っ付くな!」
ガバッと両手を広げたカララルが腰元に抱きついてくる。
もはや押しのける俺の手に加減はなく、顔を思いっきり鷲掴みにして離させようとするも、中々退いてはくれない。
「はいはいカララルさん、ヤラランさんが困っているでしょう?」
「そうだぞカララル。お前の性情はわかってるが、私たちの前ではやめような? な?」
「!?」
ミュラリルの【無色魔法】か、カララルは引き剥がされて逆さまに宙吊り状態になる。
何故かミュラリルもキィも、笑顔になったぞ。
なのに寒気がするのは俺の気のせいか……?
とりあえず、話を戻そう。
「は、話を戻すぞ……? もともと人数が多いに越したことはないし、キィの目から見て、口が上手い奴とか、指示が的確な奴とか教えてくれないか?」
「……んー……パッと思い浮かぶ奴はヤイハムとスリュールだな。ヤイハムは世話好きでリーダーシップ取れるし、スリュールはなんでも話聞いてくれるし、魔法も3色使えるから頼もしいぞ」
「ふむ……じゃあその2人の所に案内してくれ。ミュラリルとカララルは自由行動。大人数で押し寄せても困りものだから、付いてくんなよ?」
「……了解です……」
「明主様ぁあ! お助けをぉぉぉお!!!」
一人喚くカララルを無視し、俺とキィは外に出た。
先程から変わらぬ陽射しを浴びながら、キィに並んで歩いていく。
「……お前も、今の生活には慣れたか?」
なんでもないように、キィに訊いてみる。
「慣れたよ。それで、いろんな奴と仲良くなったし、ちょっと口喧嘩とかもしたけど、仲良くしてるさ」
笑顔を見せて語る。
本当に、心配なさそうだ。
「そりゃあ、何よりだよ……」
「ヤラランこそ、なんかあったか? つーか、また他の女と仲良くなってねーか?」
「……お前も変な言い方するようになったな」
フォルシーナの影響か、女ができないかと心配される。
余計なお世話だわ。
「別段、仲良くなっちゃいねーよっ。ミュラリルに避けられてると思ったらそうでもなかった、ぐらいかなー」
「……はーん。だったら良いんだけどっ」
「何が良いんだか……」
そっぽを向いて、のそりのそりと歩いていく。
また何度か駄弁をして、キィの案内される道を歩いて行った。
俺は案外、空を見ながら寝転がるのが好きなのかもしれない。
今日もまた1人で家屋の上に寝そべり、妖しく光る月と星々を見上げていた。
何も喋らず、風の音もなく、鳥も虫も鳴かぬ静寂の闇。
山や建物の遮りもなく、空が綺麗に見えるこの空間では俺という個体の小ささが実感できて、悩みも何も吸い取られてしまう。
勧善懲悪だけが旅じゃない。
世界の美しさをその時その場で感じていくのも醍醐味だろう。
夜空なんてどこも変わらないと思っていたが、山や建物が遮らぬ空は美しいもんだ。
「……また、空を見上げてますのね」
「……お前こそ、また来たのかよ」
おどおどとした女性の呟きを拾い、上体を起こして振り返る。
そこには丁度屋根の上に舞い降りた、ミュラリルがいた。
両手に持った杖を抱き、ニコリと微笑む。
「大体いつも、貴方はここにいらっしゃいますもの」
「なんでもいいだろ。考え事があったんだけど、こんな空見てたら考えなんて吹っ飛んじまった」
「フフッ、貴方らしいですわね……」
「うるせーよ……」
右隣に、綺麗な動作で腰を下ろしてくる。
「……何を考えていたんですの? わたくしでよろしければ、聞かせてくれませんか?」
「そんなに難しい話じゃねぇよ。キィを連れてくか、置いてくかだ」
「…………」
キィが信頼を寄せている人物と会って話して、この場所を任せてもいいなと思えた。
キィもこの場所での統括に慣れ、次の地でまた活躍してもらいたい。
だが、もう少し統治を任せてみれば、何か得るものがあるかもしれない。
どっちがいいかなんてわかんなくて、気が付けばただ夜空を眺めていた。
「……置いていけば、いいんじゃないでしょうか……」
「……何でそう思う?」
「……だって、わたくしが居れば、大抵のことはサポート出来ますもの……」
「そりゃあフォルシーナもキィも同じだよ。サポート出来そうな奴は他にも居るし、能力の有無は関係ないさ。俺に付いてきて成長するかが問題なんだよ」
「…………」
ミュラリルは沈黙した。
別に俺はお手伝いして欲しい訳じゃない。
誰かが手伝ってくれなくたって、1人で勝手にやるさ。
観光ではなく、人として成長出来そうな奴を連れて行きたい。
善行をできる奴を連れて行きたい。
キィには私情を加えたとしても、連れて行くことを意義はありそうなんだ。
「ミュラリル、お前はどうだ?」
「……え?」
「俺たちに課せられた寿命、世界のために使ってみないか?」
「…………」
「今の問いに即答できるような奴にゃあ、なって欲しいんだよ。ま、自分のために生きるのだって悪いことじゃないし、自分の生き方は決めとけ。俺に付いてくるかどうか。そして、その後の事もな」
「……はい」
もしもこの大陸を統一したら、みんなそれぞれ何をするのかはわからない。
けれど、みんながそれぞれ、後悔しない人生を送ってくれれば、それが俺の幸せだ。
いろんな人と揉まれて生きてみるのがこの先、役に立たないということはないだろう。
「……もう少し、この街にに残って考える。今日は戻ろうぜ」
「……はい」
ミュラリルを伴って、屋根から降りる。
――キィと行動を共にしたい理由は、成長して欲しいだけじゃない。
アイツも成長した。
そろそろ話さなきゃいけない――。
「久し振りですわね、この街も……」
街には特に入口らしきものはないが、中央の大通り、その入口前に俺たちは立っていた。
春の春風に髪を揺らしながらミュラリルが懐かしむように呟く。
この場所を出て3週間程、ミュラリルにとっては濃密な日々だったに違いない。
俺と共にいたことから頼られることも多く、王族であり、多色の魔法が使えてたくさん働いてもらった。
そもそもこの街にも1週間足らずしかいなかったし、懐かしいと感じるのも不思議ではない。
「明主様、私は疲れました。抱っこしてください」
「お前はもう少し自重しろ」
腰元に引っ付いてくるカララルに軽くゲンコツを喰らわせる。
今回はキィみたいに西大陸で生まれた奴が何人か居て、カララルに文字などを教えさせた。
カララルのせいか、教え子のガキンチョも俺を見つけると抱きついてくるようになるし、良かったのか悪かったのか……。
カララルは成長してるのかしてねぇのか、よくわからん。
「いいから、行くぞ」
『はい』
俺は街中を歩み出し、その後ろに2人が続く。
道行く人に好奇の目で見られながら、時には声を掛けられて応対し、先日訪れた役所までゆったりとやって来た。
正面から見ると横に広い2階建ての建造物であるが、奥行きが広くて2階には10以上部屋があったりする。
細い四方の窓が規則正しく6つずつ付いた両開きのドアの片方を押し開けて中に入る。
「ん? どした――って、ヤラランじゃねぇか」
入り口にあるカウンターの中では、背もたれに体を預けながら白い紙をピラピラ眺めているキィがいて、俺たちに気付いて驚嘆する。
紙束をカウンターに投げ出し、よっと言って彼女は立ち上がる。
「どうしたよ? こっちは平和だぞ?」
「あぁ、だろうな」
平和なのは道中見て取れた。
キィは自身の役割を果たせている。
「用事は単に、こっちの様子見と、他に付いてくる奴がいないか探しに来たんだ。やっぱ、フォルシーナがいないと俺的には辛いし、今回でキィが抜けるのが痛手だってよくわかった」
「……わたくしたちでは、役不足でしたでしょうか?」
背後に立つミュラリルが、しょぼくれた声で訊いてくる。
俺は振り返り、すぐさま否定した。
「そんなことはない。ミュラリルはよくやってくれているし、カララルも今回は、割と役に立った」
「今回はって、いつもは役に立ってないと!!?」
「……立ってなくね?」
「ひぃぃいいいい!! 頑張りますぅううう!!!」
「あーもう! いちいち引っ付くな!」
ガバッと両手を広げたカララルが腰元に抱きついてくる。
もはや押しのける俺の手に加減はなく、顔を思いっきり鷲掴みにして離させようとするも、中々退いてはくれない。
「はいはいカララルさん、ヤラランさんが困っているでしょう?」
「そうだぞカララル。お前の性情はわかってるが、私たちの前ではやめような? な?」
「!?」
ミュラリルの【無色魔法】か、カララルは引き剥がされて逆さまに宙吊り状態になる。
何故かミュラリルもキィも、笑顔になったぞ。
なのに寒気がするのは俺の気のせいか……?
とりあえず、話を戻そう。
「は、話を戻すぞ……? もともと人数が多いに越したことはないし、キィの目から見て、口が上手い奴とか、指示が的確な奴とか教えてくれないか?」
「……んー……パッと思い浮かぶ奴はヤイハムとスリュールだな。ヤイハムは世話好きでリーダーシップ取れるし、スリュールはなんでも話聞いてくれるし、魔法も3色使えるから頼もしいぞ」
「ふむ……じゃあその2人の所に案内してくれ。ミュラリルとカララルは自由行動。大人数で押し寄せても困りものだから、付いてくんなよ?」
「……了解です……」
「明主様ぁあ! お助けをぉぉぉお!!!」
一人喚くカララルを無視し、俺とキィは外に出た。
先程から変わらぬ陽射しを浴びながら、キィに並んで歩いていく。
「……お前も、今の生活には慣れたか?」
なんでもないように、キィに訊いてみる。
「慣れたよ。それで、いろんな奴と仲良くなったし、ちょっと口喧嘩とかもしたけど、仲良くしてるさ」
笑顔を見せて語る。
本当に、心配なさそうだ。
「そりゃあ、何よりだよ……」
「ヤラランこそ、なんかあったか? つーか、また他の女と仲良くなってねーか?」
「……お前も変な言い方するようになったな」
フォルシーナの影響か、女ができないかと心配される。
余計なお世話だわ。
「別段、仲良くなっちゃいねーよっ。ミュラリルに避けられてると思ったらそうでもなかった、ぐらいかなー」
「……はーん。だったら良いんだけどっ」
「何が良いんだか……」
そっぽを向いて、のそりのそりと歩いていく。
また何度か駄弁をして、キィの案内される道を歩いて行った。
俺は案外、空を見ながら寝転がるのが好きなのかもしれない。
今日もまた1人で家屋の上に寝そべり、妖しく光る月と星々を見上げていた。
何も喋らず、風の音もなく、鳥も虫も鳴かぬ静寂の闇。
山や建物の遮りもなく、空が綺麗に見えるこの空間では俺という個体の小ささが実感できて、悩みも何も吸い取られてしまう。
勧善懲悪だけが旅じゃない。
世界の美しさをその時その場で感じていくのも醍醐味だろう。
夜空なんてどこも変わらないと思っていたが、山や建物が遮らぬ空は美しいもんだ。
「……また、空を見上げてますのね」
「……お前こそ、また来たのかよ」
おどおどとした女性の呟きを拾い、上体を起こして振り返る。
そこには丁度屋根の上に舞い降りた、ミュラリルがいた。
両手に持った杖を抱き、ニコリと微笑む。
「大体いつも、貴方はここにいらっしゃいますもの」
「なんでもいいだろ。考え事があったんだけど、こんな空見てたら考えなんて吹っ飛んじまった」
「フフッ、貴方らしいですわね……」
「うるせーよ……」
右隣に、綺麗な動作で腰を下ろしてくる。
「……何を考えていたんですの? わたくしでよろしければ、聞かせてくれませんか?」
「そんなに難しい話じゃねぇよ。キィを連れてくか、置いてくかだ」
「…………」
キィが信頼を寄せている人物と会って話して、この場所を任せてもいいなと思えた。
キィもこの場所での統括に慣れ、次の地でまた活躍してもらいたい。
だが、もう少し統治を任せてみれば、何か得るものがあるかもしれない。
どっちがいいかなんてわかんなくて、気が付けばただ夜空を眺めていた。
「……置いていけば、いいんじゃないでしょうか……」
「……何でそう思う?」
「……だって、わたくしが居れば、大抵のことはサポート出来ますもの……」
「そりゃあフォルシーナもキィも同じだよ。サポート出来そうな奴は他にも居るし、能力の有無は関係ないさ。俺に付いてきて成長するかが問題なんだよ」
「…………」
ミュラリルは沈黙した。
別に俺はお手伝いして欲しい訳じゃない。
誰かが手伝ってくれなくたって、1人で勝手にやるさ。
観光ではなく、人として成長出来そうな奴を連れて行きたい。
善行をできる奴を連れて行きたい。
キィには私情を加えたとしても、連れて行くことを意義はありそうなんだ。
「ミュラリル、お前はどうだ?」
「……え?」
「俺たちに課せられた寿命、世界のために使ってみないか?」
「…………」
「今の問いに即答できるような奴にゃあ、なって欲しいんだよ。ま、自分のために生きるのだって悪いことじゃないし、自分の生き方は決めとけ。俺に付いてくるかどうか。そして、その後の事もな」
「……はい」
もしもこの大陸を統一したら、みんなそれぞれ何をするのかはわからない。
けれど、みんながそれぞれ、後悔しない人生を送ってくれれば、それが俺の幸せだ。
いろんな人と揉まれて生きてみるのがこの先、役に立たないということはないだろう。
「……もう少し、この街にに残って考える。今日は戻ろうぜ」
「……はい」
ミュラリルを伴って、屋根から降りる。
――キィと行動を共にしたい理由は、成長して欲しいだけじゃない。
アイツも成長した。
そろそろ話さなきゃいけない――。
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