連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/89/:乙女
2週間も経てば、村の人々も各々役割りを理解して俺がすることなど何もないと言えた。
一応、指示や質問の応対はしても、それ以上のことはない。
緑魔法で作物を作り、黒魔法】では舗装、【青魔法】では水の貯蔵や水路作り、などなど……。
特に目新しいこともなく、出発の頃合いを見ていた。
だが、一先ず俺は1つの懸念を晴らしたかった。
それは何かと言えば――。
「邪魔するぜ!」
俺は勢い良く扉を押し開ける。
室内に居た2人の人物が机から顔を上げ、こちらを向く。
「あれ、ヤラランじゃないですか」
「久しぶりだな、ヤララン」
「キィ、そんな久しぶりっつー程でもねぇだろ」
元は街の役所だった場所だろうか、そこの執務室には金髪と銀髪――キィとフォルシーナがいた。
そう、俺は単騎で街まで戻ってきたのだ。
「キィ、調子はどうだ? 上手くいってるか?」
「あん? 心配されるまでもねぇよ。私だってやるときはやるっての」
「って言ってるが、フォルシーナから見てどうよ?」
「悪くないですよ。貴方みたいに堂々としてて、良い感じです。いやぁ、まさにヤラランの娘みたいですね。親を見て育ったような? そんな成長過程が見受けられますよ」
「俺の子じゃねーよ……」
若干冗談混じりに言うところを見ると、本当に上手くやっているようだ。
あー良かった……。
キィが精神的に窶れてたりしたらどうしようかと……。
「そもそもヤラランは子供の出来方も知りませんしね。なんでしたっけ? 3年ぐらい前、子供は男と女がキスしたらできるからキスはダメ! みたいな事言ってたような……」
「憶えてねーよ。でも、そうなんじゃねーの?」
「……フッ」
「なんだよその小馬鹿にするような失笑は」
「いえ……なんでもないですよ……?」
「……ったく、赤ん坊の出来方なんぞどうでもいいわ。俺には関係ねーし」
どうせ俺はこの先長くない。
10年も生きないんじゃないかと思っている。
子孫とか、残さねぇよ。
「……恋人や子供ぐらい作ってはどうなんですか? ヤラランももう、17でしょう?」
「嫌だよ、死にたくなくなるだろ。それに、恋愛なんてガラじゃねーよ」
「フッ、そんな事を言えるのも今のうちです。これから先、若さを失い、仲間にも続々と恋人ができる中、自分だけは1人……。寂しさを紛らわそうにも、仲間の女性は皆結婚している、もはや頼りになるのは東大陸の商会にいる同僚達……しかし、おじさんの自分を好きになる人もなく、時間だけが過ぎ去り益々老けてゆく……」
「本当にそんな運命辿ったら、さすがの俺でもお前のこと殺すからな?」
「えぇ、これは恨まれてもしょうがないですねっ」
クスクス笑いながら人の人生を妄想するフォルシーナ。
それを横目に頬杖を着いているキィ。
ここは今日も平和だな。
「ま、俺は良いんだよ。お前らは気になる男とか居ないわけ?」
「…………」
「…………」
「……なんだよ、その目は?」
『……別に』
薄目で睨まれた。
居ないっつーか、俺が振り回してるから男作る暇もないか?
それはすまんな。
「……なぁ、フォル。ヤラランって昔っからこんななの?」
「……そうですねぇ。昔からですよ?」
「……はぁ」
「なーにガッカリしてんだよ、キィ? 言わなきゃわかんねぇだろ」
「……お前の乙女心を理解できない頭にガッカリしてんだよ」
「フッ、乙女とか言うんならその口調を直すんだな」
「直したところでヤラランにはガッカリだけどな」
「なっ……」
「鈍感なところとか直してから出直すんだな」
「……そうかよ」
ガッカリ。
この一言を言われただけで俺の言葉は随分と重くなった。
まさか、キィにそんな言葉を使われるとは……。
「……ちょっと、トイレ行ってくる」
「……お、おう」
「……大丈夫ですか、ヤララン?」
「大丈夫だよ……はぁ……」
うなじを伸ばして項垂れ、扉を開けて退室する。
腕をだらりと下げてとぼとぼと廊下を歩いた。
なんだろうな、フォルシーナに言われるガッカリとキィに言われるガッカリでは天と地の差があるな。
「なんだよなんだよ、乙女心って……男の俺にわかるかよ……。大体、俺が乙女心を理解できなくてなんの不利益があるんだ。そもそも乙女ってなんだ?乙女、若い女?若い女の心?俺はそもそも男だ、知らん……あれだ、フォルシーナに性別を変える――」
「……あのー、ヤララン?」
後ろから声を掛けられる。
チラリと後ろを見れば、フォルシーナだけ廊下に出てきていた。
「はぁ……。……なんだ、付いてきたのか」
「そりゃあ心配ですもの。どうしたんですか? そんなにキィちゃんにガッカリって言われたのが辛いんですか?」
「……お前よぅ、俺はキィと仲良くしたいんだ。……わかるだろ?」
「それは、まぁ……」
「俺にとって1、2を争う大切な存在だ。なのに、なのに……ガッカリ……。もうダメだ、出直してくる……」
「いやいやいやいや、待ってくださいよっ。それと、1、2を争うもう一つはなんですかっ」
ガシッと左腕をフォルシーナの華奢な両腕に絡め取られる。
もう一つ?もう5年の付き合いになる奴のことだが、面と向かっては流石に言えん。
まぁそれは良いとして、
「離せよ……俺は乙女心を理解しに行く……」
「いやいや、同じく乙女の私に聞いてくださいよっ」
「お前も乙女だったな! その手があったか!」
「今気付いたんですか!?」
「あぁ、うん」
「……私って、女として見られてなかったんですかね……」
身を翻して、彼女の手を両手で掴む。
なんだ、その哀愁漂う顔は。
「……まぁいいでしょう。乙女のなんたるかを少しだけ伝授して差し上げます」
「頼むぜ!」
意気揚々と返事を返す。
ん?なんか話が凄い方向に向かってるが、まぁ細かいことは気にしない。
乙女を知るぞ――!
一応、指示や質問の応対はしても、それ以上のことはない。
緑魔法で作物を作り、黒魔法】では舗装、【青魔法】では水の貯蔵や水路作り、などなど……。
特に目新しいこともなく、出発の頃合いを見ていた。
だが、一先ず俺は1つの懸念を晴らしたかった。
それは何かと言えば――。
「邪魔するぜ!」
俺は勢い良く扉を押し開ける。
室内に居た2人の人物が机から顔を上げ、こちらを向く。
「あれ、ヤラランじゃないですか」
「久しぶりだな、ヤララン」
「キィ、そんな久しぶりっつー程でもねぇだろ」
元は街の役所だった場所だろうか、そこの執務室には金髪と銀髪――キィとフォルシーナがいた。
そう、俺は単騎で街まで戻ってきたのだ。
「キィ、調子はどうだ? 上手くいってるか?」
「あん? 心配されるまでもねぇよ。私だってやるときはやるっての」
「って言ってるが、フォルシーナから見てどうよ?」
「悪くないですよ。貴方みたいに堂々としてて、良い感じです。いやぁ、まさにヤラランの娘みたいですね。親を見て育ったような? そんな成長過程が見受けられますよ」
「俺の子じゃねーよ……」
若干冗談混じりに言うところを見ると、本当に上手くやっているようだ。
あー良かった……。
キィが精神的に窶れてたりしたらどうしようかと……。
「そもそもヤラランは子供の出来方も知りませんしね。なんでしたっけ? 3年ぐらい前、子供は男と女がキスしたらできるからキスはダメ! みたいな事言ってたような……」
「憶えてねーよ。でも、そうなんじゃねーの?」
「……フッ」
「なんだよその小馬鹿にするような失笑は」
「いえ……なんでもないですよ……?」
「……ったく、赤ん坊の出来方なんぞどうでもいいわ。俺には関係ねーし」
どうせ俺はこの先長くない。
10年も生きないんじゃないかと思っている。
子孫とか、残さねぇよ。
「……恋人や子供ぐらい作ってはどうなんですか? ヤラランももう、17でしょう?」
「嫌だよ、死にたくなくなるだろ。それに、恋愛なんてガラじゃねーよ」
「フッ、そんな事を言えるのも今のうちです。これから先、若さを失い、仲間にも続々と恋人ができる中、自分だけは1人……。寂しさを紛らわそうにも、仲間の女性は皆結婚している、もはや頼りになるのは東大陸の商会にいる同僚達……しかし、おじさんの自分を好きになる人もなく、時間だけが過ぎ去り益々老けてゆく……」
「本当にそんな運命辿ったら、さすがの俺でもお前のこと殺すからな?」
「えぇ、これは恨まれてもしょうがないですねっ」
クスクス笑いながら人の人生を妄想するフォルシーナ。
それを横目に頬杖を着いているキィ。
ここは今日も平和だな。
「ま、俺は良いんだよ。お前らは気になる男とか居ないわけ?」
「…………」
「…………」
「……なんだよ、その目は?」
『……別に』
薄目で睨まれた。
居ないっつーか、俺が振り回してるから男作る暇もないか?
それはすまんな。
「……なぁ、フォル。ヤラランって昔っからこんななの?」
「……そうですねぇ。昔からですよ?」
「……はぁ」
「なーにガッカリしてんだよ、キィ? 言わなきゃわかんねぇだろ」
「……お前の乙女心を理解できない頭にガッカリしてんだよ」
「フッ、乙女とか言うんならその口調を直すんだな」
「直したところでヤラランにはガッカリだけどな」
「なっ……」
「鈍感なところとか直してから出直すんだな」
「……そうかよ」
ガッカリ。
この一言を言われただけで俺の言葉は随分と重くなった。
まさか、キィにそんな言葉を使われるとは……。
「……ちょっと、トイレ行ってくる」
「……お、おう」
「……大丈夫ですか、ヤララン?」
「大丈夫だよ……はぁ……」
うなじを伸ばして項垂れ、扉を開けて退室する。
腕をだらりと下げてとぼとぼと廊下を歩いた。
なんだろうな、フォルシーナに言われるガッカリとキィに言われるガッカリでは天と地の差があるな。
「なんだよなんだよ、乙女心って……男の俺にわかるかよ……。大体、俺が乙女心を理解できなくてなんの不利益があるんだ。そもそも乙女ってなんだ?乙女、若い女?若い女の心?俺はそもそも男だ、知らん……あれだ、フォルシーナに性別を変える――」
「……あのー、ヤララン?」
後ろから声を掛けられる。
チラリと後ろを見れば、フォルシーナだけ廊下に出てきていた。
「はぁ……。……なんだ、付いてきたのか」
「そりゃあ心配ですもの。どうしたんですか? そんなにキィちゃんにガッカリって言われたのが辛いんですか?」
「……お前よぅ、俺はキィと仲良くしたいんだ。……わかるだろ?」
「それは、まぁ……」
「俺にとって1、2を争う大切な存在だ。なのに、なのに……ガッカリ……。もうダメだ、出直してくる……」
「いやいやいやいや、待ってくださいよっ。それと、1、2を争うもう一つはなんですかっ」
ガシッと左腕をフォルシーナの華奢な両腕に絡め取られる。
もう一つ?もう5年の付き合いになる奴のことだが、面と向かっては流石に言えん。
まぁそれは良いとして、
「離せよ……俺は乙女心を理解しに行く……」
「いやいや、同じく乙女の私に聞いてくださいよっ」
「お前も乙女だったな! その手があったか!」
「今気付いたんですか!?」
「あぁ、うん」
「……私って、女として見られてなかったんですかね……」
身を翻して、彼女の手を両手で掴む。
なんだ、その哀愁漂う顔は。
「……まぁいいでしょう。乙女のなんたるかを少しだけ伝授して差し上げます」
「頼むぜ!」
意気揚々と返事を返す。
ん?なんか話が凄い方向に向かってるが、まぁ細かいことは気にしない。
乙女を知るぞ――!
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