連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/87/:その頃・後編
海沿いより大分離れた大陸東側の村跡、旧エリト村。
大分使われていない建物が多く、埃っぽいところも多いが、建物に倒壊したものは一つもなく、ポツポツと建った建物は
傷跡一つない。
土は渇いていて道を歩けば少しばかりの砂埃が立つ。
それを嫌ってか道を歩く者はなく、静かだった。
しかし、それは外だけの話である。
「メリスタスくんっ! 今の話、面白かったよっ!」
「別の話、また聞かせてくれるっ!?」
「えっ……あ、はい、まぁ……」
いつも隠れていた地下の小部屋で、僕とヤラランくんが連れてきた5人のうちの2人の女性に本で読んだお話を聞かせていた。
この2人だけは何故かよくせがんでくる。
他に来てくれた3人の男の人は、多分動物のお世話とか見張りとかしてくれてると思うから僕も行きたいんだけど、一度2人のどちらかに捕まると中々返してくれない……。
「ちょっと困り顔のメリスタスくん可愛ぃ〜っ! ぎゅってしていいっ!? ぎゅって!」
「いや、それはちょっと……」
「ぎゅーっ!」
「…………」
「あ、じゃあ私も!ぎゅーっ!」
「……うぅ」
左右から抱き着かれる。
まだ14歳だし、ちっちゃな僕は2人よりも背が低くて、抱き着かれると胸が頭に当たるんですけど……。
「ほっほ、人気者ですな」
いつの間にか現れたナルーがニコニコ笑って呑気に言う。
に、人気者?
うぅ、こんななら人気者じゃなくていいよ……。
「……ナルー、助けてよぉ〜」
「仲がよろしいのは良い事です。坊っちゃま、どうぞごゆるりとお過ごしください」
「そんな〜……」
6本足の牛に助けを請うもあしらわれてしまう。
最近ずっとこんな生活だよぉ……。
ヤラランくん、遊びに来ないかなぁ……。
いつか来てくれた少年に想いを馳せながらも、今日も旧エリト村では緩やかに時間が過ぎてゆくのだった。
早くも日は沈み、緩やかに夜が訪れる。
青い空を閉める黒のカーテンが街から光を奪い、松明や白魔法の光が道を照らしている。
長に任命された私はいろいろと指示を出し、質問にはわかる範囲で答え、仕事ぶりを視察したりと、普段あまり働かない私にしてはよくやったと思う。
不思議と疲れはなかった。
歩き回り、口を動かし、1日を終えたのに疲れがない。
それも当然だろう、疲れるならヤラランはもうとっくに屍になっている。
信頼も少しばかり集まった、初日にしては上々。
私はなんとかやっていけそうだった。
例え、今まで一緒だった仲間がいなくとも……。
「……つらっ」
私らしくもない考え事は、その一言で吹き飛んだ。
5人で使うには狭く感じた一軒家では、今や私がいるだけ。
1人でテーブルについて自分で作った料理を食べる。
役割を果たせても、寂しさが辛いのは変わりないらしい。
「……はぁ……」
テーブルに顎肘をつく。
食事中にこんな態度をすれば、ヤラランが「おっさんかテメェは!」とツッコミを入れてくるが最早そんなこともない。
どうせまた、会いに来てくれる。
そうはわかってても、今の寂しさが消えるわけじゃない。
「……あぁー、ダメダメ! 任されたんだから、私がしっかりしねーと……」
自分の頬を平手でべしべし叩き、気合いを入れる。
うん、私は仮にも町長だ、弱い所を見せるわけにはいかない。
「よしっ。とっとと食って、明日の事を考えよう!やれ、私!」
言って、皿を持ち上げてガツガツと料理を口に流し込む。
咀嚼もせずにゴクリと飲み込んで洗い物をしようと立ち上がる。
ドン、ドン――。
「ん?」
と、その時ドアノッカーを叩く音があった。
丁寧に2回、この上品さはミュラリルだろうか?
ここに残ってるはずなのに勝手に消えて今戻ってきたのかはわからないが、とりあえず出よう。
私はギシギシいう床を踏みながら玄関へ向かう。
ドン、ドドドン、ドドーン、ドドドドドドン――。
「うるせぇよ! 誰だ!」
何故かリズムを刻み始めるノックの音に痺れを切らし、夜へ向かって戸を押し開けた。
「フ、私の巧みなリズムに耳を喜ばせるだなんて……流石はキィちゃん! 抱きしめていいですか!?」
「…………」
扉の向こうには、残念な銀髪頭がいた。
戻って来てくれたのかは知らんが、なんだろう。
コイツが戻ってきても、1ミリも寂しさは拭えねぇ……。
「……何しに来やがった、変態」
「ヤラランがカララルといちゃいちゃしてたので、帰って来ちゃいました」
「…………」
いちゃいちゃしてる、ねぇ……。
どうせいつも通りヤラランが抱き着かれてるだけだろ?
今更気にすることでもあるまい。
「キィちゃん、寂しくなかったですか? 大丈夫ですか? とても心配しましたよ?」
「主な理由言った後で心配とか言われても、付け足し程度にしか聞こえねぇよ」
「そんなっ!? 私のキィちゃんへの想いは天を開く程だというのに……」
「本当かよ……」
「信用してくださいよぉ〜っ」
「むぐっ!?」
不意に抱き着かれる。
フォルの胸の高さに私の顔があって、そのデカイ二つのものに埋められる。
なんでコイツ無駄に胸でけーんだよ!
「あぁもう、苦しいから!」
突き飛ばすと、彼女は少しよろめきつつも物腰の柔らかな仕草で立ち竦み、自身の頰に手を当てた。
「いやん、そんなに照れなくてもよろしいのに……」
「幸せな脳みそしてんな、ほんと……」
「フッ……」
「誇ってんじゃねぇ!」
「ひぃぃい!」
ベシンッと頭を叩く。
はぁ、本当になんでコイツが戻ってきたんだよ……。
できれば……ヤラランが戻ってくれば良かったのに。
「……まぁ、ともあれ、私はここに居ますよ」
「じゃあフォルが指揮んのか ?私の覚悟返せよ……」
「いえいえ、私としてもキィちゃんには成長して頂きたいのですよ。間違いがあれば幾らでも指摘しますから、私は貴女に従いますよ」
「……はーん」
成長して欲しい。
何の為にかはよく分かっている。
私がやりゃあいいんだろ……。
だったらやってやるよ。
「だったらたっぷりこき使ってやる。私に従えよ、フォル!」
「……。はい。善意に誓って従いましょう」
「別に誓わんでもいいっての。ま、中入ろうぜ? まだ夜風がさみーよ」
「はい……」
そう言って、私は踵を返した。
フォルが帰ってきたのは予想外だったが、心強い味方だろう。
これから頑張っていく勇気が、胸に溢れた。
「――矢張り、貴女は彼に似ている……」
フォルの漏らしたその声は、私には届かなかった。
大分使われていない建物が多く、埃っぽいところも多いが、建物に倒壊したものは一つもなく、ポツポツと建った建物は
傷跡一つない。
土は渇いていて道を歩けば少しばかりの砂埃が立つ。
それを嫌ってか道を歩く者はなく、静かだった。
しかし、それは外だけの話である。
「メリスタスくんっ! 今の話、面白かったよっ!」
「別の話、また聞かせてくれるっ!?」
「えっ……あ、はい、まぁ……」
いつも隠れていた地下の小部屋で、僕とヤラランくんが連れてきた5人のうちの2人の女性に本で読んだお話を聞かせていた。
この2人だけは何故かよくせがんでくる。
他に来てくれた3人の男の人は、多分動物のお世話とか見張りとかしてくれてると思うから僕も行きたいんだけど、一度2人のどちらかに捕まると中々返してくれない……。
「ちょっと困り顔のメリスタスくん可愛ぃ〜っ! ぎゅってしていいっ!? ぎゅって!」
「いや、それはちょっと……」
「ぎゅーっ!」
「…………」
「あ、じゃあ私も!ぎゅーっ!」
「……うぅ」
左右から抱き着かれる。
まだ14歳だし、ちっちゃな僕は2人よりも背が低くて、抱き着かれると胸が頭に当たるんですけど……。
「ほっほ、人気者ですな」
いつの間にか現れたナルーがニコニコ笑って呑気に言う。
に、人気者?
うぅ、こんななら人気者じゃなくていいよ……。
「……ナルー、助けてよぉ〜」
「仲がよろしいのは良い事です。坊っちゃま、どうぞごゆるりとお過ごしください」
「そんな〜……」
6本足の牛に助けを請うもあしらわれてしまう。
最近ずっとこんな生活だよぉ……。
ヤラランくん、遊びに来ないかなぁ……。
いつか来てくれた少年に想いを馳せながらも、今日も旧エリト村では緩やかに時間が過ぎてゆくのだった。
早くも日は沈み、緩やかに夜が訪れる。
青い空を閉める黒のカーテンが街から光を奪い、松明や白魔法の光が道を照らしている。
長に任命された私はいろいろと指示を出し、質問にはわかる範囲で答え、仕事ぶりを視察したりと、普段あまり働かない私にしてはよくやったと思う。
不思議と疲れはなかった。
歩き回り、口を動かし、1日を終えたのに疲れがない。
それも当然だろう、疲れるならヤラランはもうとっくに屍になっている。
信頼も少しばかり集まった、初日にしては上々。
私はなんとかやっていけそうだった。
例え、今まで一緒だった仲間がいなくとも……。
「……つらっ」
私らしくもない考え事は、その一言で吹き飛んだ。
5人で使うには狭く感じた一軒家では、今や私がいるだけ。
1人でテーブルについて自分で作った料理を食べる。
役割を果たせても、寂しさが辛いのは変わりないらしい。
「……はぁ……」
テーブルに顎肘をつく。
食事中にこんな態度をすれば、ヤラランが「おっさんかテメェは!」とツッコミを入れてくるが最早そんなこともない。
どうせまた、会いに来てくれる。
そうはわかってても、今の寂しさが消えるわけじゃない。
「……あぁー、ダメダメ! 任されたんだから、私がしっかりしねーと……」
自分の頬を平手でべしべし叩き、気合いを入れる。
うん、私は仮にも町長だ、弱い所を見せるわけにはいかない。
「よしっ。とっとと食って、明日の事を考えよう!やれ、私!」
言って、皿を持ち上げてガツガツと料理を口に流し込む。
咀嚼もせずにゴクリと飲み込んで洗い物をしようと立ち上がる。
ドン、ドン――。
「ん?」
と、その時ドアノッカーを叩く音があった。
丁寧に2回、この上品さはミュラリルだろうか?
ここに残ってるはずなのに勝手に消えて今戻ってきたのかはわからないが、とりあえず出よう。
私はギシギシいう床を踏みながら玄関へ向かう。
ドン、ドドドン、ドドーン、ドドドドドドン――。
「うるせぇよ! 誰だ!」
何故かリズムを刻み始めるノックの音に痺れを切らし、夜へ向かって戸を押し開けた。
「フ、私の巧みなリズムに耳を喜ばせるだなんて……流石はキィちゃん! 抱きしめていいですか!?」
「…………」
扉の向こうには、残念な銀髪頭がいた。
戻って来てくれたのかは知らんが、なんだろう。
コイツが戻ってきても、1ミリも寂しさは拭えねぇ……。
「……何しに来やがった、変態」
「ヤラランがカララルといちゃいちゃしてたので、帰って来ちゃいました」
「…………」
いちゃいちゃしてる、ねぇ……。
どうせいつも通りヤラランが抱き着かれてるだけだろ?
今更気にすることでもあるまい。
「キィちゃん、寂しくなかったですか? 大丈夫ですか? とても心配しましたよ?」
「主な理由言った後で心配とか言われても、付け足し程度にしか聞こえねぇよ」
「そんなっ!? 私のキィちゃんへの想いは天を開く程だというのに……」
「本当かよ……」
「信用してくださいよぉ〜っ」
「むぐっ!?」
不意に抱き着かれる。
フォルの胸の高さに私の顔があって、そのデカイ二つのものに埋められる。
なんでコイツ無駄に胸でけーんだよ!
「あぁもう、苦しいから!」
突き飛ばすと、彼女は少しよろめきつつも物腰の柔らかな仕草で立ち竦み、自身の頰に手を当てた。
「いやん、そんなに照れなくてもよろしいのに……」
「幸せな脳みそしてんな、ほんと……」
「フッ……」
「誇ってんじゃねぇ!」
「ひぃぃい!」
ベシンッと頭を叩く。
はぁ、本当になんでコイツが戻ってきたんだよ……。
できれば……ヤラランが戻ってくれば良かったのに。
「……まぁ、ともあれ、私はここに居ますよ」
「じゃあフォルが指揮んのか ?私の覚悟返せよ……」
「いえいえ、私としてもキィちゃんには成長して頂きたいのですよ。間違いがあれば幾らでも指摘しますから、私は貴女に従いますよ」
「……はーん」
成長して欲しい。
何の為にかはよく分かっている。
私がやりゃあいいんだろ……。
だったらやってやるよ。
「だったらたっぷりこき使ってやる。私に従えよ、フォル!」
「……。はい。善意に誓って従いましょう」
「別に誓わんでもいいっての。ま、中入ろうぜ? まだ夜風がさみーよ」
「はい……」
そう言って、私は踵を返した。
フォルが帰ってきたのは予想外だったが、心強い味方だろう。
これから頑張っていく勇気が、胸に溢れた。
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