連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/85/:同行者

 鳥の囀りも、虫の鳴く声すらしない森の中、俺とフォルシーナ、カララルだけの足音が聞こえる。
 照りつける日差しは花や青葉を輝かせ、舞い散る花びらさえ綺麗で足さえ止めたい。
 それでもゆっくりと、この辺りでは珍しく開いている地面を歩いていく。

「……良かったんですか?キィちゃんを置いてきて」
「……あん?」

 俺の足を止めたのは、フォルシーナの問いだった。
 俺が止まれば全員が足を止め、顔を見合わせる。

「……ヤラランにとって、キィちゃんはかなり大切な人でしょう?」
「なんで知ってるのかは知らんが、その通りだよ。勿論、1人にしたくないってのはあるさ」
「……だったら、尚更――」
「この旅で、アイツには成長して欲しいんだ。だいぶ前に言った、女王になって欲しいって話の事もそう。仲間としても、な……」
「……確かに、キィちゃんは血筋で考えるなら女王になれてもおかしくないです。ですが……」
「不安か?」
「…………」

 フォルシーナは口と目を閉ざし、静かに頷いた。
 彼女にとっても、キィは家族みたいな、大切な存在なんだろう。
 大分長い間一緒に居た。
 半年以上一緒にいた仲間といえば、商会でも俺以外ではただ1人だけ。
 髪を弄ったりと可愛くしてあげようとしてたりするし、妹みたいに可愛がってるのだろう。
 急に切り離されるのは困ったに違いない。

「不安なら、お前も向こうに居ても良いぞ?」
「……むぅ」
「そんな顔するなよ……つーか、俺が居ればこっちは大丈夫だ。お前の方が頭良いし、自分で考えて動いてくれて構わねぇよ。もちろんっ、私情も踏まえてな。嫌なことはやんなくていいぜ?」
「……キィちゃんには無理やり就かせた癖に」
「たまには厳しく、なっ」

 甘やかしてきた、とも言えないが、これからは少しずつ何かに挑戦させていきたい。
 成長してくれれば、俺より凄い良い奴になるかもしれないから。
 若しくは、俺と並べるだけの指導者になれれば、それだけで十分だ。

「フォル様は戻られても結構ですよっ」

 と、カララルも進言する。
 言いながら俺の腕に抱きついてきた。

「そしたら、私は明主様とイチャイチャしますからっ」
「しねーよっ! 離れろこの野郎!」
「嫌ですー! 歩き疲れましたおんぶしてください、しくはだっこ――っ!!」
「まだちっとも歩いてねぇだろーがっ! 歩けっ!」
「いやーんっ! 明主様ぁあ〜!」

 ジタバタするカララルを押し飛ばし、無色魔法で宙に浮かせる。
 膨れっ面で反抗を示す彼女を、俺はあえて無視した。

「……えぇ、そうですね。私はお邪魔ですよね、えぇ」

 どこか凄んだフォルシーナの声が耳に入る。
 なんだ、怒ってる?

「……もうっ、勝手にしてくださいっ! 私はキィちゃんとイチャイチャしてますからっ! ふんっ!」
「……お、おう……」
「……ありゃりゃ」
「ありゃりゃ、じゃねーよ。お前のせいだからっ」
「むーっ……」

 フォルシーナはズカズカ歩いて来た道を戻っていった。
 怒った要素はよくわからんが、戻るなら戻るで良いだろう。
 別に困ることはないし、な。

「……はぁ。仲違いだけはやめてくれよ?」
「え、明主様。なんでフォル様が怒ったのかわかってないので?」
「わかるわけねぇだろ……ほら、降ろしてやるから、行くぞ」
「……あ、はいっ」

 無色魔法を解除し、カララルを地面の上に降ろす。
 足先から降り立った彼女は程なくして、俺に続いて歩みを再開した。

「……明主様、朴念仁なんだなぁ……」

 ……なんて言ったのか、聞き流すことにした。

「ちょっとお待ちくださいっ!」
『!?』

 空から突如聞こえた歩みを止める知人の声。
 俺とカララルはピタリと足を止め、声の主が現れるのを待った。
 空から俺たちの前にゆっくりと降りてきたのはミュラリルだった。
 戦った時に持っていた杖を抱え、綺麗な動作で一礼する。

「よぉ。わざわざ追って来るなんて、街でなんかあったのか?」
「い、いえっ。街はなんともありませんわ……。私用で参ったのです」
「私用?」

 ミュラリルはこくりと頷く。
 なんだろうか?

「はい……あの……もしよろしければなのですけど……」
「おう……」
「……わたくしも同行させては頂けませんでしょうか?」
「……ふむ」

 しどろもどろになりながら、気丈に頼んでくる。
 別に俺としては戦力が増える分に文句はない。

「カララル、お前はどう思う?」
「明主様とのラフラブトリップを邪魔するなんて断じて許せません!」
「よし、ミュラリル、付いて来い。そしてこの馬鹿を監視しててくれ」
「明主様ぁぁぁあああ!!?」

 カララルの馬鹿な発言を無視して許可を出す。
 なにが、ラフラブトリップだ。
 身の回りが目的すら忘れてそうな奴だけだと、俺が辛い。

「で、では、御一緒させて頂きますわっ……」
「それは良いけど、どうして来ようと思ったんだよ? 街にいる方が安全だぜ?」
「……一緒にいろって、言ってくださったではないですか……」
「……あー……」

 顔を赤らめながら、彼女は言う。
 確かに船でそんな事言ったが、“俺と”ってわけじゃないんだよな……。
 けれど、ミュラリルがミュラルルのように強いなら、いざという時に頼もしい。

「そうだな、助かるよ」
「フフッ、ありがとうございます」

 和かに彼女は笑う。
 なんとも優しげな笑顔で、同行して絶対損は無いなと感じられた。

「明主様のバカァァァアアア――!!!」
「いでっ!?」

 突如カララルに頭をブン殴られ、そのまま彼女は森の先へと走り去って行った。
 俺が一体何をしたんだ……。

「……ヤラランさん、朴念仁ですのね……」
「…………」

 本日2回目のお言葉。
 俺はこれも、あえて無視したのだった。

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