連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/78/:アカルバーグ兄妹

 街の中心地の事務所には俺ともう2人いた。
 貴族出身のセイニス、セラユルだ。
 折角再開したというのになかなか話す機会もないから招いた……訳ではない。
 貴族として、何かアイデアを聞きたかった。
 それと――

「お前ら、なんでこんなとこに居るんだよ?」

 ここにいる理由を、どうしても聞いておかなくてはならなかった。
 ミュラルル、ミュラリスの話を聞いてコイツらが悪意肥やしにされた可能性があったから。
 俺としては可能性は低いと考えていた。
 セイニスもセラユルも、魔法が強いわけではない。
 魔法学校に行く〜、みたいな事を昔に聞いたが、その程度で強くなるものか。
 そもそもミュラルルが此処にいたのだから、おかしいのだ。
 けれど――もし、2人が遠隔投射で監視されてるなら――。
 俺の存在が、フラクリスラルにバレてしまう――。
 だからこそ、俺は改めて2人に尋ねた。

 白のテーブル越しに居る2人は少し気まずそうにしながら、2人で目配せしていた。
 日の差し込みの悪い部屋の中だからか彼らにあたりの強い尋問をしてしまっているように感じる。
 だが、答えてもらわなければならないからこれでいい――。

「……セイニス。そんなに言いにくいことなのか?」
「…………」
「……セラユル、なんか言えよ」
「…………」
「…………」

 眉をハの字にして黙りを続けていた。
 どうにも怪しい。
 俺の予測は、的中したのだろうか……?

「――単刀直入に言うぞ?お前ら、フラクリスラルの王かなんかに「西大陸で悪さをして来い」と言われて来たのか?」
「……え?」
「ち、違います。祖国がそんな事言うはずがありませんっ」

 妹は動揺し、兄は慌てて否定した。
 さらに怪しさは増すが……。

「本当か?悪い嘘を吐く奴は友達じゃねぇぞ?」
「嘘なんかじゃないです! 我が国はそんな事をしていらっしゃるのですか!?」

 セイニスが勢いよく立ち上がり、食いかかって来た。
 ……ふむ。

「……してる。が、そうして此処に来たフラクリスラルの奴とはまだ会ってないし、実情は知らん。けど、フラクリスラルは西大陸をこんな惨状にしてるのは努努ゆめゆめ忘れるなよ?」
「身を通じて理解しております。よもやフラクリスラルが、こんなことをしているなんて……」
「私達、今でも信じられませんわ……」
「…………」

 2人の顔色は一気に悪くなった。
 平和な国だから悪いことなんてしていないと思いたかったんだろう。
 この反応の仕方、嘘じゃあねぇよな……?
 ……怪しい面も多いが友達だし、信じるとしよう。

「お前らが思ってるよりフラクリスラルは悪い所、って訳だ。まぁ、お前らが国の命で来てないならいいよ。言いたくないならここにいる理由は言わんでいい」
「は、はい……」
「しょうもない理由ですので、どうか訊かないでくださいまし……」
「しょうもないだぁ……? よくわからんが、訊かねぇでおくよ」

 しょうもないから話さなかっただけかと意気消沈する。
 いらぬ心配だったようだ。
 話が途切れ、一度俺は深く椅子に座った。
 全体重を預けると椅子はミシミシと軋んだ音を出す。
 物も、ここにあるのはかなり古いな。
 新調するなら緑魔法で椅子を製造しまくればいいが、まだ先のことになりそうだ。

「で、花見ついでに何やるかなんだが……なんか意見ある?」
「一発芸大会とかどうでしょうか?」
「普通過ぎじゃね? なんかひねろうぜ」
「は、はい……」

 俺の指摘を受け、セイニスは椅子に座りなおした。
 もう身分は捨てたし、そんなに畏まらなくてもいいのにな。

「魔法を使った一発芸の大会にしてはいかがでしょうか?」
「フォルシーナが圧勝するからそれだけは勘弁してくれ」

 セラユルの意見も却下する。
 というか多色使える奴が有利だろ。
 フェアな方法で行きたい……というか一発芸から離れようぜ?

「……ん? フォルシーナ……フォルシーナというと、フォルシーナ・チュリケットですか?」
「お? 知ってたか、セイニス」
「はい……7色の魔法を使える才能を持ちながらも引きこもっていたという伯爵家の御子息……」
「そそ、そんな感じだよ」

 俺の思うような評価とセイニスの人物像はほぼ一致していた。
 昔は大層な引きこもりだったらしいが、今じゃ外ほっつき歩いてるし、数年前とかは商売人として生きてたからな。
 蓋を開けてみればおっかなびっくり、とでも言うのかねぇ。

「そういえば、私達がここに来る前に聞いたことがありますわ。ヤララン・シュテルロード様が引きこもりの伯爵娘を連れ回していると……」
「大体合ってるぜ。いやぁ、昔は色々あったからねぇ……」

 最初のうちは勝手に付いてきてたんだが、後から段々とパートナーらしくなっていったな。
 世間知らずな俺たちだったが、フォルシーナのおかげでいくらも救われたもんだ。

「でもなぁ〜、昔は少しツーンとしてるところがあって真面目でな、可愛げもあったもんなんだよ。今はダメだな、ネタに走り過ぎだ」
「へぇ……そうなのですか」
「俗世に触れて外見も気にしだしてさ、商談には大事!とか言ってた癖にぜってー私欲入ってんだろっつーな? 呆れる点も多いが、頼れる奴だ。銀髪でピンクの着物着てっから、見かけたら挨拶ぐらいしとけよ?」
「はいっ」
「フフッ、わかりましたわ」
「……なんだよセラユル? 可笑しかったか?」
「ええ。だってヤララン様が惚気のろけるなんて、思いもよらなかったんですもの」
「……。……はい?」

 惚気る……だと?
 俺が?

「……いやいや、昔を懐かしんだだけだよ。アイツとは一番長い付き合いなんだからな」
「フフッ、そういうことにしておきます」
「……あーもう、なんでもいいよ。ほら、無駄話もそろそろ止めてイベントの内容決めんぞ」
『はい』

 2人は声を揃えて返事を返した。

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