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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/68/:尋問・後編

「フラクリスラルってどんな所?」

 ミュラルルの2つ目の質問。
 それは先ほどと打って変わって穏やかな口調で、にこやかに笑いながら尋ねられた。

「……そんなこと、訊くのか?」
「もう君、俺が知りたい情報知ってなさそうだもの。あ、君は女たくさん連れてたよね? 本命は誰? とか訊いた方が良かった?」
「あいつらとはそういう仲じゃねーよっ! あーはいはい、その質問で構わねぇよ」

 質問を変えられる前に、俺はその場に座ってフラクリスラルにいた時の事を思い出す。

「そうだな……楽しいところなのは間違いないぜ? どの店に行っても毎日変な演奏ばっかしててさ、みやこは特にそれが顕著だ。食いもんも、たまに不味いものをわざと売ってる場所もあるけど、基本的には美味いし。名所はアレだな、“星峡谷”。行商してる時に見たんだが、真っ暗な谷に光る鉱石がほんとに星に見えてさ、夜空の再現っつーのはあながち嘘でもない」
「急に多弁になるんだね、君……」
「そうか?」

 悪い思い出がほとんどなかったし、基本的には楽しかったから口が回るのも不思議ではないだろう。
 悪い国じゃあ、ないからな……。

「でも、よくわかったよ。楽しそうな所なんだね」
「あぁ。遊びに困ることはないからな」
「平和、なんだね……」
「…………」

 平和、現状これほどの皮肉な言葉はないだろう。

「俺の国も、平和だったよ」

 だが、彼は皮肉に平和と言ったのではないようだった。
 自分で、自国が平和だったと言うのだから。

「へぇ? アルトリーユだっけ?」
「そうさ。南大陸の北西部にある小さな国だったけど、平和と言えば平和だった。飢えもないし、いさかいもそうそう起きない。遊ぶようなことは少なかったけどね」
「お前、一応王子なんだろ? 遊ぶなよ」
「王子でも末子なんて、国からすればどうでもいいのさ。ま、魔法は俺が一番優れてるんだけどね」
「へ〜」
「君に持ってかれちゃった剣あるだろう? あれさ、うちの国宝で“ネムハイルの剣”って言うんだ。国から蹴られる際に持たされたんだけど、使い手を選ぶんだよ? 一応、王家の剣だからね」

 ふふんと自慢げに鼻を鳴らすミュラルル。
 なんか人名っぽい名前付いた剣だな。
 初代王とかが使ったのかね。

「ただ、国債がいくつかあったようでね。やっぱり小国は辛いな〜、ってやつ?平和の裏の影だねぇ〜」
「国債ねぇ〜……つーかお前も政治とか参加してんじゃねぇか」
「耳にしてただけだよ。ほらっ、無色魔法は音も作用するだろう?傍聴、好きなんだよね」
「うわっ、嫌な趣味持ってんな……」
「悪人に向かって何言ってるのさ。嫌な事が好きに決まってるだろう?フハッ」
「あーあーそーかい……」

 良い性格してんなコイツ。
 悪人という前提だから悪い事してもいいってのは理にかなっちゃいるが、よくねぇだろ。
 というか、

「お前、結構普通に話しとかするんだな」
「うん? 意外?」
「ああ、意外だよ」

 質問に答えてやると、ミュラルルはニコリと笑った。

「そりゃあそうさ。普通の話をするのなんて5年振り? 4年振り? どっちだっけ? 覚えてないや。とにかく話してないし、話せる時に話したいよね」
「だったら俺の仲間になりやがれ。話したいだけ相手してやるぞ?」
「…………」

 ミュラルルの目が点になった。
 それから少しニヤニヤして、流し目に言葉を紡ぐ。

「へぇ〜。そっかそっか、君は俺がどれだけ恨まれてるか知らないもんね」
「ああ、知らん。それに過去のことより今後のことを聞いてるんだ」
「俺が例え首を縦に振ったとしても、君の仲間としてやっていくには無理があるよ? どうせ暗殺されそうだし? これでも数千人は殺してるしね〜、恨まれまくりだよ〜……」
「殺さないのが第一の約束なんだよ。お前がこの街の再興手伝ってくれれば力になると思ってんだ。みんなも見直すかもしれない。協力しろ」
「最終的には命令なんだ……。強引なのは嫌いじゃないけど……う〜ん、国の命令で動いてるからね〜」

 眉を寄せて口の端を吊り下げて不機嫌そうに言って首を傾げる。
 なんだよ、国って。

「人を悪人にして、人を殺させるような国が、お前はそんなにいいのか?」
「…………」
「よく従事してられるよ。その点は感心する。きっと王子だから責任感じてるんだろうなと思うぜ」
「フフフッ……なに? 説教?」
「俺でもよくわかんねぇよ。ただ感情を発散して喋ってるだけだ」
「そうかい……」

 呆れるように彼は言った。

「ただね、君がなんと言おうが、俺は仲間にはなれないよ。この10年余りを無意味にするのだけは嫌だからね」
「だったらここでずっと縛られてるんだな。悪いことするからここから出してくださいって言われても俺は出してやれねぇよ」
「いいよ。俺が死ぬまでは、どうぞご自由に……」
「……別に、終身刑を言い渡したいんじゃねぇっつの」
「ん?……アハッ、そっかそっか。……まぁ、1つだけ忠告しておくよ。俺の死体は埋めるか燃やすか、どっちでもいいけどしっかりやった方がいい。まぁそれが人に対する作法だし、当たり前だけどね?」
「?  あぁ、そうだな」

 何か、含みのある言い方だった。
 なんだ?そのまるで――自分の死を予期しているような――。

「さ、質問も2対2でキリがいいし、今日は喋りすぎて疲れたから帰ってよ」

 俺が疑問を抱いたのを悟ったのか、退室を願われる。
 だが、俺としてはまだ聞きたいことも幾つかあって退室はしたくなかった。

「えー? いいじゃねぇか、もう少しぐらい」
「ダメさ。そういえば俺はトイレ行きたいんだ。解放してよ」
「いや、ダメだから。解放はしないけどトイレは連れてってやるよ」
「ケチだなぁ。そんなんだとモテないよ?」
「モテなくていいし。というかトイレ行きたい割には余裕そうだな」
「嘘だもの」
「は〜っ?」

 騙された。
 こんな小さな嘘をこの状況で吐いてくるなんて思わなんだ。
 まったく、呑気な奴だ……。

「そんなに俺が嫌いならいいし、もう出てってやるよ」
「そうそ、さっさと女でも漁りに行くんだね」
「人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇよ……あーもう。じゃあ、また今度来るから、その時話そうぜ」
「……。歓迎するよ」

 嫌なのか、少し間を置いてから返事を返してきた。
 なんだなんだ、そんな嫌われることしてねぇだろ……。

「じゃ、またな」

 俺はすっくと立ち上がってミュラルルの方から180°ターンし、さっさと建物を出た。
 普通に話せるし良識持ってそうだし、友達になれると思ったがそうでもなさそうだった。

「また明日話しに行って、ぜってー仲間に引き込んでやる」

 自分で自分の宣言をどうかと思いながらも、俺は青空の清らかな外へ出た。










「……バカだなぁ、ほんと」

 薄暗く、あちこち物が散乱した部屋の真ん中。
 1人残された俺はポツリと呟いた。
 監視も置かずに行くなんて、まったく、彼はとんでもない大バカだ。
 バカだから、そんな彼のためにもうしばし捕まっててあげたいけど……もう時間もないだろう。

 俺の位置情報は国に特定されており、遠隔透視形なんらかの魔法で現状も見られているかもしれない。
 いや、実際見られているのだろう。

「名前、なんだっけ……ヤラランか」

 空の中でキィという少女が教えてくれた彼の名前を思い出す。
 きっと彼の元にアルトリーユから刺客が向かうかもしれない。
 そうでなくとも、フラクリスラルが――。
 いや、どうだろう。
 今の世界情勢も飲み込めてない俺にはこれ以上の考察は無理だ。
 ただ、わかることがある。
 それは――

「ごふっ……」

 ぼたぼたと口から血が撒き散らされる。
 心臓に感じる痛みが、苦しい。
 今頃、か。
 もうある程度の事は彼に話してしまったよ……。

 俺はアルトリーユに殺される。
 遠隔的に黄魔法か青魔法かで心臓に干渉してきて殺されるだろう。
 俺の口から情報が漏れないように。
 まったく、さっさと殺せばいいものを、ようやくか……。
 まぁ、ヤラランとの会話までは聞かれてないだろうが、話したと判断したかね……。
 この場所で情報を漏らしたって、大した意味もないんだけどなぁ……うちの国も、守秘には必死ってことか……。

「うっ……ぐっ、あぁ……!」

 食道から血が逆流し、床にぶちまけられる。
 やれやれ、もうあと生きてるのも数十秒、か。
 なんか一言言う時間ぐらいはありそうだ。誰も聞かない遺言。
 だとしても、これが最後の生きる活動だと言うのなら何か言ってみるとしよう。
 別に、死にたくないとか今更言うつもりもない。
 特に言いたいこともないようだ。
 ならば思いつきでいいだろう。

「……王じゃなく、お前なら……世界を変えられるかもね……ヤララン……ぐっ、ウウッ!」

 心臓の痛みと共に身悶え、どさりと椅子ごと体が倒れる。
 その後、起き上がることはなかった。

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