連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/67/:尋問・前編
1日が経過し、俺は各々の面子に指示を出して動物を狩りに行かせたり畑を作らせたり、建物の補修を街の人々に行わせ、俺は1人、ある人物の元へ向かう。
「【光】」
薄暗い室内で白い光球を生み出す。
輝きは部屋全体に光を分け与え、視界を明瞭にした。
と言っても、部屋にあるものは椅子だけ。
無論、人は数人いるが――。
「よう、ミュラルル。元気か?」
「元気だったら良かったね。君のせいでとても不機嫌だよ、ヤララン」
椅子に座っているのは髪がツンツン跳ねた金髪の若い男、ミュラルル。
手足は束縛によって椅子に縛り付けられており、動けずにいる。
ただ、この男なら束縛なんて無職魔法で破って逃げれたはずだ。
そうしなかったのは俺がコイツの周辺に結界を張ってたからか、見張りをつけてたからか……。
どちらにしても、ミュラルルは逃げなかった。
折角ここにいるのだから、幾つか話を聞きたかったのだ。
「ツレねぇなぁ。ま、ご歓談といこうぜ?どうせ暇だろ?」
「話をするのは歓迎だよ。俺も君に聞きたいことがある」
「対等な取引だな」
「君の思う限りはね」
なんだか異様に面倒臭そうに話すミュラルル。
「まずは君から、どうぞ?」
「あぁ。じゃあ訊くが、王ってのは誰だ?」
「解答しにくいなぁ。彼がそう自称してるから僕もそう呼んでいるだけ。フルネームは知らないけれど、きっと西大陸出身の王族なんだろうね。見かけも王様っぽかったし、王っていう呼称はしっくりくるよ」
「はーん……」
俺の記憶だと確か、この大陸とフラクリスラルが戦争したのが40数年前。
終戦時には王が殺され、王族は殉死したと俺は学んだが、生き残りか?
王族貴族ってのは魔法が多色使える上に強い。
ミュラルルより強いと聞いても、王族というなら納得もできる。
「なるほどねぇ。そいつはどこにいるんだ?」
「それは2つ目の質問だよ。ちゃんと交代してくれないかなぁ?」
「王についての延長線だろ? サービスしろよ」
「まったく、図々しいなぁ……。ハヴレウス城にいるよ。会いに行くなら地形の把握と周りに注意することだね。色々厄介だから、さ」
「ハヴレウス城ね。了解、後で確認する」
「ふん」
嫌そうにしながらも忠告付きで場所を教えてくれ、鼻を鳴らす。
「さぁ、今度はこっちの質問に答えてもらうよ」
「あぁ、なんでも言ってみ?」
「なんでも、か。ま、一番訊きたいのは……」
ミュラルルは目を鋭くさせ、敵意の篭った語気で尋ねた。
「君たちはなんだ? 見るからに兵士ではないけど、フラクリスラルに反旗を翻すとは、よほど高い身分の誰かなのかい?」
「別に俺は貴族でもねぇがな。元はフラクリスラルの貴族だったが、家出して商人やってたよ。それでここの情報を少し知ってなんとかしたくなっただけだ」
「善意で動いてる、ってわけかい。へぇ、フラクリスラルの兵や奴隷狩りに来てるわけではないのか」
「悪いか?」
「あぁ、拍子抜けだよ」
拍子抜け。
そう言うとともに、彼は肩を落としてため息を吐いた。
「俺は君たちが西大陸の王かフラクリスラルあたりの王の密命で来てると思ったのに……なるほどね、俺を殺さないわけだ」
「……なに? どういうことだ?」
「それは君の2つ目の質問、と受け取ってもいいのかな?」
「構わねぇよ」
重要性のありそうな言葉だった。
聞いておいて損はないであろう。
「密命で来る、というのは何故かということでいいかな? まぁそれは俺が君たちの素性を聞いた事も含むんだけど、つまりは“更新”だよ」
「更新?」
「そっ。俺はもう10年くらいかな? ここで人殺しとか色々と悪いことしてるわけ。
悪いことを楽しんでくるように――
俺の代わりが来るまで――
それが南大陸にある小国、アルトリーユの王、その末子である俺に下された命――」
「…………」
絶句した。
悪いことをしてこいだと?
そんな命令を国が発し、王族がこの大陸で暴れてるのか?
「まぁ俺以外にも他に何人も同じようなのがいると思うけど? でも実際、善魔力が世界全体で減ったから悪を減らせと、俺みたいな悪い奴は殺され、次の人間が来る……あ、居場所は当然魔法道具で察知されてるし、俺に逃げ場はないんだよね」
「お前……それで良かったのか?そんな人生で――」
「後悔はしてないね。最初は抵抗あったけど、後はもう気が狂って楽しかったし? 殺すのがゲーム感覚だったよ。だから、悪いことしたのを国のせいにするつもりはないし、俺はこの人生に自分で満足してる。そんなわけでさ、俺のこと解放してくれない? 善意悪意偏ったら、困るよ? ねぇ?」
「…………」
すぐに返答できなかった。
誰かを殺しに行く以上は解放するわけにはいかない。
だけど解放しないと誰かが困る。
…………。
「仮定の、話だろ……」
俺が一番言えない言葉だと思った。
俺は未来を見越して行動している。
ただ自分の考えた仮定を想定している俺が言えない言葉だ。
だけれど、今はこれを言うので精一杯だった。
「ほんと、そう。仮定だよね。善意と悪意が平等とか、俺も知らないし? そんなんで悪いことするのとか嫌だけどさ、国が望んでるからしょうがないじゃん?」
ニヤニヤと笑いながら尋ねてくる。
しょうがないだろ、と。
命令されて、嫌だけどやったと。
これが世界のためなんだと。
その“仮定”が正しいのなら、ほんとにしょうがない……。
「……さぁさぁ、いじめすぎるのも悪いし、次はこっちの質問に答えてもらおうかな」
目を爛々と輝かせて独り言のように呟くミュラルル。
俺にはもう、話ができる気力がなかった。
「【光】」
薄暗い室内で白い光球を生み出す。
輝きは部屋全体に光を分け与え、視界を明瞭にした。
と言っても、部屋にあるものは椅子だけ。
無論、人は数人いるが――。
「よう、ミュラルル。元気か?」
「元気だったら良かったね。君のせいでとても不機嫌だよ、ヤララン」
椅子に座っているのは髪がツンツン跳ねた金髪の若い男、ミュラルル。
手足は束縛によって椅子に縛り付けられており、動けずにいる。
ただ、この男なら束縛なんて無職魔法で破って逃げれたはずだ。
そうしなかったのは俺がコイツの周辺に結界を張ってたからか、見張りをつけてたからか……。
どちらにしても、ミュラルルは逃げなかった。
折角ここにいるのだから、幾つか話を聞きたかったのだ。
「ツレねぇなぁ。ま、ご歓談といこうぜ?どうせ暇だろ?」
「話をするのは歓迎だよ。俺も君に聞きたいことがある」
「対等な取引だな」
「君の思う限りはね」
なんだか異様に面倒臭そうに話すミュラルル。
「まずは君から、どうぞ?」
「あぁ。じゃあ訊くが、王ってのは誰だ?」
「解答しにくいなぁ。彼がそう自称してるから僕もそう呼んでいるだけ。フルネームは知らないけれど、きっと西大陸出身の王族なんだろうね。見かけも王様っぽかったし、王っていう呼称はしっくりくるよ」
「はーん……」
俺の記憶だと確か、この大陸とフラクリスラルが戦争したのが40数年前。
終戦時には王が殺され、王族は殉死したと俺は学んだが、生き残りか?
王族貴族ってのは魔法が多色使える上に強い。
ミュラルルより強いと聞いても、王族というなら納得もできる。
「なるほどねぇ。そいつはどこにいるんだ?」
「それは2つ目の質問だよ。ちゃんと交代してくれないかなぁ?」
「王についての延長線だろ? サービスしろよ」
「まったく、図々しいなぁ……。ハヴレウス城にいるよ。会いに行くなら地形の把握と周りに注意することだね。色々厄介だから、さ」
「ハヴレウス城ね。了解、後で確認する」
「ふん」
嫌そうにしながらも忠告付きで場所を教えてくれ、鼻を鳴らす。
「さぁ、今度はこっちの質問に答えてもらうよ」
「あぁ、なんでも言ってみ?」
「なんでも、か。ま、一番訊きたいのは……」
ミュラルルは目を鋭くさせ、敵意の篭った語気で尋ねた。
「君たちはなんだ? 見るからに兵士ではないけど、フラクリスラルに反旗を翻すとは、よほど高い身分の誰かなのかい?」
「別に俺は貴族でもねぇがな。元はフラクリスラルの貴族だったが、家出して商人やってたよ。それでここの情報を少し知ってなんとかしたくなっただけだ」
「善意で動いてる、ってわけかい。へぇ、フラクリスラルの兵や奴隷狩りに来てるわけではないのか」
「悪いか?」
「あぁ、拍子抜けだよ」
拍子抜け。
そう言うとともに、彼は肩を落としてため息を吐いた。
「俺は君たちが西大陸の王かフラクリスラルあたりの王の密命で来てると思ったのに……なるほどね、俺を殺さないわけだ」
「……なに? どういうことだ?」
「それは君の2つ目の質問、と受け取ってもいいのかな?」
「構わねぇよ」
重要性のありそうな言葉だった。
聞いておいて損はないであろう。
「密命で来る、というのは何故かということでいいかな? まぁそれは俺が君たちの素性を聞いた事も含むんだけど、つまりは“更新”だよ」
「更新?」
「そっ。俺はもう10年くらいかな? ここで人殺しとか色々と悪いことしてるわけ。
悪いことを楽しんでくるように――
俺の代わりが来るまで――
それが南大陸にある小国、アルトリーユの王、その末子である俺に下された命――」
「…………」
絶句した。
悪いことをしてこいだと?
そんな命令を国が発し、王族がこの大陸で暴れてるのか?
「まぁ俺以外にも他に何人も同じようなのがいると思うけど? でも実際、善魔力が世界全体で減ったから悪を減らせと、俺みたいな悪い奴は殺され、次の人間が来る……あ、居場所は当然魔法道具で察知されてるし、俺に逃げ場はないんだよね」
「お前……それで良かったのか?そんな人生で――」
「後悔はしてないね。最初は抵抗あったけど、後はもう気が狂って楽しかったし? 殺すのがゲーム感覚だったよ。だから、悪いことしたのを国のせいにするつもりはないし、俺はこの人生に自分で満足してる。そんなわけでさ、俺のこと解放してくれない? 善意悪意偏ったら、困るよ? ねぇ?」
「…………」
すぐに返答できなかった。
誰かを殺しに行く以上は解放するわけにはいかない。
だけど解放しないと誰かが困る。
…………。
「仮定の、話だろ……」
俺が一番言えない言葉だと思った。
俺は未来を見越して行動している。
ただ自分の考えた仮定を想定している俺が言えない言葉だ。
だけれど、今はこれを言うので精一杯だった。
「ほんと、そう。仮定だよね。善意と悪意が平等とか、俺も知らないし? そんなんで悪いことするのとか嫌だけどさ、国が望んでるからしょうがないじゃん?」
ニヤニヤと笑いながら尋ねてくる。
しょうがないだろ、と。
命令されて、嫌だけどやったと。
これが世界のためなんだと。
その“仮定”が正しいのなら、ほんとにしょうがない……。
「……さぁさぁ、いじめすぎるのも悪いし、次はこっちの質問に答えてもらおうかな」
目を爛々と輝かせて独り言のように呟くミュラルル。
俺にはもう、話ができる気力がなかった。
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