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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/62/:ミュラルル

 セイニス・アカルバーグとセラユル・アカルバーグといえば、それなりに裕福な男爵家のご子息だ。
 髪の色は、生えたばかりの双葉の様な柔らかい緑色で、双子の彼らは美しい体躯をしていると聞く。
 実際、8年ほど前に会った彼らはそんな感じだった。
 お前らどこの王子と姫だと言わんばかりに身を宝石で包み、兄は王が戴くような黄金の冠を、妹はティアラと綺麗なドレスを着ていて口調も上品であり、俺の遊び相手として呼ばれたということに心底驚いていたが。
 その影響か、今でも俺のことを覚えていたのだろう。
 今の彼らは服装こそそんなに変わらない。
 兄は緑の法被と黒い行灯袴、その上から濃淡な緑の外套を着ている。
 妹は背中の広く開いた薄緑のドレスと白の手袋。
 ただ、2人のからだは泥や服の破けた後など、昔とは随分と変わっていた。

「……ご知り合いですか、ヤララン?」
「あぁ、貴族だった頃の友人だ」
「なるほど」

 背後のフォルシーナから耳の側で尋ねられ、小声で答える。
 フォルシーナも元は貴族だったが、世俗に疎かったからこんなことも知らない模様。
 結構、有名な2人なんだがな。
 会ったこともなければわからないか。

「それで、ヤララン様。この者たちは?」
「俺の仲間だ。あ、勘違いすんなよ? 別に女だから連れてるってわけじゃねぇから」
「左様でございますか」

 今更ながら、メリスタスを連れてこなかったことに多少後悔した。
 なんかまた女性率上がってるじゃねぇか、おい。
 そろそろさ、男増やそうぜ?

「それで、先ほどのお言葉は一体……」
「そのままの意味だよ。ここじゃ1人で生きてくのは辛い。僅かな食べ物を奪い合って生きるより、協力して食うに困らないくらい作物実らせた方が良いだろうが」
「は、はい」
「みんな同じようなこと思ってると思うんだがな。でも誰も先導者がいない。なら、俺が代役を務めてやる。それだけさ」
「流石は明主様! 結婚しくださぃいい!!」
「だーもうっ! 今良い事言ってんだから向こう行けっ!」

 腰元に抱きついてくるカララルの頭を押しのけるも必死に食らいついてくる。
 なんて迷惑な……。

「ということはつまり、この街の人々を集めて一致団結し、生活する、と……?」
「それ以外に聞こえたんなら俺の語学力かお前の語学力がおかしいな」

 兄貴の方、セイニスの確認に容赦なく言葉を返す。
 相違はない、一致団結して生きていこうと俺は言ったのだ。

「まぁそういうわけだから協力してくれ。良いか?」
「こ、この様な生活から脱却できるなら!」
「私たち、なんでも致します!」
「よろしい。だけど、今は待機だ。フォルシーナ、コイツらになんか食いもん渡して」
「はいはい、承知しましたよ」

 俺は2人を背にし、また村の周りを見渡した。
 こそこそとこちらを見る影が、幾つかある。
 人が集まってくるのも時間の問題に思えた。

「!?  【黒魔法カラーブラック】!」
「え? どうした、キィ?」

 突如キィがしゃがみ、自身の影から刀を取り出した。
 なにかあるかと周りを見渡すが、特に何もない。

「【青龍技せいりゅうぎ】――」
「ヤラランッ! 上です!」
「あんっ!?」

 フォルシーナが叫んだ通りに上空を見上げれば、巨大な影が俺たちを覆った。
 迫ってきているのは赤い炎の塊、それに向けてキィが刀の刃先を向ける。
 刀は青の気泡を浮かばせながら、静かに、艶やかに佇んで――。

「【静音吸引せいおんきゅういん】」

 炎が目前に迫り、同時にキィは飛んで突きを放った。
 刃が当たった刹那、炎の塊はスルスルと小さくなって消滅する。

「【赤龍技せきりゅうぎ】、【轟力閃赤ごうりきせんか】!」

 炎の飛来した方向に向け、彼女は赤く光らせた剣を振るった。
 剣戟の衝撃波がゴウッと音を立てながら上空に飛んで行く。
 勿論、あんなものが当たってくれるとは思えない。
 単なる牽制だが、それで重畳ちょうじょう
 かわしてくれれば姿が見えるだろう。

「キィ! 行くぞ!」
「承知っ!」

 キィと共に衝撃波の軌道上を飛んだ。
 空を切って進む斬撃の後では空気抵抗が少なく、かなりの高度まで一気に駆け上がる。
 だが、何も居なかった。
 雲に隠れてるとかなら別だが、そこまで高くに行けるだろうか?
 だからこんな、誰もいないなんてのはおかしい……。

「【聖炎葬フューネラル・セイム】」
「ッ!?」
「【無色防衛カラーレス・プロテクト】!」

 どこからか聞こえた声に、俺は咄嗟に無色防衛を発動した。
 直後、真下から衝撃が襲う。
 ガインッ!という耳の痛い音と共に真下に現れたオレンジの塊が結界に食い込む。
 パキパキと音を立て、ヒビが入って――

「【静音吸引せいおんきゅういん】!!」

 結界が破れる前に、結界下にキィが刀を突き立てた。
 結界ごと魔力は吸収され、炎も姿を消した。

「助かった……ありがとよ」
「結界張ってくれただろ?お互い様だ」

 背中を合わせ、2人で上下左右を見渡す。
 相変わらず何も姿は見えず、空は晴天のままで眼下は街が見えるだけ――。

「まったくさぁ〜、困るよね〜」

 ふと聞こえた声は男性のものだった。
 どこから聞こえた? 上か? 横か?

「ここは俺の餌場なのっ。だから勝手に荒らされると困るんだよねぇ〜」
「荒らすんじゃなく、整理するんだけどな」
「綺麗事なんか言っちゃって……まぁ、君達が俺に勝つなんて無理だけど? そうだ、姿ぐらいは見せてあげようかな」
『!』

 数メートル先に、ふと青年が姿を現した。
 左右に跳ねた色素の薄い金髪、薄気味の悪い笑みを浮かべた白い顔。
 全体的に黄色よりで着物の上から金の軽装備をし、その手には刃先がハンマーのように少しだけ槌になった刀を、その頭には全体を包むようなフンワリした帽子を被っていた。
 帽子の左右に付けられた鈴を鳴らし、青年はニコリと笑う。

「初めましてっ。ミュラルルと名乗ってるよ。死ぬまでの間、お見知り置きをっ」

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