連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/57/:帰省
「嫌だぁぁぁああ!盟主様ぁああ!!」
「あーもう、うっさいよ。どうせまた戻るんだからちょっとぐらい我慢しろっての」
翌日、俺が村に戻る旨を伝えると、案の定カララルが泣きついてきた。
俺の胸元に流される涙は着替えた黄緑の法被を濡らしていく。
なんだこの溺愛っぷりは。
俺、そんなに大したことしてないだろうが。
「はいはいカララル。自分勝手はいけませんよ」
ひょいっと側に立っていたフォルシーナがカララルの脇を掴んで持ち上げた。
手を離してポーンと空に向かって押すとフワフワと少し上昇して俺たちより少し離れた所で停止する。
きっとフォルシーナが【無色魔法】を発動したんだろう。
「お、降りれない〜っ!?」
「少しは自重してください。私達の妨げになるなら村の牢にブチ込みますからね」
「ぬ、ぬぅぅ〜〜!」
カララルは空中でジタバタするもただ体力を無駄にするだけで、フォルシーナは俺に向き直った。
「じゃあ行ってきてください。こちらの事は私にお任せを」
「ああ、頼りにしてる」
「もったいないお言葉です」
「はぁ? 今更畏まった言葉使いやがって……まぁいいや。じゃあな」
「フフッ、お気を付けを〜」
和やかに笑うフォルシーナに見送られ、俺は羽衣を広げて村に向かって飛んで行った。
後に残ったフォルシーナは1人、
「さて、口煩いヤラランもいなくなりましたし、寝坊助たちのイメチェンでもしましょうかねぇ……」
見送りにも来ず眠るメリスタスとキィに向けて、そんな事を呟いたそうな。
それを聞いていたカララルは疑問符を浮かべるだけで、特に関心は示さなかった。
飛行すること30分弱、俺は村まで戻ってきた。
思ったより時間がかからなかったのだが、それは俺の実力と自分に言い聞かせるとしよう。
ひとまず俺はタルナがいるであろう総務部の屋根に降り立ち、2階の窓から【無色魔法】で鍵を開けて侵入する。
中は会議室で、テーブルが中央にドーンと構えてあり、広い室内は無人であった。
元々会議なんてそんなにしないしな。
俺はすぐに会議室を後にし、ウロウロと廊下を回った。
「あ、いた」
「んん? って、ヤラランじゃないか」
丸められたポスター大の紙を脇に挟んだタルナが俺を見て猫目を見開いた。
互いに歩み寄り、手を伸ばせば届く距離まで来ると止まってタルナが口を開く。
「いやぁ、約1週間で全員と顔を合わせるとはね。今度は一体全体、どうしたんだい?」
「話せば長くなるからこっちの話は後にさせてくれ。村の様子はフォルシーナに聞いているが、何か変わったことはあったか?」
「特には変わってないよ。そうだね、1人僕とフォルシーナの判断で釈放したぐらいさ。あとは平和だよ」
「釈放?」
つまり、牢から誰か出したと。
まぁ別に構わないけれど、安全か?
「今の所、まだ保護観察と言ったところかな。ここで雑用をしてもらってるよ。まだ子供だしね」
「子供? 独房にいたか?」
「ずっと前に君が連れてきたんじゃないか。まぁ半年前かな? 覚えてなくても無理はないね」
「ん〜? ……ダメだ、思い出せん」
名前と顔覚えるのはそんなに苦手ではないはずだが、ドレトスといい、今回の子供といい、意外と覚えてない。
記憶力を鍛えなきゃいけないようだ。
「まぁ今日顔を合わせるかもしれないから注意してくれ。俺からはそれだけだよ。そっちの話は長いんだね? 移動しようか」
「ああ、そうだな」
タルナに促されて移動する。
なんだか早口だが、早朝から仕事してるし、こうもなるかと感心する。
連れてこられた部屋は保管庫だった。
棚ばかりあって、今まで村での行事に使った張り紙やら作品が並べられてたりする。
通路の左右に棚で狭っ苦しいのだが、奥にはペン立てと双葉の出ている小さな植木が置かれたテーブルセットが配置してあり、キッチンもあってタルナはここでハーブティーを飲んでいたのを俺は何回か見ていた。
そして、俺たちはテーブルを囲うように椅子に腰掛け、タルナはテーブルにポスターを広げて置いた。
書かれているのはゴミの分別に付いての記事で、特に面白みのあるものでもなかった。
その裏面を返し、ペン立てからペンを一本取ってインクを漬けた。
「メモすんの?」
「必要なことがあるならね。まぁ資源の再利用とも言う」
「再利用せず保管するのがここだろ……」
「どうだかね。兎に角、君があれだけ盛大に出て行ってもう一時帰省となれば村は大騒ぎだ。何か用意するものがあるなら、俺が言って用意させるよ」
「あ、それは助かる」
用意して欲しいものはいくつもあるし、タルナの配慮は嬉しい。
ふむ、だとするとアレか。
先に用意させるか。
その間に話すのが効率的だ。
「なら、話すより先に必要な人とか物を言うから用意してくれ」
「そうだね。カラウか誰かに用意させて、そしたら俺たちはハーブティーでも飲みながら話すとしよう」
「子供をそんな風に使うんじゃねぇよ……」
「寧ろ僕の言うことならなんでも喜ぶぞ、彼女は」
「……そうかい」
本人が楽しそうなら、まぁいいのか?
うーむ、わからん。
ただカラウが不憫だし、今度会ったら遊んでやるとしよう。
「で、要るのは?」
「あぁ。何人か戦える奴と料理できる奴……まぁ誰だって戦えるし誰でもいいけど、お願いしたい」
「ふむふむ……わかったよ。他は?」
「食料だな。そんだけだよ」
「ふむふむ。特別なものはいらない、と。わかった、まぁ君はここで待っててくれ」
「おう」
覚えることも少なかったから別にメモも取ることなく、タルナは立ち上がって退室して行った。
戻ってくるまでにハーブティーでも淹れておこう。
そう思いたって、俺は口笛を吹きながらハーブティーを作り始めたのだった。
「あーもう、うっさいよ。どうせまた戻るんだからちょっとぐらい我慢しろっての」
翌日、俺が村に戻る旨を伝えると、案の定カララルが泣きついてきた。
俺の胸元に流される涙は着替えた黄緑の法被を濡らしていく。
なんだこの溺愛っぷりは。
俺、そんなに大したことしてないだろうが。
「はいはいカララル。自分勝手はいけませんよ」
ひょいっと側に立っていたフォルシーナがカララルの脇を掴んで持ち上げた。
手を離してポーンと空に向かって押すとフワフワと少し上昇して俺たちより少し離れた所で停止する。
きっとフォルシーナが【無色魔法】を発動したんだろう。
「お、降りれない〜っ!?」
「少しは自重してください。私達の妨げになるなら村の牢にブチ込みますからね」
「ぬ、ぬぅぅ〜〜!」
カララルは空中でジタバタするもただ体力を無駄にするだけで、フォルシーナは俺に向き直った。
「じゃあ行ってきてください。こちらの事は私にお任せを」
「ああ、頼りにしてる」
「もったいないお言葉です」
「はぁ? 今更畏まった言葉使いやがって……まぁいいや。じゃあな」
「フフッ、お気を付けを〜」
和やかに笑うフォルシーナに見送られ、俺は羽衣を広げて村に向かって飛んで行った。
後に残ったフォルシーナは1人、
「さて、口煩いヤラランもいなくなりましたし、寝坊助たちのイメチェンでもしましょうかねぇ……」
見送りにも来ず眠るメリスタスとキィに向けて、そんな事を呟いたそうな。
それを聞いていたカララルは疑問符を浮かべるだけで、特に関心は示さなかった。
飛行すること30分弱、俺は村まで戻ってきた。
思ったより時間がかからなかったのだが、それは俺の実力と自分に言い聞かせるとしよう。
ひとまず俺はタルナがいるであろう総務部の屋根に降り立ち、2階の窓から【無色魔法】で鍵を開けて侵入する。
中は会議室で、テーブルが中央にドーンと構えてあり、広い室内は無人であった。
元々会議なんてそんなにしないしな。
俺はすぐに会議室を後にし、ウロウロと廊下を回った。
「あ、いた」
「んん? って、ヤラランじゃないか」
丸められたポスター大の紙を脇に挟んだタルナが俺を見て猫目を見開いた。
互いに歩み寄り、手を伸ばせば届く距離まで来ると止まってタルナが口を開く。
「いやぁ、約1週間で全員と顔を合わせるとはね。今度は一体全体、どうしたんだい?」
「話せば長くなるからこっちの話は後にさせてくれ。村の様子はフォルシーナに聞いているが、何か変わったことはあったか?」
「特には変わってないよ。そうだね、1人僕とフォルシーナの判断で釈放したぐらいさ。あとは平和だよ」
「釈放?」
つまり、牢から誰か出したと。
まぁ別に構わないけれど、安全か?
「今の所、まだ保護観察と言ったところかな。ここで雑用をしてもらってるよ。まだ子供だしね」
「子供? 独房にいたか?」
「ずっと前に君が連れてきたんじゃないか。まぁ半年前かな? 覚えてなくても無理はないね」
「ん〜? ……ダメだ、思い出せん」
名前と顔覚えるのはそんなに苦手ではないはずだが、ドレトスといい、今回の子供といい、意外と覚えてない。
記憶力を鍛えなきゃいけないようだ。
「まぁ今日顔を合わせるかもしれないから注意してくれ。俺からはそれだけだよ。そっちの話は長いんだね? 移動しようか」
「ああ、そうだな」
タルナに促されて移動する。
なんだか早口だが、早朝から仕事してるし、こうもなるかと感心する。
連れてこられた部屋は保管庫だった。
棚ばかりあって、今まで村での行事に使った張り紙やら作品が並べられてたりする。
通路の左右に棚で狭っ苦しいのだが、奥にはペン立てと双葉の出ている小さな植木が置かれたテーブルセットが配置してあり、キッチンもあってタルナはここでハーブティーを飲んでいたのを俺は何回か見ていた。
そして、俺たちはテーブルを囲うように椅子に腰掛け、タルナはテーブルにポスターを広げて置いた。
書かれているのはゴミの分別に付いての記事で、特に面白みのあるものでもなかった。
その裏面を返し、ペン立てからペンを一本取ってインクを漬けた。
「メモすんの?」
「必要なことがあるならね。まぁ資源の再利用とも言う」
「再利用せず保管するのがここだろ……」
「どうだかね。兎に角、君があれだけ盛大に出て行ってもう一時帰省となれば村は大騒ぎだ。何か用意するものがあるなら、俺が言って用意させるよ」
「あ、それは助かる」
用意して欲しいものはいくつもあるし、タルナの配慮は嬉しい。
ふむ、だとするとアレか。
先に用意させるか。
その間に話すのが効率的だ。
「なら、話すより先に必要な人とか物を言うから用意してくれ」
「そうだね。カラウか誰かに用意させて、そしたら俺たちはハーブティーでも飲みながら話すとしよう」
「子供をそんな風に使うんじゃねぇよ……」
「寧ろ僕の言うことならなんでも喜ぶぞ、彼女は」
「……そうかい」
本人が楽しそうなら、まぁいいのか?
うーむ、わからん。
ただカラウが不憫だし、今度会ったら遊んでやるとしよう。
「で、要るのは?」
「あぁ。何人か戦える奴と料理できる奴……まぁ誰だって戦えるし誰でもいいけど、お願いしたい」
「ふむふむ……わかったよ。他は?」
「食料だな。そんだけだよ」
「ふむふむ。特別なものはいらない、と。わかった、まぁ君はここで待っててくれ」
「おう」
覚えることも少なかったから別にメモも取ることなく、タルナは立ち上がって退室して行った。
戻ってくるまでにハーブティーでも淹れておこう。
そう思いたって、俺は口笛を吹きながらハーブティーを作り始めたのだった。
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