連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/54/:模擬戦・前編

 俺の従者兼仲間であるフォルシーナは、言うことがほんっとに遅い。
 剣にある小技、そんなのさっさと教えとけばいいものを、彼女と再会してから1日経ち、午前に漸くキィへの説明が終わったらしい。
 適当に昼食を取り、やっと模擬戦を行うこととなった。
 先日雨が降ったからか、今日も幸い天候には恵まれた。

「模擬戦って言っても、戦うのは好きじゃねぇなぁ……」

 言いながら俺は刃先が空に向くように反善の剣を構えた。
 この旧エリト村のメインストリートの中心で、俺とキィは似た体制で立っていた。
 彼女も剣を構えて、そっと佇んでいる。
 そんな彼女が俺の独り言を拾い、ポツリと返した。

「同感だけど、むしろ私はウズウズしてるよ。ヤラランに勝てると思うとね」
「勝ち負けこだわんなよ。怪我するだろうが」
「注意は払うっつーの。じゃ、そろそろ始めていいかー?」

 俺の言葉をも払い、キィは空を見上げた。
 いや、正確には建物の屋上に立っているフォルシーナ他観衆に目を向けた。
 カララル、メリスタスの2人が座ってこちらを眺め、フォルシーナは立って手を振った。

「いいですよー。いつでもどうぞ〜」
「だと、さ」
「じゃあ――行くぜ。【赤魔法カラーレッド】!」

 早速俺は【赤魔法】で筋力増強を施し、前進する。
 空気を割く音を伴ってキィへと迫る――。

「【羽衣天韋はごろもてんい】」

 瞬時に羽衣を展開されて上空に距離を取られる。
 追いつくことも叶わず俺は地面に止まり、キィは上空からこちらに向けて魔法を発動した。

「【赤魔法カラーレッド】、【巨大火の粉ヒュージ・スパーク】」

 なんて事のないように呟かれて発生した火の粉。
 キィの全身から場所も定めず落ちる一つ一つが巨大な炎の塊。

「【水鏡の四角形ウォーラー・スクエア】」

 頭上に手を掲げ、水の四角形を展開する。
 だが、水鏡の四角形ウォーラー・スクエアでは薄くて防げない。
 だから、

「【二重デュアル】」

 もう1枚の水鏡を発生させる。
 俺の元に落ちてくる炎は2枚の水面を通過できず、残された加速度がぼたぼたと水を地に撒き散らす。
 無駄と判断したのか、攻撃が一時止んだ。

「――セイッ!」
「うおっ!?」

 次の瞬間には、キィが水鏡ごと俺の頭へと刀を振り下ろしていた。
 足を曲げて紙一重に躱す。

「ふんっ!」

 バチャンと音を立ててキィは重力のままに水鏡の四角形ウォーラー・スクエアを2枚通過して地に着き、再び剣を振るう。
 ただの剣技なぞ当たるものか――。

「【無色魔法カラークリア】!」

 自分の体を【無色魔法】で後方に吹き飛ばし、一回転して着地する。
 彼女の刃は当然俺を捉えず空を切ったが、俺が体勢を立て直す頃にはまた俺へと手をかざしていた。

「【赤魔法カラーレッド】、【轟炎フレイム】!」
「【力の四角形フォース・スクエア】!」

 彼女の出した大玉の炎。
 対抗するように俺はオレンジ色の薄い四角形を前方に展開した。

『【発射ディスチャージ】!』

 ほぼ同時に攻撃は放たれた。
 高速で迫る炎と空気は衝突し――見えざる力が完全に炎を打ち消した。

「――――」
「ッ!?おいっ!キィ!避けろっ!」

 なのに、キィは一歩も動こうとはしなかった。
 別に、大した範囲の攻撃でもなくて避けられるはずなのに。
 このままではキィが重傷を負ってしまう――。

 そう思ったのも束の間だった。

「【青龍技せいりゅうぎ】、【静音吸引せいおんきゅういん】」

 彼女の刀が蒼く光り出し、僅かながら気泡を生んでいる。
 両手で柄を掴み、右肩に引いて――見えざる衝撃波を突いた。
 その後には風もない、音もない。
 ただの一突きで、力の四角形フォース・スクエアを完全に消し去られた。
 青き光も剣に収まり、何事もなかったかのようにキィは佇んている。
 これが、小技?
 魔法を消すだなんて、そんなの小技なんてレベルではない。
 なんて技だよ、ホント……。

「【赤龍技せきりゅうぎ】……」

 続け様に、キィは刀を振り上げた。
 その刀は赤く発光し、ポウッと気泡を放っている。

「【轟力閃赤ごうりきせんか】!!!」

 振り払われた刃は轟音を生み、三日月状にしなった巨大な衝撃波を、俺へと放った。

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