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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/48/:心苦しくも

 俺は妖艶に微笑んで、一歩を踏み出した。
 空気を切る音がする。
 だって赤魔法は継続されているのだから、俺の体は弾丸のように飛び出す。

「! 【無色防衛カラーレス・プロテクト】!」

 男が必死な顔で右手を差し出して結界を張る。
 俺は月明かりに反射する透明な結界を、そのまま殴りつけた。

 バリンッ!

「なっ!!?」

 一瞬だった。
 距離を詰めたのも、無色防衛を割ったのも、あまりにも速いこと。
 まず第一に、結界なんて今の俺には無意味なのだ。
 俺の手には常時無色魔法が発動しており、筋肉量は体が保持できる最大量。
 力で全てを割り、砕き、滅ぼし、圧殺する存在に俺は化したのだ。

「くっ、来るんじゃねぇ! 【力弾フォース・リボルバー】!」
「…………」

 弾道をつまみ、ビリッと破く。
 隔たれた空間には圧力も何も関係なく、力を無効化する。
 俺はその横を通り、また男に近付く。

「なっ……クソッ! 早く死ねよっ!! リボルバー!」
「無意味だっつの」

 男は後退しながらも空気を放ってくる。
 しかし辿り着く前に全ての道を破壊し、到達点の俺まで届かない。

「【力の大円破フォース・サーバースト】!」
「…………」

 男が初めて発動する大きめな魔法だった。
 薄紫色の輪、そうだな、4mはあるだろう。
 空気の流れから高速で俺に向かってくるのがわかる。
 だから、俺は両手を前に投げ出した。

「【二重/力の四角形デュアル・フォース・スクエア】」

 刹那、俺の背丈とさほど変わらぬ薄オレンジの長方形を成したパネルが2つ、両の手のひらから出現する。
 面が金色の光を煌々と放った、今まで見ぬ四角形。
 だがこれで普通なのだ。
 いつもの加減はないから――。

「【発射ディスチャージ】」

 2つの四角形から金の空気渦巻く力の塊が目にも留まらぬ速さで放出される。
 金色の力は薄紫のそれを即座に撃ち返し、爆風を生みながらも進行し行く。

「ば、バカな――ガアァッ!!?」

 大円も男も関係ない。
 辿り着いた場所から吹き飛ばしていく金の力は建物を2つ3つ越えて破壊して行き、光なき森の中へと消えて行った。

 道すがら直撃したコートの男は上空に吹き飛び、近場の建物の屋根に落ちて転がり落ちた。
 生死を確かめるために、俺は飛んで男の近くまで来た。
 右腕はあらぬ方向を向き、鼻が折れた状態で仰向けになっていた。
 荒い息遣いをしながら――。

「……生きてるのか」
「ハッ、ハッ、たすっ、助けっ……」
「……1時間は、俺は何も持てねぇし、回復も使えない。安心しな、見た感じ死ぬ事はなさそうだぜ? 1時間経って生きてたら治してやる」
「そ、そんなっ、し、死ぬっ、助け……」
「…………」

 無言のままに踵を返した。
 いや、何も言えなかった。
 あれだけ人が嫌がって、痛がっている様を見るとどうにも放って置けないのに何もできない。
 さらには加害者が自分である。
 心が痛くて泣きそうだった。
 下衆を退治しようが、いや――悪を退治しようが、それ以前に悪と手を繋げないという命題に近いものが、何よりも嫌いだ。
 そしてその命題に従った自分も嫌いだ。
 でも、こんな男を野放しにするのもここの動物達にとっても、メリスタスにとっても良い。
 ……ここでとにかく戦闘不能にして、俺の村送りにでもすればそれが最適な選択だろう。

「……辛ぇなぁ」
「ヤララン! 大丈夫かよっ!?」
「…………」

 考え事をしていると、目端からキィが走ってくるのが見えた。
 俺の前で立ち止まり、俺の膝裏を蹴った。

「痛っ!?」

 当然バランスを崩して後ろ向きに倒れる――ところをキィが抱えた。
 背中に右腕を、後から膝裏に左腕を。
 そうして持ち上げられ、曲がった腹部に激痛を思い出す。
 ズキリと唸る痛みは口から血を吐き出させる。

「ごほっ……」
「ちょっと、おい! ほんとに大丈夫かよ!?」
「……死にゃしねぇよ。そこの奴もな」
「は?」

 キィの体が反転する。
 男の方を見ているのか、視点が下だ。

「……なんで、殺ろさねぇんだ?」
「なんだよ、殺して欲しかったのか……?」
「いや……そうじゃねぇけど……。……うん、これでいい。ヤラランはそういう奴だからな。後はメリスタスがコイツ見て怒ったりしなけりゃ大丈夫だろうけど……」
「……だな」

 直接的な親の仇だ、殺したくもなるだろう。
 だけれど、ナルーという善幻種と共に居た少年だ。
 怒りを収めると、信じてやりたい。

「つーかおろせバカ。別に立てねぇほどじゃねぇよ」
「ハァ? 何言ってんだよ。今のお前、死にかけにしか見えねぇよ」
「立てるし歩けるし、痛いけどそれだけだから。つーか顔ちけーし、男が抱えられんの恥ずかしいからやめろ」
「え? ……うわぁああああ!!?」
「うおおっ!?」

 ドスンという音を立て、俺の体は落ちた。
 もちろんお腹が益々痛くなりました。
 こんにゃろ……。

「おろせっつったけど、そのおろし方はねぇだろ……」
「わっ! えっ、あっ、ごめん! 大丈夫かっ!?」
「……死んだりはしねぇよ。多分」
「たっ……!? ほ、ほんとごめん! 死なないでくれよ!!」
「……冗談だ。死なねぇよ……ぉっ!?」

 腹を踏まれた。
 なんだ、冗談も言っちゃいかんのか……。

「本当に死ぬかもしれないから足離しなさい……ゴホッ、ウエッ、口ん中気持ち悪……」
「……。ったく、一々驚かせんなよ」
「……悪うござんした」

 適当に謝罪すると足をどけてもらうことに成功する。
 どけてもらっても、もう動こうとも思えないからここで倒れておくがな。

「……キィ。ナルーに報告してきてくれ。コートのおっさんはぶっ倒したってな。……おっさん、まだ意識あんの?」
「いや、そこで白目剥いて眠ってるよ。わかった、報告行ってくる」
「ああ、じゃあ頼む……」
「あいよっ」

 返事を返し、俺に背を向けて走って行った。
 漸く夜にも静けさが戻り、綺麗な青みがかった月だけが見下ろしていた。

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