連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/46/:放出

 陽はとうに沈み、暗闇が世界を掌握する中でも月だけは明かりを醸し出していた。
 騒がしかった1日も同時に終わりを告げ、この村跡は静まり返っている。
 動物達は全てどこかの建物に隠れており、見張りの1人もない。
 外に出ているのは俺とーー

「コートの男は、猫をさらって行く。だから猫を全部隠しちまって、様子見に中まで入ってきた所を叩く、か……」

 隣に佇むキィがポツリと呟く。
 俺たちが今いるのは街が見渡せる例の2階建て。
 夜の冷たい風がマフラーを揺らしながらキィの言葉をさらって霧散する。

「……正直に言うとな」
「ああ」
「そんな作戦になってるとは思ってなかったわ」
「……バカだな」

 罵倒と蔑視を貰い受ける。
 猫隠せっつったのがまさかこんな風になるなんて知らなんだ。

「ま、ヤラランが策を持ってよーがなかろうが、やる事は1つだろ」
「そうそう。俺たちは気を張り巡らして待機してりゃいいんだよ」

 とは言えど、ノコノコ浸入なんてしてこないであろう。
 どこから来ても良いように見張って、出てきたらブッ倒す。
 相手の素性にも詳しいわけではないし、もちろん慎重に、という後付けは付くがね。
 しかし、それだけのことだ。

「……ヤララン、あれ……」
「ん……」

 キィが森の中を指差した。
 誰もいないが、木陰が少し動いている。
 風のある夜だからそんなの当たり前のはずだが、キィが目を付けたのだから何かがあるはずだ。

 よく目を凝らして再度確認する。
 すると、一瞬だけ、オールバックの黒髪の男の顔が現れてまた木陰に潜った。
 ほう……。

「出たな。どうする?」

 振り返り、キィに尋ねる。

「今行っても森に逃げられんのがオチさ。敷地内に入ってきたら退路を塞いで一気に攻めようぜ」
「おう」
「つーかそんな事訊かなくてもわかるだろ。少しは頭働かせろよな」
「うるせー! 良いだろ別に!」
「このバカ! 声がデケェよ!」
「あ……」

 今更自らの失態に気付く。
 風しか吹かぬ静かな夜闇では声も良く響く。
 慌ててオールバックのおっさんがどこかに逃げてないか確認しようとすると……むしろ普通に歩いて中に入ってきた。

「おうおうおう。なんだ、見張りの猫も居やしねぇからどうしたもんかと思えば、ガキ共に乗っ取られてたのかよ」
「……バカだな」
「ああ、バカだ……」

 俺たちは男に聞こえぬほどの声量でこちらに歩いてくる男を小馬鹿にする。
 現状2対1という不利な状況でむざむざ姿を披露するあたりが最早救いようがない。

 男はナルーの話通り、黒のコートを着ていた。
 コート、東大陸ではあまり聞きなれないが北大陸では着る事が多いそうな。
 というと、俺にとっちゃ外国人?
 いや、此処に居る連中はほとんど俺にとって外国人か。
 言葉通じるし、どっちでもいいけれど。
 んで、そのコート野郎はどうにもガタイが良く、顔付きは凶悪。
 なんというか、あからさまに悪者だなーという印象だった。
 ただ、左腕がない。
 これも情報通り。
 そして今は俺たちの目下目指して前進中。
 アホだ、アホ極まりない。

「まぁいねぇもんは仕方ねぇか。お、金髪可愛いじゃん。グヘヘへ」
「うわキモッ……ヤララン、全面的に任せた」
「たまにはお前の戦闘も見てみてぇんだけどな〜……」
「…………」
「……わ、わかったよ。俺がやるから周囲に警戒しとけ」
「さすがヤララン! 行ってこい……」
「あいよ……ったく、都合の良い奴め」

 瞬時に小動物が怯えるかのような目で見つめてきて、そんな懇願されたら断れずに俺は屋根から飛び降りる。
 男は小首を傾げ、軽く呻いた。

「ん〜? なんだ? 殺ろうってのか?」
「ま、戦うっちゃそうだ。お前をここでねじ伏せる」
「へー、ふーん。威勢だけは一丁前じゃん? 青二才らしいセリフだなぁ、オイ」
「威勢だけかどうか、すぐにわかるぜ。先手はくれてやるからーー」

 言いながら、影からあの刀を取り出す。
 善と悪を覆す逆転のつるぎ
 そういえば名前があるのか知らないが、今ここでは“反善の剣はんぜんのつるぎ”とでも称するとしよう。
 悠然と刀を構え、空いた手でクイッと指を引いて挑発した。

「かかってこいよ」
「あいよっ。【捻れる力フォース・ターン】」
「!」

 ノーモーションから空気の圧力が襲ってくるのがわかる。
 視覚では捉えられずとも【無色魔法】使いなら大抵圧力変化をするから風の動きは読めるし、第一風の動きがあからさまに違うから、だからーー。

「【力の立方体フォース・キューブ】」

 奴の放った捻れる空気の弾道上に、薄オレンジ色の箱を置く。
 それは空気中であるものの固定され、俺に空気の捻じれが届く前にその空気変化をーー吸収する。

「あっ?なんだ、2色使えんのか。黒と無色、こりゃめんどくせぇな」
「そのめんどくさい奴に初撃を加えようとしたんだ。戦いは避けらんねぇよなぁ!」

 叫び、同時にただ魔力を放出する。
 無駄に溢れ出るオレンジの穏やかな光が天空まで登りゆき、空の景色を変えゆく。

「なっ……はっ?」
「呆けてる暇なんてこれから先はねぇぜ? 行くぜ、【羽衣天韋】!」

 放出させた魔力を再収集し、紫のマフラーは形を変えて羽衣と変える。
 そして俺は一気に地を駆けた。










「ちょっと減ったか」

 私は暇そうに顎肘ついてボケーっと下の様子を観察している。
 下にいるヤラランに対して持った感想はそんな感じだった。
 一度、魔力の放出というのは何度か見たことがある。
 善魔力ならオレンジ〜金、悪魔力なら紫〜黒、色の差は特に意味を持たないが、フォル曰く人それぞれの個性によって変わるみたいだ。
 普通だったなら自分の周囲2〜3mまでが限界というところ。
 だけれどヤラランは空まで届く光を放つ。
 それだけ魔力量、特にオレンジということから善魔力が多いって事と推察できる。
 だが、村で見せてもらった時よりは輝きがほんのり薄い……ように見える。
 まぁ何もせず善意が増えるということもないから仕方ないだろう。
 どっちみち、この魔力量でヤラランが負ける確率もほぼゼロ。
 何もなければとっ捕まえて終了だが……。

「……何もねぇといいな」

 まだ漫然と見ていることはできない。
 最後まで何も起きなければいいが、な。

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