連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/30/:好きですか?

 うちの料理担当はフォルシーナとキィだ。
 フォルシーナは行商の時に俺と代わり番こに料理を提供していたから、一般家庭レベルの料理を作れるし、キィは村を作ってから自分で勝手に修行して朝から晩まで、時たま遅くまで起きてるフォルシーナに握り飯を作ったりなんかもしていた。
 俺も勿論料理はできるが、見張りに一番役立つとのことで最近料理に参加したことはほとんどない。
 腕はもう衰えてるだろうし、参加しない方が良いのだ。

「ヤラランって言うんですか〜。私も名前の中にラが2文字入ってるんですよ〜。いや〜、光栄です〜」
「ただ名前がちょっとかぶっただけじゃねぇか」

 そして、ついでにカララルのお守りを頼まれた。
 腰を折ってへりくだったポーズで手を合わせてすりすりしている。
 それもめっちゃ笑顔で。
 逆にこえぇよ。

「所で、ヤララン様は何をしているんですか? こんな森の中、大蜥蜴とかげやら殺人鬼や出て大変ですよ?」
「あぁ、そうだな」

 こちとらお前と遭遇して大変だったわ。
 口に出しても面倒になるだけだから言わないが。

「知ってて何故こんな所に……猫目的なら、あの村には行かないほうがいいですよ?」
「猫?」
「はい、猫です」

 コクコクとカララルが頷く。
 俺は木を背にし、ふむと唸って話を聞いた。

「ここから近場の旧エリト村には今、猫が大量発生しています。私はジャレ合いに行ったのですが、危うく殺されるところでした」
「猫に、か?」
「はい。奴らは何者かに操られていて、侵入者の首元を狙うようです。猫も爪が鋭いもんですね」
「はーん……そりゃ物騒なこって……」

 猫に襲われ、殺される。
 そして村を占拠している、か……。

「はい。だから、猫はやめた方が良いかと……」
「何言ってんだ。俺はこの大陸を統一するためにこんなとこ来てんだ。問題あったら解決させるに決まってんだろ」
「――――」

 猫ってそんなに問題ないのかもしれないが、脅威なら解決する。
 人が死ぬなんて良くない事だ、そっちを先に解決させよう。
 あわよくば土地も増えるし、ペットに猫も手に入るからな。

「……明主様! あなたに一生ついていきます!」
「誰が盟主だボケ」

 呼称がランクアップしたらしい。
 やれやれ、くされるというのはどうにも苦手だ……。











「キィちゃん、嫉妬ですか?」
「……あん?」

 村から持ってきた米を釜で炊いていると、フォルが微笑みながら尋ねてくる。

「嫉妬ってなんだ?」
「む……羨ましくて、段々イライラする事です」
「へー……。嫉妬ぉ? 私が?」

 思い当たることがない。
 私が、羨ましがってると?

「どうしてそう思うんだよ?」
「だってイライラしているでしょう?」
「……腹が減っただけだ」
「嘘おっしゃいっ。年上は誤魔化せませんよ」
「…………」

 和やかに私に微笑むフォル。
 なんだ、その暖かい眼差しは。

 しかし、確かに腹が減ったから怒ってるわけじゃない。
 空腹には慣れてるしな。
 けれど、何か怒るような事があったわけでもない。
 なんだろうな、このモヤモヤ……。

「まぁ、キィちゃんも女の子だってことですよ」
「あ? 私は自分を男だと思ったことなんてねぇぞ?」
「いやいや、口調……ヤラランそっくりの男モノじゃないですか」
「……まぁ、それはそうだな」

 口調ね……。
 別段気にしたことは無かったな。
 今みたいに集団で何かするってこともなかったし、自由に使っていいと思ってた。

「女の子らしくした方がいいか?」
「その方がヤラランの気も惹けるでしょうね」
「……はぁ?」

 ……なんでそこでヤラランが出てくる。

「私がヤラランを好きって言いてぇのか? 何言ってんだお前」
「あら? 的はずれでしたか?」
「たりめーだ。私なんかヤラランの爪垢にも劣るクズだろ」
「…………」

 フォルが目を瞑った。
 眉をハの字にして、何か言いたげにして……。

「……なんだよ?」
「いえ、キィちゃんはそんな事を気にしてたのですか」
「そんな事ってなぁ……」
「まぁ聞きなさいな」

 場を鎮める一言だった。
 壮麗ながら冷静な口調。
 彼女は何かを懐かしむように語り出す。

「私なんてヤラランに出会う前は、ただの役立たずと言われていました。当時は酷いもんでしたよ、7色使えるのに魔力は無いし、おまけに工作好きでおもちゃやふざけた魔法をよく作ってたんです。そりゃあ周りから好奇な目で見られて親からの関心も無くなりました」
「今と大して変わらねぇな」
「まぁ、ふざけてる部分が今は多いですからね。でも、真剣に使えそうな武器やらなんかを作ってみても、誰も相手にしてくれませんでした」
「…………」

 孤独感、ねぇ……。
 そりゃこの大陸なら孤独の方が気楽だ。
 だけれど、人が仲良くするのが当たり前のところで迫害されるのは、それは――寂しい。
 私でも、そんなことはわかる。
 私だって親は好きだったから、親にさえ嫌われるのは――。

「まぁ、そんな役立たずでも好きな人はいっぱいいますし、ヤラランに付いて行ってる訳です」
「……お前は気楽だからな。私とは違うだろ」
「勿論、私とキィちゃんは違います。でもクズでも役立たずでも、何かを好きになったり嫌いになったりして悪いでしょうかね? 好きなら好きでいいんじゃないでしょうか」
「…………」

 いつもよくわからんこと言う癖に、悩ませることを言いやがる……。
 好きは好きで良い、ねぇ。
 私だって、こんななりでも人殺しなんだがな……。

「役立たずでも罪人でもなんでも、人間は人間です。悪いだの役立たずからだのと後ろめたいのはわかりますが、どうしようもないことに対してうだうだしてても、仕方ないですよ」
「……まぁ、な」

 消えない罪を気にしてたらそれこそ人生の破滅だ。
 償う相手もいないしわからないのにどうしようもない。
 私の罪だって、まだこの大陸ならどこでも起きてることだしな……。
 だから、私のしたことは罪じゃない。
 そうやって自分を正当化したい……。
 …………。
 どっちにしたって、私はこれからヤラランの役に立つために生きていくんだ。
 悪いことなんてしない。
 それで少しぐらい償いにもなるだろう。

「でもな、フォル。これだけは言っておくぞ?」
「なんですか?」
「私は別に、ヤラランのこと好きじゃねーからな?」
「…………」
「…………」
「……的はずれですかっ!?」
「さっきからそう言ってんだろ」

 難しい事言いながらも、結局フォルはフォルだった。
 その後、水を吸いすぎたご飯をみんなで食べ、不評を買ったのはまた別の話。

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