連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/25/:散歩
森で目覚める朝もそんなに悪くない。
明朝に目覚めれば東雲色の雲と太陽の曙光がセットになって、幻想的な空間を生み出している。
まだ花の蕾も成らない季節だが、黄緑色の葉っぱが陽に照らされ、風と戯れていた。
結界も張ってるし、折角の天気なのに移動もできないが木に寄りかかって腕組みをし、太陽を眺めるだけでも気分がいいものだ。
「……ねみー……あ、ヤラランもう起きてやがる」
「おはよう、キィ。俺はいつも早起きだっつの」
視界に入る範囲からのそのそと起き上がったのは金髪少女。
俺みたいにテキトーじゃないから土の上に布を敷いていて今綺麗に畳んでいる。
フォルシーナは何も敷いてないが、着物が汚れることを考慮しないやつだっただろうか?
しかもうつ伏せで寝ている。
「……昨夜、フォルシーナになんかあったのか?」
「あー、ずっと1人で喋ってたから私も寝ちまったよ。寝落ちってやつじゃないか?」
「……なるほどね」
察するに、話し疲れて倒れたんだろう。
ほっとけばそのうち起きるな。
「フォルも熱入ると煩いよな〜。昔からこんななのか?」
「昔からだよ。兎に角作りたいとか研究したいとか、そんなんばっかだ。面白くないこともかなり言うが、面白いことも多い。ちょっとは聞いてやれよ?」
「……それ、単に私に面倒を押し付けてるんじゃないよな?」
「さー、どうだかな」
「…………」
俺は陽を見て微笑んだ。
俺の言った言葉には嘘がないが、押し付けてるってのも少しはあるかもしれない。
「ま、フォルシーナはまだ暫く寝てるだろ。少し散歩でもしようぜ」
「上手く流しやがって……。散歩も良いけどよ、フォルが危なくないか?」
「書き置きと結界残しとけば大丈夫だろ。俺の結界はそう破れないからな」
「……それもそうか」
「おう、そうだよ」
フォルシーナの頭付近の土に木の棒でガリガリと書き置きを残す。
“散歩行く、ここで待ってろ”と。
風はそよ風といったところだし、これが土埃で消える頃には戻ってくるだろう。
いつもの防御の結界も張った。
フォルシーナの半径5mに近づけば感知し、2mには無色防衛を使った。
これなら同時に多数の攻撃を食らったりしなきゃ大丈夫だろう。
「行こうぜ。こんないい天気なのに、散歩しないのはもったいねぇよ」
「でも今日も歩……あ、飛んでくのか」
「そーいうこった。足いてぇなら無理しなくてもいいけど、来るか?」
「暇だしな。行くよ」
「りょーかいっと」
誰とも言わずに2人で歩き出す。
木々に囲まれ、道のなき迷路のような木立をスローペースで進んだ。
肌に感じる曙光は大した陽気さも無く、冷風を受けて甘く冷たく感じた。
まだ少し肌寒い。
が、フォルシーナが作ったマフラーなんてのを使う季節でもないのだった。
「なんつーか、ホント平和になったよな〜」
突如、両手を後ろにやって呑気に歩くキィが呟いた。
「なんでそう思う?」
「いやだって、平和じゃなきゃ散歩もできねーだろ。私はここまで気楽に生きられるとは、今まで思ってなかったよ」
「……っつても、まだやる事は山積みなんだろうけどな。平和は程遠いさ」
あの村なんて、大陸の何百分の一を満たすか満たさないかの領地だ。
統一ともなると先が長い。
「お前がいりゃ、あっと言う間な気がするんだけどな〜」
「おいおい、この先何があるかもわからねぇんだ。それに、あまり俺を頼りにすんなよ。」
「はいはいっ、わかったよっ。私も多少は強くなったし、頑張るわ」
「……そーだな」
できれば戦いなどなく、それこそ平和に事が運んで欲しい。
だが現実そう上手くいかないだろう。
まず不信感から入るような大陸だ、会話から入れればそれで上出来だろうが……。
憶測をしたところで結果はわからない。
今は散歩を楽しむとしよう。
「お。ヤララン、これ知ってるか?」
「あん?」
草を刈って進む中、キィが刈られた草からまん丸の草を掴む。
根の長い、葉の幾つもついた緑の草。
「知らん。なんだそれ?」
「ブワワッ草って言ってな、食ったら泣くんだ。おもしれーだろ?」
「いや、誰がそんなモン食うんだよ」
少なくとも俺は食べない。
泣いてなんか良いことあるのかよ。
「しかもとっても悲しい気持ちになれるんだ。すげぇだろ?」
「1から10まで凄くねぇよ。食いたいなら勝手に食ってろ」
「反応つまんねーなぁ……。まぁいいや、意外と美味いから食うぜ」
パキリ、と音を立てながらキィは葉っぱを食らった。
――途端、葉っぱ落とす。
ひらひら舞いながら緑が地に着くのとキィが這いつくばるのはほぼ同時だった。
「――うわぁああああああああああ!!!!」
「おおっ!!?」
そして突然の悲鳴。
大地が揺るぐとまではいかないが、震撼を感じさせる声量。
悲しむどころか底なしの絶望に打ちひしがれているようなーー
「だ、大丈夫かよ?」
「……わ、私は……」
「…………?」
「私は……この世に必要ない存在なんだ……」
「…………」
本当に絶望していた。
酷いな、ブワワッ草。
コイツは相当面倒臭さいぞ。
「……ヤララン! ヤラランッうわぁぁああああああ!!!」
刹那、俺の顔を見て泣きじゃくりながら抱きついてきた。
最早痛いぐらいだが、引きはがそうとしても全く離れる気配がない。
「落ち着けバカ! お前は必要だっつの! 変な思い込みすんじゃねー!!」
「本当か? 私なんかこの世の塵とゴミと深海に沈む魚のミイラをかき集めたような存在だろ……?」
「どんな存在だよっ!! あーもーめんどくせぇなー!」
「めんどくさい!? ……やっぱり、私なんて……何の役にも立たないまるで人に蹴られることのない石コロのよう……ううぅっ……」
「だーもうっ、泣くんじゃねーよっ! つーかメイル着てんだから抱きついてたら痛くないの!?」
「この痛みが……丁度いい……フッ」
ユラユラとした涙を落とし、口元を吊り上げて笑いながら格好付けて言うキィ。
お前、本当に葉っぱの効果出てんのかよ。
「良いから、離れろっ」
「私は邪魔な存在なのか?そうか……ならここから離れて海の底に……」
「いやもう、じゃあ近くにいろっ……」
「なっ!!!?」
「あ?」
「ヤラランが側にいろって……!! 告白っ!!?」
「いやなんでだよっ!」
ダメだ、理性がブッ飛んでやがる。
ここは1度――
「寝てろっ!!」
「ブフォッ!!?」
両手で握った渾身のゲンコツを脳天に叩き込む。
一瞬にして地に平伏し、キィはピクリとも動かなくなった。
「……他愛ない。ヤレヤレだぜ……」
変な知識を披露しようとするから悪いんだ、まったく。
フォルシーナも例外ではないが、ブワワッ草とはタチが悪い。
普通に考えれば、俺はいい思いができたんだろうけどもキィは半ば家庭的だろうと女らしくないからな。
胸が疼くこともない。
「……ハァ、戻るか」
キィが再び眠った以上、散歩はお預け。
しゃがんでキィの体を反転させる。
う〜ん……と唸りながらもなんとか仰向けにさせた。
その時だ。
谷間が見える程度に、胸元が少しはだけた。
「…………」
「……う〜」
キィは起きる様子もなく、ただ唸っている。
いやまぁ、ちょっとはだけただけだ。
胸の曲線が少し見える程度に。
というかなんでサラシ巻いたり長襦袢とか着てないの。
いや、必ずしろというわけでもないが、こういう時にどうするつもりなんだ。
……別に俺は何もしないが。
「…………」
胸元に目がどうしても目がいく。
特別デカイとは思えないがしっかりと胸の湾曲が見える。
もう少し広げれば丘の頂点も見えるんじゃないだろうか。
…………。
……いや、何もしない、うん。
俺はそんな奴じゃない、うん。
「……ハァ」
今日何度目かのため息の後、キィの体を抱え上げるーー。
――ドォオオオオオオオオ!!!
「んあっ!?」
それと爆音が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。
そんなに遠く離れてない緑の先から黒煙が上がっている。
衝撃が強かったからなのだろうか。
2つの結界が破れていることを悟るのに遅れたのは――。
「――フォルシーナッ!!」
明朝に目覚めれば東雲色の雲と太陽の曙光がセットになって、幻想的な空間を生み出している。
まだ花の蕾も成らない季節だが、黄緑色の葉っぱが陽に照らされ、風と戯れていた。
結界も張ってるし、折角の天気なのに移動もできないが木に寄りかかって腕組みをし、太陽を眺めるだけでも気分がいいものだ。
「……ねみー……あ、ヤラランもう起きてやがる」
「おはよう、キィ。俺はいつも早起きだっつの」
視界に入る範囲からのそのそと起き上がったのは金髪少女。
俺みたいにテキトーじゃないから土の上に布を敷いていて今綺麗に畳んでいる。
フォルシーナは何も敷いてないが、着物が汚れることを考慮しないやつだっただろうか?
しかもうつ伏せで寝ている。
「……昨夜、フォルシーナになんかあったのか?」
「あー、ずっと1人で喋ってたから私も寝ちまったよ。寝落ちってやつじゃないか?」
「……なるほどね」
察するに、話し疲れて倒れたんだろう。
ほっとけばそのうち起きるな。
「フォルも熱入ると煩いよな〜。昔からこんななのか?」
「昔からだよ。兎に角作りたいとか研究したいとか、そんなんばっかだ。面白くないこともかなり言うが、面白いことも多い。ちょっとは聞いてやれよ?」
「……それ、単に私に面倒を押し付けてるんじゃないよな?」
「さー、どうだかな」
「…………」
俺は陽を見て微笑んだ。
俺の言った言葉には嘘がないが、押し付けてるってのも少しはあるかもしれない。
「ま、フォルシーナはまだ暫く寝てるだろ。少し散歩でもしようぜ」
「上手く流しやがって……。散歩も良いけどよ、フォルが危なくないか?」
「書き置きと結界残しとけば大丈夫だろ。俺の結界はそう破れないからな」
「……それもそうか」
「おう、そうだよ」
フォルシーナの頭付近の土に木の棒でガリガリと書き置きを残す。
“散歩行く、ここで待ってろ”と。
風はそよ風といったところだし、これが土埃で消える頃には戻ってくるだろう。
いつもの防御の結界も張った。
フォルシーナの半径5mに近づけば感知し、2mには無色防衛を使った。
これなら同時に多数の攻撃を食らったりしなきゃ大丈夫だろう。
「行こうぜ。こんないい天気なのに、散歩しないのはもったいねぇよ」
「でも今日も歩……あ、飛んでくのか」
「そーいうこった。足いてぇなら無理しなくてもいいけど、来るか?」
「暇だしな。行くよ」
「りょーかいっと」
誰とも言わずに2人で歩き出す。
木々に囲まれ、道のなき迷路のような木立をスローペースで進んだ。
肌に感じる曙光は大した陽気さも無く、冷風を受けて甘く冷たく感じた。
まだ少し肌寒い。
が、フォルシーナが作ったマフラーなんてのを使う季節でもないのだった。
「なんつーか、ホント平和になったよな〜」
突如、両手を後ろにやって呑気に歩くキィが呟いた。
「なんでそう思う?」
「いやだって、平和じゃなきゃ散歩もできねーだろ。私はここまで気楽に生きられるとは、今まで思ってなかったよ」
「……っつても、まだやる事は山積みなんだろうけどな。平和は程遠いさ」
あの村なんて、大陸の何百分の一を満たすか満たさないかの領地だ。
統一ともなると先が長い。
「お前がいりゃ、あっと言う間な気がするんだけどな〜」
「おいおい、この先何があるかもわからねぇんだ。それに、あまり俺を頼りにすんなよ。」
「はいはいっ、わかったよっ。私も多少は強くなったし、頑張るわ」
「……そーだな」
できれば戦いなどなく、それこそ平和に事が運んで欲しい。
だが現実そう上手くいかないだろう。
まず不信感から入るような大陸だ、会話から入れればそれで上出来だろうが……。
憶測をしたところで結果はわからない。
今は散歩を楽しむとしよう。
「お。ヤララン、これ知ってるか?」
「あん?」
草を刈って進む中、キィが刈られた草からまん丸の草を掴む。
根の長い、葉の幾つもついた緑の草。
「知らん。なんだそれ?」
「ブワワッ草って言ってな、食ったら泣くんだ。おもしれーだろ?」
「いや、誰がそんなモン食うんだよ」
少なくとも俺は食べない。
泣いてなんか良いことあるのかよ。
「しかもとっても悲しい気持ちになれるんだ。すげぇだろ?」
「1から10まで凄くねぇよ。食いたいなら勝手に食ってろ」
「反応つまんねーなぁ……。まぁいいや、意外と美味いから食うぜ」
パキリ、と音を立てながらキィは葉っぱを食らった。
――途端、葉っぱ落とす。
ひらひら舞いながら緑が地に着くのとキィが這いつくばるのはほぼ同時だった。
「――うわぁああああああああああ!!!!」
「おおっ!!?」
そして突然の悲鳴。
大地が揺るぐとまではいかないが、震撼を感じさせる声量。
悲しむどころか底なしの絶望に打ちひしがれているようなーー
「だ、大丈夫かよ?」
「……わ、私は……」
「…………?」
「私は……この世に必要ない存在なんだ……」
「…………」
本当に絶望していた。
酷いな、ブワワッ草。
コイツは相当面倒臭さいぞ。
「……ヤララン! ヤラランッうわぁぁああああああ!!!」
刹那、俺の顔を見て泣きじゃくりながら抱きついてきた。
最早痛いぐらいだが、引きはがそうとしても全く離れる気配がない。
「落ち着けバカ! お前は必要だっつの! 変な思い込みすんじゃねー!!」
「本当か? 私なんかこの世の塵とゴミと深海に沈む魚のミイラをかき集めたような存在だろ……?」
「どんな存在だよっ!! あーもーめんどくせぇなー!」
「めんどくさい!? ……やっぱり、私なんて……何の役にも立たないまるで人に蹴られることのない石コロのよう……ううぅっ……」
「だーもうっ、泣くんじゃねーよっ! つーかメイル着てんだから抱きついてたら痛くないの!?」
「この痛みが……丁度いい……フッ」
ユラユラとした涙を落とし、口元を吊り上げて笑いながら格好付けて言うキィ。
お前、本当に葉っぱの効果出てんのかよ。
「良いから、離れろっ」
「私は邪魔な存在なのか?そうか……ならここから離れて海の底に……」
「いやもう、じゃあ近くにいろっ……」
「なっ!!!?」
「あ?」
「ヤラランが側にいろって……!! 告白っ!!?」
「いやなんでだよっ!」
ダメだ、理性がブッ飛んでやがる。
ここは1度――
「寝てろっ!!」
「ブフォッ!!?」
両手で握った渾身のゲンコツを脳天に叩き込む。
一瞬にして地に平伏し、キィはピクリとも動かなくなった。
「……他愛ない。ヤレヤレだぜ……」
変な知識を披露しようとするから悪いんだ、まったく。
フォルシーナも例外ではないが、ブワワッ草とはタチが悪い。
普通に考えれば、俺はいい思いができたんだろうけどもキィは半ば家庭的だろうと女らしくないからな。
胸が疼くこともない。
「……ハァ、戻るか」
キィが再び眠った以上、散歩はお預け。
しゃがんでキィの体を反転させる。
う〜ん……と唸りながらもなんとか仰向けにさせた。
その時だ。
谷間が見える程度に、胸元が少しはだけた。
「…………」
「……う〜」
キィは起きる様子もなく、ただ唸っている。
いやまぁ、ちょっとはだけただけだ。
胸の曲線が少し見える程度に。
というかなんでサラシ巻いたり長襦袢とか着てないの。
いや、必ずしろというわけでもないが、こういう時にどうするつもりなんだ。
……別に俺は何もしないが。
「…………」
胸元に目がどうしても目がいく。
特別デカイとは思えないがしっかりと胸の湾曲が見える。
もう少し広げれば丘の頂点も見えるんじゃないだろうか。
…………。
……いや、何もしない、うん。
俺はそんな奴じゃない、うん。
「……ハァ」
今日何度目かのため息の後、キィの体を抱え上げるーー。
――ドォオオオオオオオオ!!!
「んあっ!?」
それと爆音が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。
そんなに遠く離れてない緑の先から黒煙が上がっている。
衝撃が強かったからなのだろうか。
2つの結界が破れていることを悟るのに遅れたのは――。
「――フォルシーナッ!!」
コメント