連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/24/:魔法

「作業はえーよ」

 俺は不満気にそう口にした。
 善意と悪意の交換が可能になる、そんな話は聞いたこともないし、不可能だと思われるのが一般的な見解だろう。
 なのに、半年近くでやり遂げるとは、人間業じゃない。

「別に早くて悪いことはないでしょう。しかし、まだ試作段階なので効果は期待できませんがね」
「……善意とか、意志まで操れるんだな」
「いえ、魔力の質をそっくりそのまま入れ替えるだけなんですよ。あ、キィちゃんにも関わってきますから、ちょっと長い説明をしますね」
「えー、めんどくさ〜」

 キィが寝そべり、踏ん反り返って反抗するも、フォルシーナは刀を指差して説明を始めた。

「そもそも善魔力、悪魔力というのは身体実験による観測によって認められたもので、魔力の性質は二極化、さらにはその実験者の人生の所業から善意と悪意の関係性を導いたらしいんです。それは私達も周知しており、悪意の量と悪魔力の量は比例し、善意の量と善魔力の量は比例します」
「ヤララン、比例ってなんだ?」
「同じ分ずつ増えるってことだ」

 そう、だからこそ良い奴ほど強い。
 いくら筋肉を増やしたって良い奴には勝てないんだ。
 正義は勝つ。
 悪も勝つ。
 それがこの世界の法則――。

「でもって、魔力の性質は根本から変えることは不可能とされてました。増やす、減らす、というのも技術的に可能になるのは500年を要するという見積もりです。それは善悪平等によって内乱が絶えないから研究が進まないと私が見積もった結果ですが、私という天才が1人で研究してればなんとかなるもんなんですよ。その発展系が魔力質の交換です。魔力を交換する、さすれば善意と悪意も当然入れ替わる、という案です。まぁ意志が変わらなくとも魔力が変わればいいんですがね」
「話なげーよ。一言にまとめろ」
「あ、一言で言うと、私が天才って事です。いやぁ、それほどでも……」

 照れた素振りをして頭を掻き出す。
 ……異様にムカつくな。

「その銀髪、燃えカスになればいいのに」
「キィちゃんまでそんなことを!!?」

 俺の邪念を感じ取ったのか、キィが罵倒した。
 ほほう、結構仲良くなったもんで。
 半年あったから仲良くないとおかしいけどっ。

「しかし、よくやった。いろいろと役立ちそうだし、損のない開発だよ」
「フフン、それほどでも」
「ただ、技の名前はどうなんだ? お前のネーミング痛々しいんだけど」
「う、うるさいですっ! 文句言うなら使わなきゃいいんですよっ! ペッ」
「…………」

 唾を吐く真似だけするフォルシーナに俺もキィも若干引いた。
 ネーミング云々言ってもセンスだから仕方ないが……。

「……それで、持ち主は?」
「勿論、この刀はヤラランに持っててもらいます。マフラーもその紫はヤララン用で、神楽器に合わせて7こ作ってありますよ」
「……その剣は使いようによっちゃ、殺人よりヤベーだろ。7こも作る気かよ?」
「いえ。あと6つ刀はありますけど、魔力変換はこの刀のみです。こんなの貴方専用に決まってるじゃないですか」
「……あ、あぁ。そうか」

 まったく……と言いながらため息を吐かれる。
 こっちの不安もちゃんと考えてくれている、か。
 ほんとはお前もかなり善魔力あるんじゃねーの?
 そんなこと突っ込んでも正確な答えは返ってこないから言わないが。

「なぁなぁ、じゃあ私のマフラーと刀もあんの?」
「ありますよ〜。【羽衣天技】と魔力変換を行えない分、小技を幾つか組み込んどきました。誰もヤラランみたいにバカ魔力持ってませんからね〜。天技は難しいのですよ」
「おー、それは助かる」
「おいそこ、否定しろ!」

 素直に納得するキィに叱責するも、彼女はこちらを見て鼻で笑うだけ。
 バカにしやがって……。
 あれ、よく考えたらこれは褒められる点じゃね?
 なんで蔑視されてんの俺?

「さてさて、まぁ聞きたい事は一通り答えたつもりです」
「なんでもっと早く出さねーんだとか訊きてぇけどな」
「……いやぁ、忘れてたんです。ついさっき思い出しまして……」
「…………」

 やっぱり、その銀髪は燃えカスになっていいな。
 何も言わずに、目だけでそれを伝えてやった。

「折角魔法に付いて少し触れましたし、キィちゃんに魔法のおさらいを少ししましょうか」
「お前、今日はよく喋るなぁ……」

 俺は素直に感心した。
 暇だからって喋り過ぎだ。
 さっさと寝りゃいいのに。

「私も別におさらいなんていらねーんだけど」
「まぁまぁ、そう言わずに。復習とは何においても大事なのです」
「この中で一番学習能力なさそうなフォルが言うなよ……」
「……ふぅ、今日は空耳が多いこと多いこと。さて、では行きますよ?」
「えー……。しゃあねーな〜、おさらいすりゃいんだろ〜」

 キィはその場で肘と膝を当てて頬杖を作り、ふんぞり返ってフォルシーナに目をやった。
 すっかり蚊帳の外にいる俺は魔力消費の怠さもあって横になる。

「いいですか、魔法は世界との約束です。物質同士の取引を世界と人間でするのです」
「うんうん」
「だから○○魔法と言ったり、魔法の名称を言っておくとより効力が出るのです。世界との契約がしっかりしますからね。だから威力を出すときはちゃんと言うように」
「おー」
「それから、魔法の系統も覚えましたか?赤は?」
「筋力増強と火。青は?」
「水と温度変化です。ちなみに
 黒は影、物質、悪感情
 白は光、色、善感情
 黄は回復、雷
 無色は空間、力
 青は水、温度
 緑は風、植物
 となっております。わかりましたか?」
「おう、知ってた。だからもう終わりでいいか?」
「いえいえ、これからは私の魔法高理論と白黒魔法相互背反論を徹底して教えましょう!」
「木と話しててくれ」
「では話しましょう、まず――」

 その後、話に飽きたキィがフォルシーナを無視して寝たのは言うまでもない。
 ちなみに俺は2人が話している間に眠りについた。
 ……話、長い。

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